2019年 ヨルダンの労働事情

2019年8月1日講演録

ヨルダン労働組合総同盟(GFJTU)
イブラハム マゼン スリマン アルマアイタ
 (Mr. Ebraheem Mazen Suliman Al-Ma’ayta)

私立学校教職員組合青年委員会委員

 

1.基本情報

 面積は89,342平方キロで北海道とほぼ同じくらいである。東西南北をイラク、サウジアラビア、シリア、イスラエル、パレスチナといった国・地域に囲まれ、多くの移民(難民)が流入してきている。人口は約1000万人(2019年、IMF推計)であるが、移民(1年以上にわたり居住国を変更した人)は2017年現在で323万人強、移民比率は33.33%(国連データ)である。シリアからの移民(難民)は約64万人いるといわれている。
 政治体制は立憲君主制をとっており、国家元首は国王である。リン鉱石や天然ガスは採掘されているが天然資源にほとんど恵まれず、際立った産業や輸出製品もない。ヨルダン政府は、砂漠、死海、遺跡といった観光資源を活かした観光産業に力を入れている。但し、2011年からのシリア内戦やISILなどの過激派組織の台頭などの影響から、観光産業は大きな打撃を受けている。また、貿易収支では多額の支出超過となっている。全体として、経済は厳しい状況が続いており、さらには、難民の流入による公共サービス(教育、保健医療、給水など)の負担増で政府の財政は危機的な状況にある。
 実質経済成長率は、2016年が2.04%、2017年が2.12%、2018年が2.00%(推計)となっている(IMFデータ)。物価上昇率は2016年が▲0.78%、2017年が3.32%、2018年が4.46%で、上昇率が急速に高まりつつある。一方、一人当たりの名目GDPは2016年が4,151米ドル、2017年が4,202米ドル、2018年が4,278米ドル(IMFデータ、すべて推計)で、横ばい傾向にある。
 労働組合のナショナルセンターはヨルダン労働組合総同盟(GFJTU)で約12万人を組織している。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)労働基本情報

  • 厳しい経済状況の下で、失業率は2016年15.28%、2017年18.13%、2018年18.28%(IMFデータ)と非常に高く、深刻な状況が続いている。
  • 最低賃金については、2017年までは月額190ヨルダン・ディナール(約268米ドル)であったが、2018年からは月額220ヨルダン・ディナール(約310米ドル)となった。
  • 法定労働時間は1日8時間、週48時間で、時間外の割り増し率は通常1.25倍、休日は1.5倍となっている。
  • ヨルダンでは労働組合は企業別ではなく産業別に組織されており、ヨルダン労働組合総同盟(GFJTU)は17の産業別組合で構成されている。

(2)直面する諸課題

 周辺地域における政治・経済状況の影響を大きく受けることがヨルダンにとっては大きな問題であるが、労働をめぐっては以下のような課題を抱えている。

①雇用をめぐる問題
 経済成長が低迷し厳しい経済状況が続いており、そのもとで失業率は19%にも達しつつある。とりわけ難民・移民が人口のかなりの割合を占める状況下にあって、ヨルダン人の雇用がひっ迫している。また、求人と学歴のミスマッチが起こっており、高学歴者には見合う職がみつからない。同時に、インフォーマル経済が拡大し、インフォーマルセクターで働く労働者が労働力人口の40%にも達している。他方、女性の労働市場への参加率は14%程度と、低い水準にとどまっている。
インフォーマルセクターで働く労働者の増大など、雇用をめぐる問題はGFJTUが直面する重大な課題となっている。

②低組織率と難民労働者
 現在、組織率は15%程度にとどまっており、難民労働者の組織化が課題の一つになっている。難民労働者は地域的な広がりをもって生活するようになっている。彼らを産業別に組織化することは制度上可能であるが、実際は難民労働者を組織化するのは非常に困難である。
 GFJTUとしては、難民労働者の問題については、労働省や国際的な組織・機関とも協力して取り組んでいる。組織化のみならず、労働許可の問題なども含めた取り組みを行っている。

③労働法制の改正
 2019年4月に労働法制が改正された。この改正においての大きな問題は、労働組合の執行部の選任・解任権を労働大臣が持つことになったことである。これにより、組合の自治権が大きく侵害されることとなった。
 他方、パートタイム労働者や家事労働者の待遇改善に関する内容、女性労働者が家庭生活とのバランスをとれるような措置、性による差別を禁じるための措置、父親の育休取得に関する内容なども含まれ、これらは歓迎できる改正となっている。

④社会保障制度における課題
 ヨルダンでは、労災保険、失業保険、出産保険、老齢保険など、社会保障制度は比較的整備されている。しかし、労働者向けの健康保険が未だ制度化されておらず、課題となっている。

⑤多国籍企業をめぐる課題
 ヨルダンでは多国籍企業は衣料、銀行、その他サービス業に集中している。しかし、多国籍企業が法律を守らない、労働組合を認めないといった事態が散見され、具体的には繊維や銀行のセクターで問題が起こっている。