2019年 トルコの労働事情

2019年8月1日 講演録

トルコ真正労働連盟(HAK-IS)
ムスタファ メルト テゼル(Mr. Mustafa Mert Tezer)

HAK-IS労使関係エキスパート
エミネ アイテキン(Ms. Emine Aytekin)
HAK-IS国際関係エキスパート
ギュクハン レジェップ ビシキン(Mr. Gokhan Recep Biskin)
HAK-IS総務部長

トルコ労働組合連盟(TURK-IS)
ケマル ドゥルマズ(Mr. Kemal Durmaz)

トルコ金属労働組合 ブルサ県ゲムリック支部長
メスット エルダム(Mr. Mesut Erdem)
トルコ金属労働組合 ブルサ県オスマンガジ支部長

 

1.基本情報

 面積は783,562平方キロで日本のほぼ2倍、人口は約8,300万人(2019年、IMF推計)である。政治体制は共和制をとっており、国家元首は大統領、議会は一院制である。
 主要輸出品目は、自動車・部品(13.9%)、機械類(8.7%)、貴金属類(8.5%)、ニット衣類(6.2%)であり(外務省資料)、主要輸出相手国はドイツ、英国、イタリアなど欧州諸国が中心である。
 トルコはインフレと通貨安が慢性的に起こる国とも言われ、通貨リラについては2011年頃から下落傾向にあり、2015年あたりからその傾向が更に強まっていた。2018年8月には、対米関係の悪化が引き金となり、リラが大きく下落し通貨危機の様相を呈した。その後は少し戻してはいるがリラ安は収まっておらず、経済活動に悪影響を与えている。
 そのような状況にあって、実質経済成長率は、2016年が3.18%、2017年は7.44%と堅調な動きを見せていたが、2018年は2.57%(IMFデータ)に落ち込んだ。更に2019年の第一四半期には▲2.6%まで落ち込んでいる。物価上昇率は2016年が7.78%、2017年が11.14%、2018年が16.33%で(IMFデータ)、インフレも深刻化している。一方、一人当たりGDP(名目)は自国通貨ベースでは2016年が32,682リラ、2017年が38,442リラ、2018年が45,132リラであるが、リラ安が続く中、米ドルベースでは2016年が10,817米ドル、2017年が10,537米ドル、2018年が9,346米ドルとなり(IMFデータ)、低落傾向となっている。
 失業率は2016年が10.91%、2017年が10.90%、2018年が10.96%で(IMFデータ)、10%を超える厳しい状況が続いている。最低賃金(月額)は2017年が1,777.5リラ、2018年が2,029.5リラ、2019年が2,558.4リラ(2019年7月12日のレート5.768リラ=1米ドルで換算すると443.6米ドル)となっている。
 労働組合のナショナルセンターは民間部門と公務部門で分かれており、民間部門においてはトルコ労働組合連盟(TURK-IS)が95.9万人、トルコ真正労働連盟(HAK-IS) が65.5万人、トルコ進歩労働組合連合(DISK)が16.1万人を組織している。公務部門についてはトルコ公務員労働組合連盟(KESK)など4組織が分立している。なお、ここに記載した4つのナショナルセンターについては国際労働組合総連合(ITUC)に加盟している。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)労働法制と社会保障制度

①労働法制
 最初の労働法は1936年に制定された。その後1971年に1475号労働法が制定され、現在の労働法は約30年ぶりに改正された2003年の4857号労働法である。労働法は使用者および労働者間の雇用関係を規定しており、雇用、労働関係、労働条件に関する権利・義務、契約解除、女性・未成年者の雇用、労働裁判所、裁判手続き、罰則について規定している。関係法令としては、「社会保障・一般健康保険法」、「労働安全衛生法」、「労働組合・団体交渉法」がある。なお、公務員には公務員法が適用される。

②社会保障制度
 2006年に「社会保障・一般健康保険法」が制定され、2007年にはそれまでの社会保険機構(SSK)と年金基金と自営業者向け保険機構(Bag-Kur)が統合し、社会保障機構(SGK)が創設された。
社会保障制度のもとで保障の対象となるのは、失業、労働災害、職業病、病気、出産、身体障害、老齢・遺族年金である。

(2)労働組合概況

 トルコでは公務部門と民間部門は別々に労働組合を組織しており、ナショナルセンターも別組織となっている。2018年現在、公務員総数は約243万人で、組合員数は約74.7万人、組織率は69%であるが、民間の雇用労働者は約1,412万人で、組合員数は約180.2万人、組織率は13%にすぎない。
 民間部門の労働組合は産業別に組織されている。全産業は法制度上で20セクターに分類されており、産業別組合はこの20セクターのうちのどれかに分類される。産業別組合は各地域に支部を置き、日常的には支部が各職場の労働者の諸課題に対応している。団体交渉は産業別組合と、当該組合員が勤務する企業の使用者との間で行われるが、交渉権を持ち労働協約を結べる組合として公的に認められるためには、当該セクターで働く全労働者の1%以上の加入があることが要件となる。トルコでは7名いれば労働組合を結成できるが、実際問題として交渉権を持たない組合では意味がなく、セクター内全労働者の1%以上を組織するというハードルをクリアすることは簡単ではない。なお、20のセクターには農業も含まれる。

民間部門のナショナルセンターに加盟する組合の数(2018年現在)

ナショナルセンター 加盟組合数
(産別)
内、労働協約締結
資格のある組合数
内、有資格のための
「1%」に達しない組合の数
TURK-IS 33 31
HAK-IS 22 16
DISK 21 16
独立労組 88 87
合計 164 53 111

(3)直面する諸課題

①困難な組織化
 組織化においては経営者からの圧力が障害となることが多い。労働組合の結成に際し、経営者は裁判所に提訴するという手段を行使することができる。裁判所扱いとなってしまうと決着までに3年を要し、その3年間は何もできず、結果して組織化は進まない。
 さらに、労働者が労働組合についての理解を欠き、関心が低いという問題があり、このこともまた組織化を非常に困難にしている。そこで、労働者の認識を変え、理解を深めてもらうための研修を含め、抜本的な対策が必要になっている。

②国の政策決定過程に十分に関与できない労働組合
 労使関係に関する法令の立案や経済・社会政策の策定過程に労働組合が民主的に参加する仕組みが不十分である。結果的に労働関係の法律の規定は使用者寄りで、労働者を守るという観点が弱いものになってしまっている。

③未登録雇用の増大
 未登録雇用は、使用者が関係機関に対して、雇用する労働者の就業日数や賃金額を過少報告している場合、さらには全く報告していない場合の両方を指す。未登録雇用労働者となった場合には社会保障制度の恩恵を受けられないことになり、そうした労働者が増えることは様々な社会問題を惹起する。
 2019年6月のTURKSTAT報告によれば、未登録雇用は既に33.9%にも達している。未登録雇用が多いセクターは、農業、建設業、観光業、社会および個人サービス業、製造業、運輸業である。
 未登録雇用労働者は社会保障が適用されないだけでなく、賃金も最低賃金を下回る場合が多く、更には長時間労働を強いられ、不規則で不安定な労働形態で働いていることが多い。こうした労働者にはシリアからの移民も含まれる。

④景気後退とインフレの深刻化
 景気が後退するとともに、インフレが深刻化している。そうした状況にあって、労働者の雇用を守ることと、労働者の賃金の目減りを防ぐことが非常に重要な課題になっている。失業率は既に10%を超える状況が続いており、組合は日々の舵取りが難しくなっている。