2017年 マレーシアの労働事情

2018年1月19日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
ノア アイニ ビンテ アブ ハシム(Noor Aini Binti Abu Hashim)

 

1.経済状況

 実質GDPの伸びは2016年に6%、2017年に6%、物価の伸びは2016年に3%、2017年に3.4%である。

2.労働情勢

 マレーシアは英国流のコモン・ローの影響力が大きいが、(ムスリムの場合)宗教や家庭の問題が絡むとシャリア法に従う。マレーシアの労使関係は非常に良く、最後のストライキは2001年である。労使紛争は毎年700件、そのうち解決したのは500件である。民間、公務、外国人の3つのカテゴリーが社会保障には存在する。民間部門では、SOCSO(Social Security Organization=社会保障機構)とEPF(Employees' Provident Fund=従業員積立基金)がそれに該当する。2018年1月、外国人労働者に対する課税を使用者に払わせる政策が発表された。2020年までに先進的な高所得国になるという目標を掲げており、生産性向上がその核となっており、機械設備への投資、人的資本形成、貿易・投資の公開性を生産性向上の3つの重要要素としている。MTUCの課題としては、ILO87号条約の批准である。

3.その他

 労働組合をつくる時に、使用者の承認が必要となる。

 
 
2017年9月8日 講演録

マレーシア労働組合会議(MTUC)
ジャミラー ビンチ ユソップ氏(Ms.Jamilah Binti Yusop)

ペナン州水道局労働組合 書記

モハド ノア ビン サイム氏(Mr. Mohd Nor Bin Saim)
マレーシア技術サービス労働組合 ネゲリセンビラン支部 財務担当

 

【概要】

 日本の面積の約90%(約33万平方キロ)の国土に3千万人余りが暮らしている。その人口の60%強がマレー系で占められ、他に華人系が30%弱、インド系が10%弱の国家でああり、政治体制は立憲君主制(議会制民主主義)である。経済は、日本を手本とする発展で一人当たりGDPが1万ドルを超え、高所得国への仲間入りに今一歩となっている。この数年の実質GDP成長率は4~5%台と堅調な推移(報告者データでは2017年第1四半期見通しは5.6%)であり、物価上昇率も2%台と安定的である。しかし、少なからぬ外国人労働者で支えられる現状は多くの問題をはらんでいる。労組組織率は6%程度である。

1. 労組の抱えるジレンマ―届かぬその影響力

 マレーシアに働く労働者は、1430万人(報告者データ2015年12月現在)だが、670万人が外国人労働者と推定される。実に労働者の40%強を占めている。しかし、正式に記録・許可されている外国人労働者は約210万人であり、400万人以上が不法滞在している労働者ということになる。また、フォーマルセクターで働く労働者は約650万人であり、残る800万人強がインフォーマル経済に属していることになる。マレーシア経済の現実はこうした労働者を含む構図の定着化の中で進展している。フォーマルセクターに依拠する組合は、真に保護すべきインフォーマルセクターで働く人たちにその影響力を届けることができず、ジレンマを抱える状況が続いている。
 その組合だが、組織構造は3種類に分かれる。1つは、公共セクターの組合(CUEPACS)である。ここに働く労働者約160万人のうち約46万人を組織化している。2つには、マレーシア労働組合会議(MTUC)である。民間セクター労働者約900万人のうち約37万人を組織化している。3つには、社内・企業組合であるが、626組合を数えている。この他に使用者の全国組合が103組合あり、以上全てを合わせると組合総体として91万人余りを組織化していることになる。しかし、未組織者とりわけインフォーマル労働者ははるかに上回る数が存在しており、ナショナルセンターにとっての重い課題となっている。

2. 企業内組合に好意的でない使用者-後押しする形の労働法改正

 マレーシアの労働組合法(1959年)では、労使関係の相互主義や登録された組合に参加する自由・参加しない自由を推進するという前向きな規定があるものの、それ以外の規定は後ろ向きの規定ばかりである。政府は従来の労働組合主義を国の開発の障害とみなしているため、労働者団体に対し、組合と経営陣との関係の規制に加え、組合内部にまで介入する包括管理を行っている。ある意味で、企業内の組合指導者は使用者にコントロールされているといっても過言ではない。その結果、外国人雇用者が数多く雇用され、自社の労働者が組合を結成したり、組合に加入することを回避させようとするなど、組合に対するネガティブな行動により、また、若年労働者の組合加入に対する消極的な意識とも相俟って、組合員数の減少がおきている。労働法も労働者に不利な改正を後押しする形となっており、労働者の権利をむしばみ続けている。

