2021年 トルコの労働事情
国際労働財団(JILAF)ではトルコ労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み等について学ぶためのプログラムを準備していた。しかし、新型コロナウイルスの影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。以下は、参加者提出の資料のほか、「労働事情を聴く会」や参加者との意見交換を基に、外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。
トルコ労働組合連盟(TURK‐IS)
- セレン ケクリク(Selen Keklik)
- トルコ労働組合連盟 調査・研究エキスパート
- シェリフ セノク(Serife Senok)
- トルコ労働組合連盟 調査・研究エキスパート
トルコ真正労働連盟(HAK‐IS)
- ディララ スルタンクルンチ(Dilara Sultan Kilinc)
- トルコ真正労働連盟 総務局(国際担当)
- エスマ アシマート(Esma Acimert)
- トルコ真正労働連盟 総務局(外交担当)
- フェベン ゼウディ アッセファ(Feven Zewdie Assefa)
- トルコ真正労働連盟総務局
1.労働情勢(全般)
2019年 | 2020年 | 2021年 | |
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実質GDP(%) (出典元) |
6.7% (TURKSTAT) |
6.2% (TURKSTAT) |
21.7% 第2四半期 (TURKSTAT) |
物価上昇率(%) (出典元) |
15.18% (TURKSTAT) |
12.28% (TURKSTAT) |
16.42% 9月まで (TURKSTAT) |
最低賃金 (時間額・日額・月額) (出典元) |
☐時間(8.97TRY) ☐日額(67.33TRY) ☑月額(2,020TRY) (TURKSTAT) |
☐時間(10.32TRY) ☐日額(77.46TRY) ☑月額(2,324TRY) (TURKSTAT) |
☐時間(12.56TRY) ☐日額(94.20TRY) ☑月額(2,825TRY) (TURKSTAT) |
労使紛争件数 (出典元) |
1553 (2018年労働省) |
労働組合として未確認 | 労働組合として未確認 |
失業率(%) (出典元) |
13.7% (TURKSTAT) |
13.2% (TURKSTAT) |
12.1% 8月まで (TURKSTAT) |
法定労働時間 (出典元) |
7.5時間/日 (労働法) |
45時間/週 (労働法) |
時間外/割増率 50% (労働法) |
休日/割増率 100% (労働法) |
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通貨名:トルコリラ(TRY)1TRY=9.52円 2021年11月30日
2.基本情報
トルコ共和国は、ヨーロッパとアジアにまたがって黒海とエーゲ海・地中海をボスポラス海峡で隔てられ、国土は78万平方キロで日本の2倍、人口8300万人を有する共和制国家である。首都はイスタンブール、言語はトルコ語、宗教はそのほとんどがイスラム教である。
共和制をひき、元首は大統領の一院制となっている。日本との関係は深く1890年のエルトゥールル号遭難事件以降、日本との友好関係は良好である。
主要産業は、繊維・衣類の軽工業、自動車、観光業、貴金属が中心となっている。1990年代から経済は低成長を続けたが、その後持ち直した。2010年以降は個人消費と自動車産業が輸出の中心となって、G20グループの中でも高い成長率を誇っている。
名目GDPは7000億ドルを超え、一人当たりのGDPも8千600ドルを超えている。慢性的な貿易収支は赤字であるが、外国への出稼ぎ労働者による就労が多くその送金や観光収入によってバランスが保たれている。
ナショナルセンターは民間部門と公務部門に分かれており、民間部門ではトルコ労働組合連盟(TURK-IS)115万人、トルコ真正労働連盟(HAK‐IS)69万人のほか、トルコ進歩労働組合(DISK)が組織され、公務部門ではトルコ公務員労働組合連盟(KESK)があり、国際労働組合総連合(ITUC)に加盟している。
3.最近の労使紛争の状況
(1)問題発生時の対応
トルコでは職場における労使の問題が発生した場合、労働者はその権利と利益を保護するため、労働組合の代表に問題の内容を報告する。労働組合は私的仲裁人・強制的仲裁・法廷手段を活用することが出来るが、労働協約の中に紛争問題解決委員会等を設置する旨の条項がある場合は、先ず初めにこの委員会等に解決のための申請を行う。その委員会では解決のためのあらゆる努力を行い、それでも解決にたどり着かない場合は、県知事(地方政府)に問題を報告、これを受け地方政府は労働者と使用者間の社会的対話の実現をはかるように勧告する。労働組合は最終的にはストライキ権を持っており、それを行使することもできるが、あくまでも話し合いによる解決を目指している。
(2)労使紛争の背景と解消のための取り組み
トルコにおける労使紛争の背景について、その根本的問題は労働者の経済的理由がある。低賃金、インフレ、金利高、トルコリラの下落等によって最低賃金を向上させても家庭の支出が高くなり生活困難となっている。また、使用者は人件費の高騰によって雇用をためらって人手不足になるなど労使紛争の原因のひとつとなっている。
労働組合は経済的問題と社会的問題は不可分の関係であると考え、労働者の安全と安心、生活の向上は社会的問題と密接に関連させながら対処していく必要があるとしている。社会的、経済的、政治的権利が完全で自由なものとなるよう、公正で平等な教育の提供と普及、文化レベルの向上支援が重要と考えている。
そのためには、労働法が的確に労働者に適用され退職金、失業保険基金が維持され雇用保障の権利が実現されること、国民所得の公正な分配、間接税の軽減、公正な税制改革を求めている。加えて、雇用の創出・確保、失業者救済、地下経済と非合法雇用の排除、ディーセントワークと高い賃金水準の提供が大きな目的となっている。
労使紛争にあたっては、労使交渉と社会的対話を優先、組合員の権利と利益の保護のための広報宣伝と情報提供、意識の向上を行っている。
4.労働組合としての新型コロナウイルスの対策
トルコにおける新型コロナウイルスは、感染者880万人、死亡者7万7千人となって完全なロックダウンと非常事態宣言が発令され国民に大きな影響を与えている。
これに対して多くの労働組合は、都市閉鎖や工場閉鎖に反対の意思表明を行い、社会・経済を閉鎖することなく、予防と経済の両立を目指す立場をとっている。
健康保険制度によって医療の無償サービスが提供され、繊維産業の協力によってマスク、防護服が国民と医療従事者に無償で提供されている。しかしロックダウンによる所得の減少、病気休暇中の所得補償、短時間勤務や在宅勤務など従来の制度では対応できない状況も生まれている。そのためナショナルセンターは、社会的対話の枠組みの中で労使による行動が必要として政府への働きかけを行い、新しい政府との労働協約(公的枠組議定書)の締結を勝ち取ることが出来た。これにより、基本給の改善、年功加算の上積み、賃金の引上げ、福利厚生の改善がはかられた。
また感染予防対策として、オンライン形式による会議の開催、オンラインセミナーによる新型コロナウイルス関連の情報提供、ワクチン接種とPCR検査の推奨、組合事務所の定期的消毒、組合員へのマスク着用と消毒剤の配布等に積極的に取り組んでいる。