2014年 インドネシアの労働事情

2014年10月15日 講演録

インドネシア労働組合総連合会(CITU/KSPI)
ソフヤン・アブドゥル・ラティフ

副会長

トゥティ・スワルティニ
副会長

ピピン・スピナ・ママ
女性委員

 

1.インドネシアにおける主な労働問題

 インドネシアにおける主な労働問題は、[1]アウトソーシング(外部委託、外注)、[2]賃金問題、[3]社会保障に関する問題、[4]労働者に対する便宜、便益に関する問題、[5]結社の自由をめぐる問題――などがある。
 アウトソーシングや契約雇用は、法的にも、社会経済的にも大きな損失である。まず、法の曖昧さ、不確実性の問題がある。2番目に、雇用の不安定性(派遣などの一時雇用)、3番目に収入や賃金の不安定性がある。4番目には、生涯にわたって最低賃金相当額しか得られないという問題、5番目には社会保障の軽視、6番目には搾取が行なわれているという問題、7番目には退職金なしの解雇、8番目には差別と貧困の問題、そして9番目には先行きの暗さ将来不安の問題がある。
 次に、賃金をめぐる問題点では、インドネシアの賃金はアジア諸国の中でも最低水準にとどまっており、加えて、最低賃金が最高賃金になっているという実態がある。さらに、最低賃金の適用違反、決められた額が払われていないことや、賃金の遅配の問題もある。
 2007年のデータでは、100万ルピア(約9700円)未満の賃金にとどまる者が1719万人で、全体の63%以上を占めている。100万ルピア(約9700円)から200万ルピア(約1万9400円)未満の者が745万人で27.79%となっている。賃金水準は、ここ7~8年で、確実に上昇してきている。しかし、賃金の上昇よりも物価の上昇の方が高いため購買力は増えていない。
 その具体例としては、中部カリマンタンやバリでは、人間らしい生活を送るために最低限必要な金額である適正生活水準値(KHL)よりも、最低賃金が下回っている状況にある。最低賃金は適正生活水準値(KHL)を基準に決めていくものであるが、中部カリマンタンでは、生きていくために必要な生計費の8割程度にしかならない。
 このような低賃金は悪循環をもたらすことになる。低賃金が栄養不足、不衛生な生活となり、虚弱な体質をもたらす。この結果、労働者は病気にかかりやすくなり、仕事の生産性が落ちてしまうという悪循環に陥る。
 次に社会保障をめぐる問題点についてである。インドネシアでは、労働者向けの社会保障を担う国営企業であるJAMSOSTEK(ジャムソステック)が設立され37年が経過した。その間、実際に社会保障制度に加入した労働者数はわずか1050万人にすぎない。社会保障に加入すべき労働者数は全体で4000万人ぐらいとなるため、企業は約3000万人について加入登録を行なっていないことになる。この社会保障制度には、労災補償、死亡保障、高齢保障がある。高齢保障は、退職、あるいは定年を迎えたときに一時金を受け取る制度であり、最低加入期間は5年間となっている。
 また、健康保険の加入者もわずか560万人にすぎないのが現実である。
 2015年から、新たな年金制度が始まる予定になっており、われわれは、その年金に対しても、闘争のテーマの一つと考えている。
 労働者への便宜あるいは便益とは、送迎用の交通手段、食事(夜食、軽食)、制服・作業服、保護具、保安用品などのことで、現時点では、すべて労働者の負担となっており、その負担は重い。
 次に結社の自由に関する問題である。多くの企業、経営者の大半は、企業内に労働組合が存在すること自体を拒んでいる。このように反組合的な姿勢は、反民主主義の姿勢をとっているのも同然である。なぜなら、労働組合の存在なくして、企業内に民主的な労使関係は存在し得ないからである。

