2018年 アルゼンチンの労働事情

2018年7月19日 講演録

アルゼンチン労働総同盟(CGT)
ホセ ルイス ロペス(Mr. Jose Luis Lopez)

アルゼンチン建設労働組合(UOCRA) 青年委員会コーディネーター

 

1.基本情報

 面積は278万平方キロ、日本の約7.5倍と広大な領土を有している。人口は約4千4百万人、政治体制は立憲共和制をとっている。
 経済成長率(実質)は、2014年が▲2.51%、2015年が2.73%、2016年が▲1.82%、2017年は2.86%(IMF)となっており、安定的成長軌道にのっているとは言えない。主要産業は食品加工、自動車、耐久消費財、繊維、化学、石油化学であるが、国土の70%が平原であり世界有数の農業国(油糧種子、穀物、牛肉)でもある。輸出品目では、農畜産物加工品が約34%を占め最大であるが、輸送機器も約12%と一定の割合を占めている。物価上昇率は、2014年以降は20%を超える状況となり、2016年が36%、2017年が24.8%(注:数字は報告者による)と、高インフレが続いている。また、一人当たりGDP(名目)は、2014年が約13,209米ドル、2015年が約14,895米ドル、2016年が約12,709米ドル、2017年は約14,467米ドル(推計)(IMF)である。
 失業率は2016年が9.3%、2017年が9.2%、2018年1~3月が9.1%で高率が続いており、最低賃金は、月額で2016年8,000アルゼンチン・ペソ(通貨安が加速し通貨危機状態に陥っている2018年7月18日現在のレート「1ドル=27.51ペソ」で換算した場合、約291米ドル)、2017年8,860ペソ(同、約322米ドル)、2018年9,500ペソ(同、345米ドル)である(注:数字は報告者による)。
 政治面では、2015年の大統領選挙で、それまでの与党で労働団体が支持する「正義党」が分裂する中で、中道右派系のマクリ氏が正義党候補を破り当選したことにより、前政権からの大きな政策転換が行われることとなった。新自由主義的路線への転換のもと、規制緩和と緊縮財政を重視する政策が展開され、さらには労働法制の規制緩和も提案され、労働組合は反発を強めている。また、米国の金利上昇を引き金とする資本流出が主な原因で、アルゼンチンの通貨、ペソの相場が急落し、マクリ政権は2018年5月に国際通貨基金(IMF)からの融資受け入れに踏み切ったが、国民にはかつての財政破綻(デフォルト)の経験もあり、不安が広がっている。
 労働者を束ねる最大のナショナルセンターはアルゼンチン労働総同盟(CGT)で約600万人の組合員を擁している。

2. 労働を取り巻く現状と課題

(1)労働を取り巻く現状 - 危機にさらされる雇用

 2015年に大統領に就任したマクリ政権が推進する経済政策のもとで労働者の状況が悪化している。とりわけ、緊縮財政のもとで公共事業予算が削減されたことで建設業界は大きな影響を受けており、雇用が失われていっている。今後も公共事業予算の削減が続けば、建設業では4万人分の雇用が危機にさらされることになる。失業率が9%台で高止まりしており、建設業は産業の中でも重要な産業であるだけに深刻な悪影響を心配している。
  また、アルゼンチンでは、労働者の権利を擁護するために果たしてきた労働組合の努力には長い歴史がある。しかし、政府当局は、競争力を阻害し成長への障害となっているのが既存の労働スキームであるとの立場をとっている。そのもと、グローバル化に対応し国際競争力を強化するために労働条件を柔軟化しようとする試みが頻繁に行われるようになってきており、労働者の権利を低いレベルに合わせようとする均質化や社会的ダンピングなども起きている。

(2)直面する課題と解決に向けた取り組み - 期待される社会対話

 課題としてとらえ、力を入れている活動分野は以下のとおりである。

  • 公共事業予算削減政策の転換
  • 各級レベルにおける団体交渉
  • 賃金の購買力を守ること
  • 賃金格差の是正
  • 労働安全衛生法制を順守させる取り組み
  • 男女平等の促進
  • インフォーマル労働の削減
  • 強制労働、児童労働の根絶

 また、課題の解決に向けた取り組みとして重視しているものに三者構成による社会対話がある。労働組合ナショナルセンター、政府、産業界の代表による社会対話を通じて問題を解決しようと呼びかけており、組合としては、公共事業予算削減策ではなく、新たなプロジェクトへの投資を通じて経済活性化を図るべきだとの考え方を提起している。