2020年 トルコの労働事情

2020年10月2日 報告

 本報告はCOVID-19パンデミック禍で、2020年9月28日~10月2日にJILAFが実施した「オンライン・スタディプログラム」において参加者の所属する2つのナショナルセンター〔トルコ真正労働連盟(HAK-IS)およびトルコ労働組合連盟(TURK-IS)〕が提出したトルコの労働事情に関するレポートを参照して作成した。なお本プログラムには、トルコ真正労働連盟(HAK-IS)から3名、トルコ労働組合連盟(TURK-IS)から2名の計5名が参加した。

トルコ真正労働連盟(HAK-IS)

エリフ ユルドゥルム(ELIF – YILDIRIM)
HAK-IS労使関係専門家

ファディメ ジャン(FADIME – CAN)
HAK-IS総務関係専門家

メルヴェ ユルマズ(MERVE – YILMAZ)
HAK-IS社会保障専門家

トルコ労働組合連盟(TURK-IS)

ギュルダーネ カルスルオール イェニ(GULDANE KARSLIOGLU YENI)
TURK-IS労働補佐専門官

イブラヒル テェティン シャンヴェル(İBRAHİM ÇETİN ŞANVERDİ)
TURK-IS労働補佐専門官

1.労働情勢

 実質GDPは、トルコ統計局(TUIK)発表のデータによると、2018年が2.8%、2019年が0.9%であった。2020年に入り、第1四半期(1~3月)は4.5%であったが、その後 COVID-19の影響を受け急激な景気減速となり、第2四半期(4~6月)はマイナス9.9%と大きな落ち込みとなっている。
 消費者物価上昇率は、2018年が16.3%、2019年が15.2%、2020年(見通し)が11.9%となっている〔IMF-World Economic Outlook Databases(2020年10月版)〕。
 トルコの最低賃金は、グロスでの最低賃金(税・社会保険料控除前の総額)とネットでの最低賃金(税・社会保険料控除後のいわば手取り額に世帯数に応じた生活保護手当を加算した金額)で表示される。トルコの最低賃金を月額で見ると、グロスでの最低賃金額は2019年が月額2,558トルコリラ、2020年が2,943トルコリラとなっている。一方、ネットでの最低賃金は2019年が2,020トルコリラ、2020年が2,324トルコリラである(ちなみに、2020年10月1日時点の為替レートは7.77トルコリラ=約1ドルである)。
 トルコ統計局(TUIK)発表の失業率は、2019年が13.7%であった。直近の2020年5月は14.0%となっている。
 トルコの法定労働時間は1日7.5時間、週45時間である。一方、時間外割増率は50%、休日割増率は100%である。

2.労働法制と社会保障制度

(1)労働法制について

 最初の労働法は1936年に制定された。その後、1971年に1475号労働法が制定され、現行の労働法は2003年に改正・施行された4857号労働法である。この労働法の目的は雇用主との契約に基づいて就業する労働者の労働条件および労働環境に関わる権利と義務を定めることにある。具体的には、雇用、労使関係、労働条件に関する権利と義務、契約解除、女性・未成年者の雇用、労働裁判所と裁判の手続き、罰則などについて規定している。
 そして、この4857号労働法を土台にして、「失業保険法」(4447号)、「社会保険および一般健康保険法」(5510号)、「労働安全衛生法」(6331号)、「労働組合・労働協約法」(6356号)などの関連法が制定されている。「失業保険法」(4447号)では、勤労意欲、能力、健康、適正に問題が無いにもかかわらず、一切の故意や過失を伴わずに失職した被保険者に対し、収入の損失分の一定の基準を一定期間補償することを定めている。「労働安全衛生法」(6331号)では、事業所における労働安全衛生の確保と安全、衛生条件の向上のための雇用主と被雇用者の任務、権限、責任、権利と義務を体系化している。「労働組合・労働協約法」(6356号)では、労働協約の締結、労使対立の平和的解決、ストライキやロックアウトに関する規定が定められている。