2.労働者への公平な配分が必要

 われわれは、労働の成果である利益の配分が不公平であると考えている。労働の成果を享受するべき存在は、企業の経営者、労働者自身とその家族、広く国民一般、そして政府(税金)のそれぞれが、公平に利益の配分を受けるのが本来の姿である。しかし、実際には公平な配分とはなっていない。企業は、グローバル化、市場の自由化の中で、競争力を高めていかなければならない。これは紛れもない事実であるが、競争力を高めるために労働者の賃金を抑制する、低く抑えるのではなく、生産性を向上させ、合理化を行ないながら進めていくべきである。労働組合はパイの拡大と同時に、公平な分配のために積極的な役割を果たしていくべきである。
 労働者や、その家族にとっての社会的な公平、公正さ、あるいは福祉は、労働者自身、労働組合がそれを変えようとしない限り決して変わらない。そのために、われわれは、労使関係を強固にするための基盤としてめざすべき3要素を定めている。その一つは、安定性であり、労働者が安心して働くことができ、その一方で、経営者側が安心して事業を営むことができること。二つ目は、成長、業績と生産性の向上である。三つ目は平等、あるいは公平性、企業の利益を公平、平等に分配するということである。企業側も労働者側も、その本質の部分では労働が、一番その軸にあるという認識は変わらない。その労働を通じて、成果と品質を生み出す。その成果、品質がよければ、それが生産性、業績、功績につながる。そして、得られた付加価値、利益は、企業側と労働者側に公平に分配されるべきである。

3.労使関係のカギは労働協約の締結

 効果的で理想的な労使関係へのカギは、一つ目が、コミュニケーションで交流を継続的に行なうことである。二つ目が同じ目的に向かって、その達成のために手をとり合って努力をすること。三つ目は、労働者側も経営側も、とるべき行動について共同で決定すること。そして四つ目が、実行に当たって、監督、評価の過程を協力して実施することである。
 そこで最も重要なものが労働協約である。労働協約は、契約法にもとづき法的な効力をもち、お互いの権利等について公平に、バランスよく定めた取り決めである。その有効期間は2年間であり、延長は可能で、その場合も最長で1年間となっている。
 最低賃金は、社会のセーフティーネットであり、労働者にとっては初任給に当たり、12ヵ月間適用されるべきである。また、セーフティーネットであるため、その最低賃金額を下回ることがあってはならないし、支払いが遅れるということも本来は許されない。勤続が1年以上の労働者に対しては、賃金(表)の等級に沿って賃金を引き上げていくべきである。
 CITU/KSPIの社会保障に関する方針は、すべての労働者が差別されることなく社会保障制度の加入者として登録される必要があると考える。一つ目が、医療保険分野の社会保障実施機関(BPJS)への加入であり、二つ目は、労災補償、死亡保障、前述の高齢保障である。そして、来年から始まる年金保障への登録がされなければならない。
 労働監督あるいは労働者の保護に関するCITU/KSPIの方針は、政府と経営者の距離、政府と労働者の距離は同じ距離になるようにバランスをとる必要があると考えている。しかし、実際にはそうなっていない。本来、二等辺三角形であるべきところが、ずれが生じ、政府と経営者の距離は短く、労働者との距離は長く、いびつな三角形となっている。

4.インドネシアにおける労使紛争(労働組合バッシングの例)

