2019年 マレーシアの労働事情

2019年10月4日 講演録

 国際労働財団(JILAF)では、建設的労使関係強化・発展チームとして、多国籍企業・事業所が数多く進出している各国(インド、インドネシア、マレーシア、フィリッピン)の日系企業に所属する労働組合リーダーを招へいし、健全かつ労使関係のさらなる強化・発展を通じた雇用安定・労使紛争の未然防止に活かしてもらう観点から、日本の労働事情や建設的な労使関係などを学んでもらった。そのプログラムの一環として、各国の労使対等・自治に基づく取り組み(好事例)の共有化を図るため、10月4日(金)に「労働事情を聴く会」を開催した。
 以下は、その報告の特徴的概要をまとめたものである。

マレーシア労働組合会議(MTUC)

ユニ ナニ ビンティ ムスリム
マレーシアヤクルト労働組合 書記

ザイミ ビン ムハンマッド ユソフ
電子産業労働者組合 事務局長

 

基本情報

 マレーシアは南シナ海に位置し、マレー半島南部とボルネオ島の一部とで構成される東南アジアの国である。その広さは約33万平方キロ(日本の約9割)、人口は約3200万人(報告者)、民族はマレー系が約7割、中国系が2割強で、この他にインド系も一定のウエイト(約7%)を占めている。マレーシア語(マレー語)が国語であるが、中国語、タミール語、英語なども使われている。国民の6割あまりがイスラム教徒(イスラム教は国教)であり、この他に仏教徒(20%)、キリスト教徒(9%)、ヒンドゥー教徒(6%)などがいる。政治体制は立憲君主制(議会制民主主義)であり、2018年5月の連邦下院選挙で60年以上統治を続けていた前政権が倒れ、マハティール元首相率いる新政権(希望連盟)が誕生した。主要産業は、製造業(電気製品)、農林業(天然ゴム、パーム油、木材)及び鉱業(錫、原油、LNG)である。GDP分野別比率(2017年)では、サービス業等54.7%、製造業等36.9%、農業等8.4%となっている。経済は2010年以降、5%程度の成長が続き(2017年5.9%)、ASEANの中でも順調な展開をみせている。ただ、経済規模に比し人口が少ないため、外国人就労に支えられている特徴がある。組合組織率は一桁台(2013年6.9%)に甘んじている。代表的なナショナルセンターはマレーシア労働組合会議(MTUC)で、加盟組織数217(2016年12月)、組合員数約50万人(2017年3月)である。(マレーシアには約730の登録組合があり、加入組合員数は約93万人となっている-報告者)

*主な概要は外務省情報による。その他にJILAF基本情報、報告者情報などを参考にした。

新政権誕生とナショナルセンター(MTUC)の挑戦

 変化の兆しみられる新政権運営-働く者への福音となるかカギ握るMTUC

マレーシアの労働人口は約1530万人だが、そのうち推定600万人といわれるインドネシアやバングラディシュ、あるいはネパール、インド、パキスタンなどからの不法移民労働者が経済を支える重要な役割を果たしている。こうした悩ましい労働事情の中にありながらも、労働者・国民は新政府にマニフェストで示した公約の実現を期待し待ち望んでいる。現に制度改革や汚職撲滅政策を通じ、新たな変化の兆しがみられることも事実である。新政権は、主要な労働関連法-労働安全衛生法(1994年)、住宅・アメニティ法(主目的は移民労働者への適正な生活環境の提供)(1991年)、雇用法(1955年)、ILO98号条約に基づく労使関係法、ILO87号条約に従う労働組合法-の改革を提案している。こうした動きをMTUCは注意深くチェックしながら、特に労使関係法や労働組合法など、これまで組合側が主張してきた、例えば労使関係法における制限的規定の削除や、労働組合法における雇用者すべての組合加入などを求め、より働く者に福音がもたらされるよう取り組んでいかなければならない。
 この他にMTUCと働く者が抱え持つ課題を列挙すれば、低い最低賃金、低所得者の退職時の貯蓄の低さ、公務員組合に認められていない団体交渉権、働く者に影響の大きい政府の緊縮政策、外国人労働者の影響による賃金の抑制などがある。山積する課題だが、その解決に向けては、なによりも組織化の進展が重要であり、また職場での建設的な労使関係も大切にしていかなければならない。(MTUCは約25人の若い弁護士を抱えており、そのうち5人は労働者に日常的な支援を提供するなど、現場レベルでの取り組みを図っている)以下では、現場での活動実態や直面する紛争の実例について報告する。

現場からの報告(2つの組合の取り組み)

[電子産業労働者組合(EIWU)]

①組合結成と組織化に全力で挑戦―組合のモットーは雇用確保と尊重される存在

  EIWUは企業内組合ではなく、色々な電子産業・企業で働く労働者を結集した組織である。例えば、パナソニックエナジーとかシャープ、ソニーなどが挙げられる。組合のモットー(原則)といえば、1つは雇用を確保すること、今1つは組合が会社側から尊重される存在になることである。これらを標榜しつつ、労働者のより良い条件確保や、福祉の向上に向けた活動を行っている。こうした活動の終局目指すところは、組合結成や組織化であり、これに全力で挑戦しているというのが現状である。

②一進一退の組合結成や組織化-会社側の組合つぶしをどうかわすかが課題

  組合結成や組織化では、それを阻止・妨害しようという圧力があり、一進一退の感もある。実際、アメリカのサンミーナという会社(従業員5000人)では組合つぶしが行われた。組合結成をしようとした労働者の手当がすべて奪われてしまう状況に追い込まれてしまった。パナソニックエナジー(従業員1000人)ではそれを成功させることが出来た。同じ日系企業のTOTO(従業員900人)ではうまくいかず組合側が敗北した。組合結成までには、非公然な活動を通じ賛同者の集約を進め、無記名投票において過半数を制する流れをつくることだが、うまくいかないこともしばしばである。というのも、組合に入りたくなくなるような圧力、すなわち「組合をつくったら手当のすべてをなくす」といった脅しに屈することがあるからである。会社側の組合つぶしをどうかわすのかが課題となっている。今後の標的は、ドイツ企業のファーストソーラーという企業である。太陽光エネルギー関係が生業で、従業員は4000人であり、果敢に取り組みを進めていく。 

[マレーシアヤクルト労働組合]

〇職場で生じる4つの紛争点-解雇、団体交渉、コンプライアンス違反、合意規定の解釈

 会社は多くの場合、遅刻、傷病休職、技能不足の3つを理由に従業員を解雇している。こんな些細なことでの解雇は不当であり、紛争点となっている。次は団体交渉を巡る紛争である。具体的には、年次賞与をめぐる問題、昇給の問題、及び職務範囲関する問題である。3つ目はコンプライアンス違反という紛争点である。医療給付をめぐり会社側の協定違反という問題が起きている。会社側の本音は、負担軽減のために給付に上限を設けたいということである。しかし、協約上、給付に上限は定められていない。紛争に発展することは蓋し当然のことといえよう。最後は、合意規定の解釈をめぐって紛争点となっている。具体的には、昇進、昇級をめぐる問題である。規定では、通常、従業員が勤続5年を経過したならば、その昇進見直しを図らなければならないとされている。しかし会社の解釈は、見直しをするだけであり、必然的な昇進とはならずとしている。当然組合と折り合いがついていないのである。