2012年 マレーシアの労働事情
マレーシア労働組合会議(MTUC)
ファイザル デニース アイダン アブドゥッラー
Mr. Faizal Dennis Aidan Aldullah
サラワク銀行労働者組合 副委員長
ナスリファ ビンティ スカルニ
Ms.Nasrifah Binti Sukarni
全国石油・化学産業労働組合 副会長兼MTUC女性委員会書記
1.当該国の労働情勢(全般)
マレーシアの労働システムは政労使三者で構成されている。人的資源省は労働政策を策定し、労働法の実施および施行にあたる。一方、労働組合連合ならびに経営者団体は、助言・指導の提供および政府諮問委員会への積極的な参加を通じ、労働問題に関してそれぞれの構成員を代表する。
マレーシアには700以上の組合が存在し、組合員数は約80万人を数える。しかし政府は、結社の自由および団結権に係る長期政策への批判に晒され続けている。それらの政策のために「創始産業」では営業当初10年間は労働組合の結成が禁じられ、さらに全国労働組合が電子部門労働者を組織することも認められていない。
マレーシアは990万人の労働者を擁し、うち約20%は移民労働者である。2001年の世界経済不況および失業者増加を受けてマレーシア政府は、職を求める自国民が優遇されるよう、外国人労働者関連政策を改定した。政府は合法労働者の滞在期間を3年とし、『移民法』に厳しい罰則を科す修正条項を設けて未登録外国人労働者を取り締まっている。
マレーシアは、病気や負傷、老齢、死亡による所得喪失から労働者を保護する社会的セーフティーネットプログラム(最低生活保障福祉計画)を開発した。しかし、失業手当給付金プログラムは実施されていない。従業員積立基金 (EPF) は、退職、住宅、教育および医療に関して加入者が資金を確保できるよう設計された強制貯蓄計画である。加入者はEPF勘定配当の低さに不満を訴え、投資の大部分を公債に割り当てることで海外投資を不可能にしているとして政府を批判している。
2001年、憲法改正によって国内での性差別が禁止された。さらに、政府は職場でのセクハラの予防と根絶に関する自主的倫理綱領を制定した。しかし、同綱領を採択した登録企業はわずか1%にとどまる。『セクハラ関連法』制定の策定および実施が求められているが、労使関係の管理に制約を課すものであるとして経営者側はかかる法律制定を批判している。
2.労働組合が現在直面している課題
- 基本賃金を定める『最低賃金法』を政府が実行すること
- 民間労働者に政府部門で働く労働者と同様に生計費手当を支給すること
- 民間労働者の60歳定年と退職金支給の法制化すること
- 母性保護として90日の出産休暇を設けること
- 職場における育児センター設置を義務化すること
- 契約制度または外部委託制度(派遣制度)を廃止すること
3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか
- 最低賃金の引き上げで2012年5月30日、モハマド首相はマレーシア半島で900リンギット、半島以外で800リンギットとすることを発表したが、施行日が発表されて6ヵ月後に効力が生じる。小企業では12ヵ月後である。900リンギットの最低賃金の法律を実施すること。
- 民間労働者へも生計費手当の給付を行なうよう『雇用法』の改正を行なうこと。
- 公務員は定年60歳で民間部門は55歳、法改正によって60歳定年とし、在職した各年につき1ヵ月分の給料に基づいて計算する退職金支給の法制化を図ること。
- 公共部門で実施された90日の出産休暇は、すべての女性労働者に平等の権利として与えられるべきであること。
- 政府は使用者を督励して職場に育児センターの設置を支援すること。
- 職場で第三者からの労働者を使用する慣行の即時停止(外部委託労働者は不要)職場のすべての労働者は、外部委託労働者または第三者供給労働者とせず自社の雇用する労働者とすること。
4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください
ナショナルセンターと政府は非常に良い関係を保ってきている。これまでいろいろな首相が就任したが、2009年に首相の座に就いた現在の首相が、マレーシアの歴史上初めて、労働組合に対して理解を示した首相となっている。
5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください
OECD諸国の企業がマレーシアに進出しているが、多くの多国籍企業は製造部門である。なかでも最多の国は日本で、次にドイツ、米国、スウェーデン、韓国などである。主要産業は石油、ガス、石油化学、電子、自動車およびゴムなどで、投資の主要な目的は、労働コストが低いこと、政治的に安定した状況にあることなどによる。
また、マレーシアには天然資源やさまざまな設備がある。例えば石油、ガス、ロジスティック、港、空港、そして陸上輸送などが挙げられる。
課題または紛争としては、ほとんどの場合がOECDのガイドラインならびに国際的基準の導入に関したことになっている。会社の活動に労働者の参加は非常に限られている。また、団結権や企業内のレベルだけではなく全国レベルで加盟出来る権利などが課題であり紛争の原因となっている。
例えば、規律に関する組合員の紛争解決のための相談体制、派遣労働者に対する社会福祉の問題、企業の財務に関する情報、あるいはビジネス活動そのものに関する情報の開示、また、昇進や訓練、人材開発における差別などが挙げられる。