 インドネシアの労使紛争は、大きく分けて次の4つになる。一つ目が権利や法をめぐる紛争、二つ目が利益、利害をめぐる紛争、三つ目が解雇をめぐる紛争、四つ目が同一の企業内における労働組合間の対立(紛争)である。
 労使紛争を解決するためには、まず、二者間で、第三者の支援なしに解決を試みなければならない。二者間での協議、交渉で解決しない場合に、初めて第三者による支援がある。この場合、法廷外、法廷内それぞれの手続があり、法廷外は、あっせん、調停、仲裁の3つの方法によって解決を図る。法廷内は一般の裁判所と、特別な裁判所等で争うことになる。
 今回、紹介する労使紛争の事例は、少し古く2005年に起きたものである。西ジャワ州のブカシにある日系企業で起きた事例で、具体的な問題、違反はILOの条約第87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)と第98号条約(団体交渉権)に関して、企業側に違反行為があったものである。
 紛争の発端は、経営側が組合との労働協約の延長に関する団体交渉を拒んだことにある。具体的な問題点としては、2005年の1月から支払われるべきであった賃上げ後の給与が払われず、引き上げ前の給与が支払われたことにある。
 2005年5月、団体交渉で話し合いをすることを求めたが、経営側は、一方的に、労働組合のメンバー58人を工場から締め出した。このこと自体、インドネシアの法律に違反している。その後、会社は、58人のうち39人に対して、書面で、懲罰の内容を記した命令書を渡し、残る19人に対しては、最終警告書(警告は3段階あり、その3つ目の最終警告書)が出された。その後、最終警告書を受けた組合員も、さらに重い懲罰のレベルに引き上げられ、58人の組合員は、解雇の危機にさらされる状態となった。
 このような状況の中で、経営側は、その58人にかわる代替要員を募集、採用した。このこともインドネシアの法律に違反している。さらに、結社の自由や団体交渉権の問題にもかかわる重大な違反行為である。
 当時、地元の労働局は争議に関与し、6~7月にかけて警察に働きかけ、5人の組合メンバーを警察に出頭させ、脅しにも近い威圧的な態度で事情聴取を行なった。このようなUnion Busting(労働組合に対する嫌がらせ)は、今でも、さまざまなところで行なわれている。
 われわれ労働側も産業別組織の中央執行部が現地の労働局と会い、組合員が復職できるように話し合いの場を持った。また、国際的な組織に対しても働きかけを行ない、国際公務労連(PSI)、インダストリオール(IndustriALL)等に支援を要請した。また、ILOにも不服申立書を提出した。
 労働側は、工場前のデモ、示威行動と共に、工場前にテントを張り夜通しで抗議行動を行なった。この闘争には、われわれだけではなく、労働問題に関心のあるNGOや、ジャカルタ、その他の地域から応援に来た労働組合と連帯し、一緒に今起きている問題についてディスカッションを行なった。この他、現地の労働局やジャカルタの日本大使館にもデモによる抗議行動を行なった。
 しかし、この争議の問題は二者間の協議、話し合いに戻された。結果として、組合員は、一定額の補償金で解雇を受け入れることとなった。そして、残された労働組合メンバーは、改めて企業内に労働組合を立ち上げた。新しく設立した労働組合は、CITU/KSPIにも加盟しており、活発に活動を展開している。また、企業側もこの時の反省をふまえ、労使関係を良くするために努力を続けている。
 
*1ルピア=0.0097円(2014年11月25日現在)

2014年5月23日 講演録

1.インドネシアの労働情勢(全般)

アリ・アクバル・ファズルラフマン
インドネシア労働組合総連合(CITU) 教育担当副会長
印刷・出版・情報メディア労働組合連盟(PPMI)書記長

 

 インドネシアでは、求人数より求職者数がはるかに多い状態が続き、高校や職業訓練校の卒業者が仕事に就けない率が年々上昇している。これにより、ほとんどの新規労働者は契約社員や非正規雇用の選択しかなく、平均契約期間は半年から2年となっている。最近は、アウトソーシング、日雇い、研修生などの雇用形態も多く見られるようになり、賃金を確実に得て働き続けられる保証も皆無で、社会保障も低いままの状態である。
 企業で働く労働者以外にも、商業、家内工業、農業、畜産業などのインフォーマルセクターで働く労働者も多い。インフォーマルセクターでの労働であっても就職希望者が減ることはなく、近年はその総数もさらに増加する傾向にある。
 スラバヤ、シドアルジョ、パスルアンなどの東ジャワ州産業地帯における、1カ月あたりの地域別最低賃金(UMR)は、およそ219万ルピア(約1万8615円)となっている。産業別最低賃金は、230万ルピア(約1万9550円)から240万ルピア(約2万400円)で推移している。一方、ジャカルタ首都特別州、西ジャワ州ブカシ、バンテン州タンゲラン、西ジャワ州ボゴールなどの地域の最低賃金は240万ルピア(約2万400円)程度であり、産業別最低賃金は260万ルピア(約2万2100円)から300万ルピア(約2万5500円)となっている。
 最低賃金は、法では勤続1年未満の単身労働者を対象とした賃金(残業等で変動する部分を除く)である。しかし、現実には1年経過しても、あるいは結婚し扶養家族がいたとしても最低賃金にはりついたままの労働者が多い。また、最低賃金の適用が猶予できる制度もあるため、最低賃金すら支払われていない場合も多い。インドネシアでは、労働者の技能の向上や生計費の上昇を賃金に反映させる仕組みとなっていない。
 労働者の法定労働時間は週40時間、1日8時間である。時間外労働には、最初の1時間は1.5倍、2時間目以降は2倍の賃金を払う必要がある。また、時間外労働は、労働者の同意が必要であり、1日3時間、週14時間が上限となっている。
 労働組合の存在は希少で、組合がある企業は約3割程度である。登録している労働組合は、会社と合意した事項について労働協約を結ぶことができる。また、労働協約は、当局に登録し、有効期間は2年間となっている。また、労使間で合意に達しない場合は労使紛争調停手続きを取ることになる。
 
