2018年 ブラジルの労働事情

2018年7月19日 講演録

ブラジル中央統一労働組合(CUT)
アドリアナ オリヴェイラ マガラエス(Ms. Adriana Oliveira Magalhaes)

CUTサンパウロ州支部 コミュニケーション担当コーディネーター
レアンドロ アルベス オリヴェイラ(Mr. Leandro Alves Oliveira)
サンパウロ州大学教職員組合 書記長

労働組合の力(FS)
アレックス アルベス ロペス(Mr. Alex Alves Lopes)

ポルトアレグレ商業労働者組合 執行委員

ブラジル一般労働組合(UGT)
ジョジマール アンドラード デ アシス(Mr. Josimar Andrade de Assis)
 
サンパウロ商業労働者組合 局長
チアゴ レアンドロ ガルシア(Mr. Thiago Leandro Garcia)

UGTサンパウロ支部 技術革新担当執行委員

 

1.基本情報

 面積は851.2万平方キロ、日本の約22.5倍と広大な領土を有している。人口は約2億8百万人、政治体制は連邦共和制をとっている。
 経済成長率(実質)は、2014年が0.51%、2015年が▲3.55%、2016年が▲3.47%、2017年は0.98%(IMF)となっている。南米随一の工業国であり、主要産業は繊維、靴、化学、セメント、木材、鉄鉱石、錫、航空機。また、世界有数の農業国(砂糖、オレンジ、コーヒー、大豆など)でもある。輸出品目は鉄鉱石が13.4%で最大、次に大豆 9.4%、原油 5.4%と続いている。物価上昇率は、2014年が6.33%。2015年が9.03%、2016年が8.74%、2017年は3.45%(IMF)となり、インフレは沈静化してきている。また、一人当たりGDP(名目)は、2014年が約12,110米ドル、2015年が約8,802米ドル、2016年が約8,670米ドル、2017年は約9,895米ドル(推計)(IMF)である。
 失業率は2014年が6.79%、2015年が8.31%、2016年が11.26%。2017年が12.77%、2018年3月が13.00%(IMF)で、上昇傾向が続くとともに深刻化している。最低賃金は、時間額で2016年4.00レアル、2017年4.26レアル、2018年4.34レアルで、2018年7月18日現在のドル換算では4.34レアルは1.13ドルに相当する。なお、月額では2018年は954レアルに引き上げられ、ドル換算では約248ドルに相当する。
 政情は、2018年10月に4年に一度の大統領選挙が実施されることから、選挙をめぐる動きが活発化している。しかし、国民の間で支持率が一番高いルーラ元大統領(労働者党)が収賄の罪で2018年4月7日に連邦警察に収監されたことから、選挙の行方に不透明感が高まっている。なお、現大統領のテメル氏(民主運動党)は、2016年のルセフ前大統領(労働者党)の弾劾・罷免で副大統領から昇格し、財政確立と投資環境の改善を重視して取り組む姿勢を示してきたが、政権発足6カ月で建設、石油、食肉など各種産業に関わる贈収賄事件で6人の閣僚が辞任、自身も収賄罪で起訴されるなどして支持率は一桁台という状況にある。
 労働者を束ねる主なナショナルセンターはブラジル中央統一労働組合(CUT)(組合員数約793万人)、ブラジル一般労働組合(UGT)(約490万人)、ブラジル労働組合の力(FS)(約600万人)の3組織である。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)労働を取り巻く現状-社会的諸政策の後退

 現テメル政権のもとで実施されてきた諸政策によって、ブラジルの社会的分野における政策が10年も後退してしまったような状況になっている。具体的には以下のような点が挙げられる。

① 教育、保健、社会保障分野への歳出抑制
 政府の歳出を20年間抑制するとされる憲法改正が行われ、国民の生活や文化レベルに大きな影響がある教育、保健、社会保障分野への歳出抑制が現実のものとなった。例えば、社会保障分野における様々な給付を削減する動きが始まっている。
② 労働法の改正
 2017年11月11日に改正労働法が施行された。その内容は労働規制の緩和であり、労働時間の柔軟化が行われ、ゼロワーク契約(時間契約の自営業扱い)、テレワーク、労働時間銀行、休暇の分割取得、断続労働(固定の勤務時間を持たずに時間当たりで報酬を受ける)などが盛り込まれた。これらは、新たな労働契約形態の活用を促進し、賃金水準の引き下げや、解雇の増大、非正規労働者やインフォーマル労働者の増大、さらには失業率の増大などにつながっている。
 さらには、労働組合税の制度(政府が、勤務1日分の給与と同等の額を全労働者から徴収し、これを労働組合に配分する制度)が廃止され、組合費の支払は各労働者の任意で行われることとなった。これにより、労働組合の財政が大きく弱体化し、活動が制約される状況に至っている。
 これらは政府と企業が手を組んで行っている反労働組合的な政策であり、背景には企業の労働組合敵視がある。

(2)直面する課題と解決に向けた取り組み

① 課題
 組合が直面する課題は次のような点である。企業による労働組合敵視、労働法改正がもたらした多くの課題、とりわけ、労働組合財政の弱体化、インフォーマルセクターで働く労働者の増大、失業率の増大などが深刻である。
② 課題の解決に向けた取り組み
 労働組合財政の弱体化に対しては、組合構造の再編戦略や組織化戦略を策定するとともに、組合新聞・組合ウェブサイト・フェイスブックなどを通じた労働者への働きかけ、組合の存在感の強化などに努めている。
 失業率の高まりに対しては、UGTのサンパウロの商業労働者組合が大キャンペーンを行った。具体的には、UGTの組合の建物を開放し、多国籍企業を含む10企業を招いて就職のマッチングを実施した。企業には2,000の就職口を用意してもらい、そこに就職を希望する1万人の失業者が集まり、面接を実施した結果2,000人の雇用につながった。このキャンペーンのねらいは2つあり、1つは政府関係者から「企業経営は順調で、失業率も下がっている」という喧伝がテレビを通じて頻繁にされていたが、その実態は多くの失業者が存在し、その多くが職を求めているということを広く証明したいと考えたことであり、2つには、労働組合の重要性を多くの人に知ってもらいたいと考えたことである。
 また、労働法が改正されることになった背景には現政権の超新自由主義的な考え方が存在する。したがって、政府の政策を転換させることが労働者のために必要となっている。そこで、10月に行われる選挙(大統領選挙と総選挙)においては、社会的なものの見方ができる議員が多く選出されるように、労働者が最大限結集していかなければならない。そもそも、現政権はルセフ前大統領を弾劾・罷免に追い込みクーデターで政権を奪取したとの謗りを免れない。その上、現政権のもとで繰り出される度を超した新自由主義的政策は許容の範囲を超えている。国民に一番人気のあるルーラ元大統領の投獄も同氏の大統領選への立候補を不可能にすることを目的として行われたものと受け止めざるを得ない。ブラジルの労働組合はいくつかのナショナルセンターに分かれているが、選挙に勝利するために結束していきたい。