2019年フィリピンの労働事情

2019年6月27日 講演録

 国際労働財団(JILAF)では、将来を嘱望される各国(フィジー、インド、ネパール、フィリッピン、スリランカ)若手労働組合活動家を招へいし、それぞれの国の労働運動に活かしてもらう観点から、日本の労働事情や建設的な労使関係などを学んでもらった。そのプログラムの一環として、各国の労働を取り巻く現状や課題などの共有化を図るため、6月27日(木)に「労働事情を聴く会」を開催した。
 以下は、その報告の特徴的概要をまとめたものである。

基本情報

 フィリピンは西太平洋に位置し、7000を超える島々からなる東南アジアの国である。その面積は約30万平方キロ(日本の約8割)、人口は1億700万人(報告者)、民族はマレー系が主体である。国民年齢の中央値は23.5歳であり、若年人口比率が高い。国民の9割あまりがキリスト教徒であり、アセアン唯一のキリスト教国となっている。政治体制は立憲共和制で2院制をとっている。主要産業は、農林水産業(従事者は全人口の2割強)とサービス業(約6割)である。(GDPベースでの産業分野比率では、サービス業約60%、製造業約30%、農業約10%)
*主な概要は外務省情報による。その他の基本情報は以下の報告内容を参照されたい。

フィリピン労働組合会議(NTUC Phl)
チェストナッツ ジョ フェディジャス タピアドル

フィリピン女性労働組合 教育局長

ジャッキー カストロ ジャプソン
ホンダパーツ従業員労働組合 理事

 

経済と労働を取り巻く現状と課題

1.成長続けるフィリピン経済-その恩恵に浴していない国民・労働者

 フィリピン経済は成長を続けている。その成長率は2017年6.7%、2018年6.2%とアセアン加盟国の中でも高い水準にある。輸出は伸びているが依存度は低く、一方で成長に伴う輸入の拡大で経常収支がアンバランスをきたしたりもしたが(2017年)、アジアや中東などで働く1000万人を超える在外フィリピン人からの送金や、急成長するサービス業などでバランスさせ、その後も成長を維持している。ただ、その恩恵に国民・労働者が浴していないという実態も浮き彫りになっている。

[不安定な雇用状況]

 雇用の実態だが、生産年齢人口(15歳~65歳)7200万人存在しているが、実際に働く意思と能力のある労働力人口は4350万人、就業者比率は95%(4130万人)、失業率は5%(220万人)となっている。また、就業比率の中身だが、賃金・給与労働者65%、無給の家内労働者26%、自営業者4%、そして家族経営事業の雇用者5%、非正規労働者は就業者総数の50%となっている。要は、成長の恩恵としての雇用創出がうまくいっていない、また、就業者といってもその約4割は不安定な状況に置かれている。総じて雇用の質的改善が進んでいないということである。

[上がる物価・伸びない収入]

 生活の側面からみてみると、物価は沈静化傾向にあったものの、今後については3.5%~5.0%と騰勢が窺える。政府が打ち出した税制改革第1弾(TRAIN-1)の施行による所得税と消費税の調整は効を奏さず、物価に甚大な影響を及ぼしたといえる。なによりも実質賃金が低迷している。最低賃金はほぼ毎年調整されているが、賃金に恩恵は及んでいない。NTUC Phlキャンペーンでは生活できる水準獲得を目標に、マニラ首都圏で2倍、750ペソ、その他地域は最低賃金の3倍を掲げているが、改善を見通せる状況にない。

[高止まりする貧困率・飢餓率]

 政府が打ち出した税制改革第1弾(TRAIN-1)の狙いの一つには、貧しい人々を救う底辺底上げの狙いもあった訳だが、逆の状況をつくり出しており、貧困率・飢餓率は高止まりしたままである。非自発的飢餓率は2018年21.0%(フィリピン統計局)、貧困発生率は2015年21.6%となっている。こうした状況の中で、所得の格差が年を追うごと悪化していることも見逃してはならない。