*インドネシアの最低賃金は、州別最低賃金、県・市別最低賃金、特定の地域では産業別最低賃金と分かれており、非常に多岐にわたっている。日系企業が多く進出している西ジャワ州は、州の最低賃金を定めずに、県・市ごとの最低賃金を決定している。
*最低賃金は、適正生活水準(KHL)と経済成長を加味して州知事が決定する。県・市の最低賃金は州の最低賃金の設定後に決定されるため、州に比べて賃金が高くなる傾向にある。
*ジャカルタ州都特別州知事規則では、この最低賃金の適用が困難な場合、適用延長申請を知事宛に申請できる。

2014年 最低賃金の結果

No 県/市/地区 2013年 
州別最低賃金・
地域別最低賃金
(UMP/K
2014年 
州別最低賃金・
地域別最低賃金
(UMP/K
上昇率
    目標 結果 %
1 ジャカルタ特別州 Rp2,200,000 Rp 3,700,000 Rp2,441,000 10.95%
2 西ジャワ州ボゴール市 Rp2,002,000 Rp 3,003,000 Rp2,352,350 17.50%
3 西ジャワ州デポック市 Rp2,042,000 Rp 3,063,000 Rp2,397,000 17.38%
4 西ジャワ州スカブミ県 Rp1,201,020 Rp 1,801,530 Rp1,565,922 30.38%
5 バンテン州タンゲラン Rp 2,203,000 Rp 3,304,500 Rp2,444,000 10.94%
6 西ジャワ州ブカシ市 Rp2,100,000 Rp 3,150,000 Rp2,441,954 16.28%
7 西ジャワ州カラワン県 Rp2,000,000 Rp 3,000,000 Rp2,447,500 22.38%
8 西ジャワ州プルワカルタ県 Rp1,693,167 Rp 2,539,751 Rp2,100,000 24.03%
9 西ジャワ州スバン県 Rp1,005,000 Rp 1,507,500 Rp1,577,956 57.01%
10 西ジャワ州チアンジュール県 Rp 970,000 Rp 1,455,000 Rp1,500,000 54.6%
11 西ジャワ州インドラマユ県 Rp1,125,000 Rp 1,687,500 Rp1,276,320 13.45%
12 バンテン州チレゴン市 Rp 2,200,000 Rp 3,300,000 Rp2,443,000 10.45%
13 西ジャワ州バンドン県チマヒ市 Rp1,538,703 Rp 2,308,055 Rp1,735,473 12.79%
14 中部ジャワ州スマラン県 Rp1,209,100 Rp 1,813,650 Rp1,423,500 17.73%
15 中部ジャワ州ドゥマック県 Rp 995,000 Rp 1,492,500 Rp1,280,000 28.64%
16 中部ジャワ州ケンダル県 Rp 953,100 Rp 1,429,650 Rp1,206,000 26.53%
17 東ジャワ州シドアルジョ県 Rp1,720,000 Rp 2,580,000 Rp2,190,000 12.79%
18 東ジャワ州スラバヤ市 Rp1,740,000 Rp 2,610,000 Rp2,200,000 17.73%
19 東ジャワ州グレシク市 Rp1,740,000 Rp 2,610,000 Rp2,195,000 27.33%
20 東ジャワ州モジョケルト県 Rp1,700,000 Rp 2,550,000 Rp2,050,000 26.44%
21 東ジャワ州パスルアン市 Rp 1,195,800 Rp 1,793,700 Rp1,360,000 26.15%
22 リアウ諸島州バタム市 Rp2,040,000 Rp 3,060,000 Rp2,442,092 19.71%
23 北スマトラ州メダン市 Rp1,460,000 Rp 2,190,000 - -