3. 労働者保護に向けた取り組みの行方-カギ握るMTUCと他組合との連携・協力

 厳しい労働環境ではあるが、労働者保護に向けた取り組みの行方は、MTUCと他組合の連携・協力がカギを握っている。大きな視点では、雇用機会と労働者の権利確保の実現に向け、まず持続可能な産業・経済環境を創出し、それによって雇用の促進に結びつけることが重要である。同時に労使間の協調的な話し合いが保障され、職場における基本的な原則が遵守される環境づくりに向かわなければならない。そうした取り組みを経て、持続可能で国内環境に適合した社会的保護・社会保障・労働者保護のしくみが構築されることが、組合に課せられた役割である。MTUCの真価が問われているときである。

 
 
2017年5月9日 講演録

 日本の面積の約90%の国土に約3千万人強が暮らしている。その人口の6割がマレー系で占められ、他に華人系が3割、インド系が1割の国家である。日本を手本とする経済発展で一人当たりGDPは1万ドルを超え、高所得国への仲間入りに今一歩である。労組組織率は6%程度である。

マレーシア労働組合会議(MTUC)
サイフル バハリ ビン ザカリア

キヤノンオプト労働組合 書記長

 

1. 団体交渉を巡り膠着状態続く

 組合が現在抱える課題は、団体交渉を巡り紛争状態が続いていることである。交渉当初から会社側の対応に真実味がなく、早期の決着を望む組合側の要請に対し、会社側は真摯な姿勢をみせなかった。組合側は労使関係法第18条(1967年)に基づく労使紛争報告書を労使関係局長官に提出し、1年余りの調停手続きを行ってきたが、未だ解決には至っていない。現状労働仲裁裁判所からの審問命令が下されている。

2. 進む協調的な労使関係

 労使関係に上記のような課題はあるものの、日常においては協調的な関係が進展している。これは労使双方にとって働く意識を高めることが大切だという共通認識があるからである。安全衛生委員会、スポーツイベント委員会、地域奉仕責任(CSR)活動など、様々な委員会-ある種の経営委員会といってもよいか-に参加し、働く場の安心・安定に寄与している。

マレーシア労働組合会議(MTUC)
アジゾン ビン ユソフ

ダイキンマレーシア労働組合 書記長

 

1. 拡がる外国人労働者雇用への懸念

 外国人労働者の活用を好む会社に対し、組合は懸念を表明し善処を求めている。マレーシアでは外国人の直接雇用は許可されず、派遣の形態をとるため、組合員化もできず組合の庇護下に入れることもできない。それ以前に、外国人労働者は日々、月々に替わってしまうため、トレーニング効果が意味ないものとなっている。英語を話せない人も多い。そうした短期戦力活用ではなく、長く働き、スキルの向上も期待できる自国民雇用の推進を要請している。しかしなかなか解決の糸口がつかめず、個々労使の枠を超えていることから、上部団体の協力を求めている。

2. 企業労使関係は極めて良好に推移

 2006年に日系企業の進出が図られて以来、今日まで労使関係は良好に機能している。組合として労使一体感を醸成するよう努めてきており、その成果として、様々な委員会、例えば安全衛生委員会などの各種経営委員会への参加はもとより、年次ディナーパーティーや功績表彰などの会社行事の開催にも関与している。団体交渉についても極めて友好的(開始時期や事前準備の確認など日本的気配り)な中で進められている。

マレーシア労働組合会議(MTUC)
モハメド アミルディン ビン アブドラ ハミド

ペナン繊維労働者組合 書記長

 

1. 問題は外国人労働者と契約社員

 マレーシアの組合は、全国レベル、州レベルと少数の企業内組合からなっている。ペナン繊維労働組合は州単位の組合である。組合の活動は新規雇用者全員の組織化だが、外国人労働者や契約社員の雇用にシフトしており、組合員化が困難な状況である。しかも繊維産業は衰退途上にあり、定年退職者が多く、それをカバーする雇用がないことから、組合員数が減少しており危機意識を持っている。

2. ストやピケなし団体交渉が定着

 組合設立(1973年5月)以来、ストやピケなしの団体交渉を定着させてきた。この3年間をみても、組合員の解雇問題はなく、多くの課題を成功裏に解決に導いてきている。まさに友好的な労使関係がもたらす賜であろう。当然ながら組合としての知見(社内調査、女性委員会、健康と安全など)や交渉力(団体交渉、職場委員会などへの対応の基礎トレーニング)を養うため、毎年組合員用に3つのセミナーを開催している。このようにして良好で持続的な労使関係の維持に腐心することは、将来にわたる組合の存在を確かなものにすると確信している。