2019年 ベトナムの労働事情

2019年12月12日 講演録

ベトナム労働総同盟(VGCL)
グエン ヒュー ラン(Mr. Nguyen Huu Long)

VGCLラオカイ省副会長兼VGCL中央執行委員会委員

チャン ドァン チュン(Mr. Tran Doan Trung)
VGCLホーチミン市支部副支部長

ヴゥ ホァイ フン(Mr. Vu Hoai Phuong)
VGCLファンナイ省支部副支部長

ホァン ティ ヴァン アン(Ms. Hoang Thi Van Anh)
VGCL財務部職員

レー ティ ハー(Ms. Le Thi Ha)
VGCL行政部職員

 

1.ベトナムの労働情勢(全般)

2017年 2018年 2019年(見通し)
実質GDP(億ドル) 2,239億ドル 2,449.5億ドル 2,616億ドル
物価上昇率(%) 3.53 7.1 6.8
最低賃賃金
(ベトナムドン)
月額:3,750,000 月額:3,980,000 月額:4,180,000
労使紛争件数(
ストライキと集団的仕事放棄)
314 207 (67)
(2019年6月まで)
失業率(%) 1.62 2.00 2.00(第2四半期)

〔法定労働時間〕8H/日、48H/週
〔時間外割増率〕時間外割増率(平日):150%、休日割増率:200~300%
 注)為替レート:1ベトナムドン=0.0047円(2019年12月現在)

詳細は上記表の通りである。
 今年(2019年)の最低賃金は、月額で418万ベトナムドンとなっている。
 ベトナムにおける労使紛争(ストライキや職場を離れてデモを行うなどの集団的職場放棄、2019年はストライキ)の件数は、2017年が314件、2018年が207件である。そして、今年(2019年)は6月までの半年間の累計で67件(ストライキ)となっている。このように労使紛争の件数は年々減少傾向にある。
失業率は、2018年および今年(2019年)第2四半期末時点ともに2%程度となっている。
 法定労働時間は、1日8時間、週48時間と定められているが、一般労働者と公務員に関する規定は異なっており、公務員の1週間の労働時間は40時間となっている。

2.ベトナム労働総同盟(VGCL)の組織体制

 VGCLの組合員数は1,030万人で、地方組織数は63地方組織、組合数は126,760組合である。産業別組織は、公務員、保健、工業および商業、繊維・被服、建設などの業種分野に20産業別労働組合がある。こうした現状の中で、VGCLは5年毎に開催される次期定期大会の2023年までに、さらに組織を拡大することとし、1,200万組合員への到達を目標として掲げている。

なお、VGCLの組織は、次の4層体制で運営している。
 第1層:ベトナム労働総同盟(中央)
 第2層:地方別の労働組合、ベトナム労働総同盟(中央)に直轄されている大企業(国営企業)の労働組合、分野別(産業別)労働組合
 第3層:地方の中の県・区・町など行政区分毎の労働組合、工業団地、加工地区、地方直轄の国営企業の労働組合
 第4層:企業別の労働組合

3.ベトナムの労働法制と2019年改正労働法(2021年施行)について

 ベトナムには、労働法典(包括的規定)、雇用法(労働法典に基づいて具体的な労働・雇用条件などを定めた法律)、医療保険法、社会保険法がある。
 2012年の労働法典(現行法)では、使用者と被雇用者の間に労働契約が存在することが定められている。そして、労働契約によって労働する場合は「強制社会保険」に加入しなければならないことも定められているが、この「強制社会保険」とは別に「任意社会保険」もある。これは非正規労働者や労働契約の無い労働者で加入を希望する場合、その対象となる。
 なお、今年(2019年)11月の国会で労働法典が大きく改正されることとなった。この改正労働法典は2021年1月から施行される。
 以下、労働法典の主な改正ポイントを紹介する。

  1. 労働基準に関する規定が改善され、非正規労働者やインフォーマルセクター労働者に対する一部の規定が見直された。このことによって非正規労働者やインフォーマルセクター労働者の労働条件改善に繋がることになった。
  2. 雇用法は全ての被雇用者に対する改定が行われ、医療保険法はすべての国民を対象とする改定が行われた。
  3. 特に男女平等を目指しており、女性労働者に対して特別な待遇や制度を定めることになっている。具体的には、女性労働者の雇用の機会・安全性・健康への配慮など詳細項目の改定が盛り込まれることになっている。
  4. 定年年齢が大きく引き上げられることになる。現行法では男性が60歳、女性が55歳だが、改正では男性が62歳、女性が60歳に段階的に引き上げられることになった(男性は2028年まで、女性は2035年までの段階的な引き上げの措置)。

4.ナショナルセンターが直面している課題と取り組み

  1. (1)多くの企業では、職場での被雇用者との対話が形式的なものとなっているため、労働者や組合員の不満が解消されていない。団体交渉が行われ、団体協約が結ばれても、それは実質的に交渉が行われた結果というよりは、使用者側の好意による内容の場合が多い。労使交渉・労使対話の質的改善が求められる。
    こうした中で、VGCLは、同じ地域の企業グループや同じ業界の企業グループの団体交渉と団体協約締結の取り組みを推進しているが、この試みは順調に推移しており、今後も拡大していくものと思われる。
  2. (2)社会保険加入の義務から逃れる行為が多くの企業で横行している。そうしたケースの場合、当該企業の廃業や経営者の逃亡などで、労働者側は大きな被害を受けることになる。その場合、VGCLは当該企業を裁判所に告訴する取り組みを行っており、初期の段階では一定の成果をあげている。また、地方自治体や関連機関と協力しながら被雇用者の社会保障制度に関する権利の保護をはかるよう努めている。

4.多国籍企業の動向などベトナムにおける最近の労働事情

 ベトナムにおける労使紛争の件数は年々減少傾向にあるものの、外国直接投資(FDI)
 セクターで労使紛争が起こる割合は極めて高い実態にある。特に、縫製、革靴、水産加工、木材加工、電子加工の企業に集中している。ちなみに、2019年上半期に起きたストライキによる労使紛争67件のうち、82%が外国直接投資(FDI)企業で起こっている。中でも多いのは韓国、台湾、中国の企業である。そして、これらの労働争議は、給与や賞与の未払い、残業代の未払い、などが主な原因となっている。
 上記企業の賃金は基本的に低く、時間外労働が常態化しているのが一般的で、中には、最大年間300時間の規定をオーバーするケースも多い。
 また工業団地や輸出加工区の35歳以上の女性労働者の雇用は安定していない。そして、専門的スキルを持っている労働者と、そうでない労働者の賃金格差が非常に大きい点も指摘される。