2022年 メキシコの労働事情

2022年8月5日 報告

 国際労働財団(JILAF)ではメキシコ労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、労使関係と生産性運動、労使紛争未然防止の取り組み労働委員会の活動について学ぶためのプログラムを準備作成した。しかし、新型コロナウィルスの影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も開催が不可能となったことから、今回はナショナルセンター・参加者から提出された資料に基づき、参加者との意見交換や外務省、JETRO、JILAFの資料を参考にまとめたものである。

ナショナルセンター メキシコ労働組合連盟(CTM)

ナショナルセンター メキシコ労働者全国連合(UNT)

 

1.基本情報

 メキシコ合衆国は北米大陸の南部に位置し、北はアメリカ南はグアテマラと国境を接し大西洋、カリブ海メキシコ湾に面している。国土は196万平方㎞で日本の約5倍、人口1億2900万人で首都はメキシコシティーである。宗教は主にカトリックで言語はスペイン語、政治体制は連邦共和制をひき二院制である。かつてはアステカ帝国としてほこり、その後スペインの植民地となりメキシコ独立革命を経て現在に至る。日本との関係は1600年初頭から始まり、移民も多く対日感情も良く多くの日系企業が進出している。
 経済的指標は、実質GDP成長率4.8%、名目GDP総額26兆2740億ペソ、一人当たりの名目GDP21万5500ペソ、消費者物価上昇率7.4%、失業率4.1%となっている。経済開発協力機構(OECD)アジア太平洋経済協力(APEC)北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国であり経済規模は世界第16位、中南米ではブラジルに次ぎ第2位となっている。
 主な産業は、鉱業資源産業(銀、銅)、石油産業、自動車産業、電気・電子産業、航空宇宙関連産業などで工業化が進んでいる。主な輸出先はアメリカ、日本、カナダ、スペインで工業製品、自動車部品、電気・電子機器などである。アメリカ、中国、日本から金属加工機械、農業機械、航空機用部品、プラスチック、天然ガス等を輸入している。
 ナショナルセンターは大きく2組織に分かれ、メキシコ労働組合連盟(CTM)組織人員約450万人、主な産業別業種は(石油、電機、食品、ホテル、石油化学、建設)と、メキシコ労働者全国連合(UNT)組織人員160万人、主な産業別業種は(テクノロジー、情報通信、航空、自動車組み立て、農業)となっている。それぞれITUCに加盟している。

2.労働情勢

 新型コロナウィルスの影響として、パンデミックで230万件の雇用が失われ、特にインフォーマルセクター雇用者が影響を受けた。加えて、若者と高齢者も影響が大きかった。比較的低収入の仕事が影響を受けその後の回復も遅れている。また、社会保険制度が充実していないため医療の様々な問題と専門医不足による労働者の保険医療制度が十分に機能していない。こうした中、早期雇用回復のための政策、新たな教育改革、団体交渉や民主的労働運動を目指した労働改革が行われようとしている。

3.最近の労使紛争の状況

(1)労働争議の概要

 メキシコでは、労働争議に対応するための複数の規定があり、集団的労働契約によって集団的または個別的に労働者に利益をもたらす一定の活動が規定されている。これは、企業・従業員・組合・労働者・管轄する労働当局の間の協定であり、昇給・手当・社会保障・住宅基金・交通費・食費・制服等が規定されている。
 パンデミックの影響をいくつかの機関と研究所は

  • メキシコの雇用全体の44%が労働時間の減少や賃金引下げのリスクに直面している。
  • 経済の回復に比べ雇用の回復が遅れている。
  • 最も影響を受けた業種は、製造業、商業、不動産業、宿泊業、食品加工業、観光業。
  • 2022年四半期、就業人口は50万人減少したが、内訳はインフォーマルセクターの雇用者が60万人減少してフォーマルセクターの雇用が10万人増加したことによる。
  • 労働力と労働時間がマッチングしていない。
  • 400万人の女性労働者が十分な労働時間が提供されず、720万人の男性労働者が不完全な雇用状態にある。

 と調査報告している。

(2)労働争議の原因と内容

 2017年のアブラテル・インターナショナル社の争議
 メキシコのソノラ州でアブラテル社の従業員の週給未払い事由が発生。ソノラ州の元知事とアブラテル社社長との不適切な関係が背景にあって、週給未払いは3週間続き労働者利益分配金も支払いがないため従業員がストを決行したことから争議が発生した。従業員はCTMに支援を求め、CTMソノラ州支部書記長が中心となって全面的支援が行われることになった。アブラテル社には会社側と結託した「労働組合」があり、不正行為や労働者搾取に加担していた。各種基金や社会保険料さえ未納な状態にあって、従業員の中には医療保険を受けられない者まで出る状況となっていた。
 1200名の従業員は、労働者の権利を要求するためのストを実行したが、これに対して会社側は脅しや脅迫、支払い拒否を続け法的な義務さえ遵守されなかった。さらに、不当解雇まで行なう状況に発展し、CTMは調停仲裁委員会に集団申し立てを行った。その内容は、未払い賃金、労働者利益分配金の支払いや、基金や社会保険料の支払い、従業員に対する報復行為を行わない事である。
会社側は、関係機関・従業員代表・会社代表が署名する書類を受け入れ、ストによる経済的損失を免れた。しかし会社は再び賃金の未払いや保険料を納めることはなく、労働当局もこれに対する対応をしなかった。
 従業員を代表するグループはCTMとともに集団的労使紛争調停委員会に提訴、従業員の権利を守るための圧力をかけた。アブラテル社社長は様々な状況から従業員の要求を受け入れたに見えたが、またしてもCTMの組合代表権に反対する訴訟を起こした。

(3)労働争議の結果

 CTMが支援する労働者は集団ストを実施、会社と結託する「労働組合」と組合代表権を争った。その後、会社と労働者の間で労働者の福祉を遵守するための協定が結ばれ一定の前進が見られたが、会社側は再び憲法権利保護請求を行い紛争は継続している。労働当局と司法当局は経営側との癒着関係が続いており法的な対応が行われていない。

4.労働組合としての新型コロナウィルスの対策

 メキシコで最もパンデミックでの影響を受けた業種は観光業と建設業で、これらの産業は有期雇用が多く雇用の低迷と正規雇用の減少が続いている。そのため、政府に対して雇用の維持・雇用保険の維持継続・失業保険の保護・労働時間の尊重・ワークライフバランス政策について要求。
 航空業界では、メキシコ航空パイロット労働組合連合とアエロメヒコ航空との間で労働条件の見直しをはかり、雇用と会社存続を保障するため会社再建ピロセスの途中経済的闘争を行わない事を確認した。