(2)社会保障制度について

 トルコの社会保障制度は、保険料の徴収による社会保険制度と国の財源をベースとした社会保障制度(社会扶助・社会福祉)の二重構造になっている。
 社会保障制度のもとで保障の対象となるのは、失業、労働災害、職業業、出産、身体障害、老齢・遺族年金などである。なお、社会保険制度について、それまで異なる規範と基準で運用し給付してきた「社会保険機構」、「自営業者保険組合」、「退職公務員向け年金基金」を2006年に単一の組織に統合する社会保障改革を行った。これによって、より効率的かつ迅速に運用可能なシステムになった。

(3)社会的対話について

 トルコでは社会的対話メカニズムが活発かつ効果的に機能している。労働分野では、労働者、雇用者および一般社会すべての当事者が労働秩序と規則、労働安全衛生、社会保障システム、社会支援システム、雇用確保、未登録雇用の問題、職業訓練といった事柄に関して、当事者が同じテーブルにつき、社会的対話の枠組みで考え方を共有し行動している。

3.未登録雇用(インフォーマルな雇用)をめぐる問題

 トルコの労働市場の特徴として、未登録雇用(インフォーマルな雇用)の比率が高いことが挙げられる。未登録雇用は1980年代以降、急速に拡がり始めた。2019年6月のTurkStatの報告によれば未登録雇用は既に33.9%にも達している。未登録雇用とは、使用者が政府の関係機関に対して雇用する労働者の就業日数や賃金額について一切報告しない、または過少に報告している場合を指す。トルコの社会保障や社会的保護は雇用を通じて提供される。そのため未登録雇用労働者はとなった場合は、労働法の規制や社会保障制度の恩恵を受けられないことになる。具体的には、①労働災害や職業病、出産・育児に関する権利や支援が受けられない。②就労不能になった場合の年金の支給や本人死亡時の死亡年金受給が受けられない、③退職金や解雇通知期間手当などの権利が発生しない、といった問題がある。
未登録雇用が多い業種としては、農業、建設工事、観光、ソーシャルおよび個人サービス、製造業、輸送業が挙げられる。加えて、シリアからの難民がトルコでの一時的な保護下にある現況が未登録雇用を増大させる一因ともなっている。

4.ナショナルセンターが現在直面している現状と課題

【トルコ真正労働連盟(HAK-IS)】

(1)トルコでは社会的対話が進んでいる。雇用者側との間で生じた様々な問題を社会的対話によって解消することが出来る。社会的対話を基本に据える労働組合活動によって、成果をあげた事例も多く見られる。

(2)トルコ真正労働連盟(HAK-IS)が抱えている最重要課題は、第696号法令により雇用された公共部門で働く労働者の賃金をめぐる課題である。第696号法令により下請雇用主が廃止され、政府が直接雇用できるようになった公共部門で働く100万人近くの労働者(正規雇用労働者、非正規雇用労働者、国有企業などで働く非正規雇用労働者)の賃金は、現行のインフレギャップ分が反映されていない状況にあり、最重要課題となっている。2018年の賃上げは、高等調停委員会が提示した「4%+4%」(各半期毎の賃上げ率)にとどまった。その後、現時点に至るまでインフレギャップ分が支払われず深刻な困難を生じさせている。トルコ真正労働連盟(HAK-IS)は、この件に関して40万人の組合員から請願署名を集め、「家族・労働・社会サービス省」に請願した。

【トルコ労働組合連盟(TURK-IS)】

(1)トルコ労働組合連盟(TURK-IS)が抱える最も重要な課題は、COVID-19パンデミックが労働市場に与える影響とその対応である。トルコ労働組合連盟(TURK-IS)は、パンデミック禍でのレイオフの禁止を働きかけている。現在、大統領決定により、無給休暇と解雇の禁止期間が2020年12月17日まで延長となった。併せて、短期労働手当の支給も2020年10月31日まで延長となっている。

(2)2020年のトルコの最低賃金(月額)は2,943トルコリラとなったが、税と社会保険料を控除した純最低賃金(ネットベースでの最低賃金額)では2,324トルコリラとなる。最低賃金から控除される税・社会保険料は計618トルコリラ(最低賃金額の21%相当)にも及ぶことになる。ちなみに、税と社会保険料を控除した純最低賃金額は2019年のデータで試算すると一人当たりGDPの半分にも満たないことが分かる。最低賃金で生活しなければならない労働者とその家族の生活を守るためには、最低賃金を早期に非課税にすべきだと考える。