2017年 インドネシアの労働事情

2017年6月9日 講演録

 インドネシアは、日本の約5倍の面積、人口は2億5千万人以上(約90%弱がイスラム教徒)、経済成長率は5%台をキープしている。アジアの有力大国の1つとしてその動向は目が離せない。労組組織率は10%余りの現状にある。

インドネシア労働組合総連合(CITU)

アルディアン サフェンドラ
スラバヤ自動車部品労働組合 副書記長

 

1.課題は医療保険の負担ゼロと年金水準の引き上げ

 医療保険の負担は現在会社と従業員双方負担となっているが、会社が全額負担すべきであり、労使間の話し合いが進められている。年金水準は給与の10%水準でしかなく、ILO条約の求める最終給与の40%~60%の水準には遠く及ばない。

2.医療も年金も会社制度との抱き合わせで中身を充実

 労使の協力的な話し合いにより、医療制度は負担課題は残るものの、会社制度と公的制度の抱き合わせで中身の充実を図ることができている。低い年金水準はこれも会社制度と公的年金の抱き合わせで最終給与の30%水準まで引きあげている。ただ、これでもILO条約の基準を満たしていないことを忘れてはならない。

2017年5月19日 講演録

インドネシア労働組合総連合(KSPI・CITU)

ムンディア
インドネシア金属労働者連盟副委員長
スプリヤディ
インドネシア金属労働者連盟会計担当
イドリス・イハム
医薬品・保健労働者組合連盟会長

 

1.当該国の労働情勢(全般)

  2015年 2016年 2017年(見通し)
実質GDP(%) 4.88% 5.02% 5.10%
物価上昇率(%) 3.35% 3.02% 4%
最低賃金
(時間額・日額
・月額)
□時間(Rp. 15,340)
□日額(Rp. 122,727)
□月額(Rp. 2,700,000)
□時間(Rp. 17,613)
□日額(Rp. 140,909)
□月額(Rp. 3,100,000)
□時間(Rp. 19,067)
□日額(Rp. 152,534)
□月額(Rp. 3,355,750)
労使紛争件数 1件 0件 1件
失業率 5.81%/745万人相当 5.5%/約702万人 予想は5.3%、5.6 %に満たない
法定労働時間
(出典元)
1日7時間又は週40時間、週6日の労働時間
(労働法2003年第13号第77条第1項に記載がある)
1日8時間又は週40時間、週5日の労働時間
(労働法2003年第13号第77条第1項に記載がある)
時間外/割増率 休日/割増率

通貨名:ルピア 132,910,000ルピア=10,000ドル(2017年4月26日現在)

 インドネシアのGDPは伸びており、2015年は4.88%、2016年は5.02%と伸びを見せている。このような中最低賃金も上昇しており、2015年は時給1万5340ルピア、月額270万ルピア、2016年は時給1万7613ルピア、月額310万ルピア、2017年は時給1万9067ルピア、月額335万ルピアである(いずれもジャカルタ)。失業率は5.3%から5.6%位だが、インフォーマルセクターで働く人々も多い。又シェアリングエコノミーの興隆も著しく、今大都市ではGOJEKなどインターネットを活用したオートバイタクシーが人気である。

2.当該国の労働法制・社会保障の特徴

インドネシアの社会保障の特徴
1)保障される一般的なリスクは社会全体の責任である。2019年から皆保険を実施予定
2)この社会保障は全国民に利益をもたらすと考えられている。
3)社会保障は加入者のみ保障されるものである。
4)雇用主が全費用を負担することはなく、多くの場合は費用の一部のみを負担する。
地域最賃の5%(会社負担4%、個人負担1%)の保険料を納めると、最大で5名(夫婦2名、子供3名)まで保障が適用される。5名以上は保障対象外。
5)支給される手当は、最低限の生活必需品をまかなうだけにしかならない(必要最低限の生活レベル)。
6)加入と保険料負担は、本来ならば義務付けられている。
7)運営は非営利で行っている。
8)社会福祉の改善が目的であり、個人の技能を向上させる目的はない。
9)保険は2種類あり、一つは国民保険、もう一つは労働に関する保険である。
労働に関する保険は年金・労災・退職金・死亡保障の4種類で正社員のみ加入することができる。

3.当該国の非正規労働(派遣)など不安定雇用の問題やインフォーマルセクター労働者の現状

1)労働契約が存在しない
2)賃金
3)労働の負担
4)長時間労働
5)週休や休憩に関する明確な規定がない
6)社会保障
7)団結する権利への侵害
8)労働安全衛生が未整備
9)人身売買への対応がゆるい
10)教育

4.ナショナルセンターが現在直面している課題と取り組み

1)アウトソーシング労働者
2)契約労働者
3)政令第78号

1)この件に関するナショナルセンターの取り組みとしては:
 アウトソーシングは労働者にとって妖怪のような存在だ。契約労働者と同様、アウトソーシングは労使関係を自在に変化させる秘策である。自在に変化させるとは、よく言われる労働市場の柔軟性のことを指し、企業の状況次第によって、簡単に変更したりなかったことにしたりできる状態にあることをいう。アウトソーシングでの労働契約では、臨時の仮契約や期間を限定した契約しか交わされない。ここが、通常の正社員との雇用契約や期間を定めない労働契約は異なっている。

 人材派遣企業から派遣された労働者の利用においても同様の柔軟性が見られ、新規採用、雇用に関する事務手続き、労働者権利に関する解決はすべて派遣元となる企業が担うことになっている。これが労働者のアウトソーシングと呼ばれる現状である。