2.強まる組合への圧力-労使関係改善に向け頑張るNTUC Phl

 いまフィリピン経済に求められることは、1000万人海外出稼ぎ労働者(OFW)の送金でバランスをとることから、国内産業の改善を進め安定した経済構造を実現することにある。工業部門(政府インフラ関連:18%)には将来性があり、サービス業(57%)には成長のけん引力が宿っている。遅れている農業部門(25%)の改革も果たさなければならない。製造業という括りで見れば基盤は縮小しているが、工業製品の輸出に関わる製品は約8割が経済特区で世界最高水準の生産性を誇る技術で生産されている。しかし、ここに働く労働者はわずか120万人強に留まっている。せっかくの技術力を国内産業に及ぼすメカニズムが働いていない。また、非正規、短期雇用の広がりに歯止めがかかっていない。こうした労働現場の改革こそが成長を後押しすることにつながるとして、ナショナルセンター・各組合は、労使関係改善に向け懸命に取り組んでいるが、組合への圧力は強まるばかりである。

[拡がらぬ組合組織]

 代表的なナショナルセンターであるNTUC Phlは20団体100万人を擁し、全業種をカバーしている。例えば、病院やバスを運営する会社、医療関係、ホテル、教師、炭鉱関連などいろいろな業種が傘下に入っている。国内初の登録組合(コールセンターやビジネス・プロセス・アウトソーシング〈BPO〉の労働者)も含まれている。また、ITUC、ITUC-APにも加盟している。さらに、NTUC PhlはASEAN労働組合協議会(ATUC)の事務局を担当している。ATUCには、アセアン各国の19のナショナルセンターが加盟しており、組合員合計は1500万人に及んでいる。こうしたナショナルセンターと各組合の取り組みにもかかわらず、組合組織は拡大しておらず、むしろ低落傾向にある。現状、民間部門で1万7000組織、公共部門で2000組織である。また、協約交渉も拡がらず、現在行われている交渉は1130件しかない状態である。ストライキ件数の減少が「労使関係がよくなっているから」とする世評もあるが、そうした見方を鵜呑みにするわけにはいかない。チェックを受けていないストライキが過去2年間にも多数行われているからである。労働省令174(労働者を契約労働者だけに頼ってはならない)で対抗ということもあるが、その効果は出ていない。使用者側の組合に対する強い対抗運動はより苛烈を極めており、例えば会社を廃業して新たに新規立ち上げで組合を排除をするとか、会社所在地を組合が嫌う地域に移転したり、海外移転したりするとか、不法行為をでっち上げて組合役員や組合員を提訴したり、非正規・短期雇用の濫用を図るなど、「組合お断り!」行動があり、厳しい情勢が立ちはだかっている。

[労使関係改善に向け頑張るNTUC Phl]

 NTUC Phlはこうした情勢にもめげることなく、きちんと組織活動していくために必要な組織化に焦点を当てている。また、組合自ら一層の知見を深め、対抗力を強化することの必要性も認識している。このような力量アップを図りながら、労使関係の改善に前向きな対応を図ることが大切だと考えている。そのために、労使対話の常なる実行と職場での不平や不満を吸い上げるシステム作りに取り組むつもりでいる。さらに、交渉不調の折の仲裁システムの利用も行っていく。同時に労働法改正に組合としてしっかりと関わっていく。政府にも会社側にも、労働者の声に耳を傾けることを主張していくつもりである。契約社員問題に関しては、これを生み出さないよう大がかりな反対キャンペーンを展開していく。つまり契約社員ではなく正社員を増やすこと、生活できるだけの賃金を求めていくこと、住宅についてのローンや補助金への対応も求めていく。税金の払い過ぎ分の還元措置も取り組んでいく。こうした様々にある労働条件とその周辺の改善により、労働者への社会的な保護を確実なものとするため、NTUC Phlは良好な労使関係を構築しながら頑張っていく。