 アウトソーシング制度では、労働者にとっての正式な雇用契約は派遣元との契約になるが、実際には労働者は派遣先の企業から命令を受けて勤務しなくてはならない。

 労働法2003年第13号では、契約労働者やアウトソーシングの制限事項が定められている。例えば契約労働は「一定期間内に完了する業務内容や種類についての一定の仕事」にのみ許可されており、「一定期間を越えて継続する業務では利用できない」制度と定められている。契約労働は「最長で二年間とするが、最長で一年間に限定した一度限りの延長が可能である」とされている。契約が満三年を経過した場合は正規雇用に転換する必要がある。但し、同じ労働者でも一週間の間隔をあければ契約労働者として再雇用が可能。2回目の労働契約については「一度きり、最長でも二年間」と明記されている。

 アウトソーシングについては、「主要な業務と分離した状態で実施される」仕事にのみ適用できる制度であり、「企業全体の業務を支援する活動」のみに限定されている。アウトソーシングは「生産活動に直接関係する業務や企業の主要な業務内容に対して利用することはできない」とされている。

 アウトソーシング労働者の労働条件にも言及があり、「業務と労働条件の保護という点は派遣先企業の条件と最低でも同じにすべきか、又は有効な法規にのっとった条件とする」とされている。

 しかしながら、現場においてこれらの法規はそのほとんどが無視されている状態だ。例えばアウトソーシングは、企業での主要業務を担う労働者にも利用されている。人材派遣会社から派遣されてきた労働者の種類から見てもその状態が分かる。

 例えば、A社では生産部門オペレーターと同様のレベルの労働者を抱えている。B社では、電話オペレーター、パソコンオペレーター、レジ係などとして契約労働者を派遣している。C社では、プログラマー、コールセンターなどへの労働者を準備している。派遣会社から派遣される労働者の中には、派遣先企業によって直接雇用の契約を交わすようになる者もいる。しかし、そうしたケースは極めてまれで、マネージャークラスの1、2名にしか起こらないことだ。大量に派遣される残りのほとんどの労働者は、アウトソーシング労働者という立場のままである。

2)似たような現象は、契約労働者にも起こっている。インドラサリ・チャンドラニンシ研究所のリナ・ヘラワティとスハッドマディが、3州と7つの都市に勤務する金属業の600名の労働者を対象に行った調査がある。リアウ諸島州(バタム市)、西ジャワ州(ベカシ県、カラワン県)、東ジャワ州(スラバヤ市、シドアルジョ県、パスルアン県、モジョクルト県)で実施されたこの調査では、驚愕の事実が判明した。調査対象となった多くの労働者は4回以上の契約を経験していたのである。

調査結果は以下の表の通りである:

契約の回数割合
1 回31.60%
2 回28.60%
3 回10.70%
4 ~ 15 回29.10%
合計100.00%

 この調査から、リアウ諸島州には9回の契約更新を実施した労働者がいること、東ジャワ州では11回、西ジャワ州では15回もの契約更新を経験した労働者がいることが分かった。

3)賃金を規定する賃金審議会が適切に機能せず、労働者の置かれた状況が悪化の一途をたどっているため、政令第78号に関連したこの違反項目について、インドネシア労働組合総連合(KSPI/CITU)は最高裁判所に対して司法審査を申し出た。

5.最近の動き

 KSPIの組織活動は活発で、最近インターネットベースのバイクタクシーGOJEKの組織化に成功した。

インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI)

シア ハルヤンティ
鉱山エネルギー労働連盟 (FPE) 会計担当
スパルディ
飲食料・観光・レストラン・ホテル・タバコ連盟書記長
アカマド ソイム
インドネシア福祉労働組合総連合 東ジャワ地域議長

 

1.当該国の労働法制・社会保障の特徴

(1)労働法制:裁判費用が必要。時間がかかる。➡ 純粋な裁判法律システムを採用しているから。
(2)社会保障:健康保険のサービスは不十分である。年金保障は国民全体をカバーしていない。

2.当該国の非正規労働(派遣)など不安定雇用の問題やインフォーマルセクター労働者の現状

 期間限定雇用契約の労働者 ➡ この雇用契約は、インドネシアの労働法規に違反している(法律第13号第59条)。法律では、期間限定雇用契約の労働者は特定の業務に限定され、支援業務のみに従事し、契約期間が終われば終了しなくてはならない。➡ しかし現実では、本業部分(コア・ビジネス)においても期間限定の雇用契約労働者が勤務している。

3.ナショナルセンターが現在直面している課題と取り組み

 KSBSIが著作権を持つ物(ロゴ、組合歌、トリダルマ(翻訳注:労働者による三つの誓いのような宣言文))が、モフタル・パクパハン博士によって訴えられている問題だが、現在は控訴審での審議が続いている状況にある。➡ KSBSIの組織としての規約とイデオロギーを守る

 労働組合の幹部658名への調査によれば、労使紛争の約半数は解雇に関する問題で、3分の2は団結権に関連した問題である。それと言うのも労働組合が弱いからで、国内で労組加入している労働者は340万人に過ぎない。16万6000ある企業中労働協約を持つ企業も1万1052に過ぎない。

(解決のための取り組み)
 まだ完全とは言えないが、労使間協力フォーラムがあり、これを発展させることが重要である。又中央から市まで政府、企業、労組の三者協力機関が有り、労働問題や労働政策の立案に対し、関係する政府機関に検討結果や判断・意見などを伝えることになっているが、これも権限が弱い。過去MPBIという組織が作られ、大同団結が可能となって時期もあったが、労働組合の統合を進めることが重要である。

4.参加者の産別・単組・地方組織における特徴的な課題や取り組み、多国籍企業の動向等、当該国における労働事情等

➡ 組合を結成する権利への侵害は、まだ多い。
➡ 労組が各地域に誕生している。
➡ 政治的な利害の対立によって、労組が分断させられている。
➡ アウトソーシング問題は一気に広がりを見せている。