出典:CITU/KSPSI作成資料

州別最低賃金表 2014年
番号 2013年州最低賃金 2014年州最低賃金 増額(ルピア) 上昇率(%)
1 東カリマンタン 1,752,073 1,886,315 134,242 7.66
2 西パプア 1,720,000 1,870,000 150,000 8.72
3 北スマトラ 1,375,000 1,505,850 130,850 9.52
4 西ヌサ・トゥンガラ 1,100,000 1,210,000 110,000 10.00
5 西スマトラ 1,350,000 1,490,000 140,000 10.37
6 マルク 1,275,000 1,415,000 140,000 10.98
7 中部カリマンタン 1,553,127 1,723,970 170,843 11.00
8 パプア 1,710,000 1,900,000 190,000 11.11
9 東ヌサ・トゥンガラ 1,010,000 1,125,000 115,000 11.39
10 南スマトラ 1,630,000 1,825,000 195,000 11.96
11 ブンクル 1,200,000 1,350,000 150,000 12.50
12 ゴロンタロ 1,175,000 1,325,000 150,000 12.77
13 アチェ特別州 1,550,000 1,750,000 200,000 12.90
14 バンテン 1,170,000 1,325,000 155,000 13.25
15 ジャンビ 1,300,000 1,502,300 202,300 15.56
16 北マルク 1,200,622 1,440,746 240,124 20.00
17 西スラウェシ 1,165,000 1,400,000 235,000 20.17
18 南カリマンタン 1,337,500 1,620,000 282,500 21.12
19 リアウ 1,400,000 1,700,000 300,000 21.43
20 リアウ諸島 1,365,087 1,665,000 299,913 21.97
21 北スラウェシ 1,550,000 1,900,000 350,000 22.58
22 南東スラウェシ 1,125,207 1,400,000 274,793 24.42
23 南スラウェシ 1,440,000 1,800,000 360,000 25.00
24 中部スラウェシ 995,000 1,250,000 255,000 25.63
25 バンカ・ブリトゥン 1,265,000 1,640,000 375,000 29.64
26 西カリマンタン 1,060,000 1,380,000 320,000 30.19
27 バリ 1,181,000 1,542,600 361,600 30.62
28 ランプン 1,150,000 該当なし
29 ジョグジャカルタ特別州 947,114 該当なし
30 西ジャワ 850,000 該当なし
31 中部ジャワ 830,000 該当なし
32 東ジャワ 866,250 該当なし

出典:労働・移住省、雇用社会保障・労使関係育成総局2014年資料より作成

2.インドネシア労働組合総連合(CITU)の現状と課題

ナニ・クスマエニ・ドディ
CITU女性・教育局 担当副事務局長
金属労働者連盟(FSMI) 教育局員

 

1.CITUの現状

 CITUには、金属、電子、自動車、教員、化学・エネルギー、鉱山、石油、ガス、森林・木材など9つの産業別組織が加盟し、合わせて約145万人を組織している。
 全体として取り組んでいる課題は、アウトソーシング労働の廃止、適正賃金(最低賃金)、社会保障の実現、海外の出稼ぎ労働者の保護、労使関係裁判所に関する法律の改正などがある。その中で特に今年度重点を置いているのが、[1]アウトソーシングの廃止[2]最低賃金の引き上げ[3]出稼ぎ労働者の保護――である。
 適正な賃金には最低賃金問題がある。インドネシアでは、地方(州)、県・市、特定の地域では産業別ごとに最低賃金が決められている。2013年は50%の引き上げ要求を掲げ、結果として最低21.95%、最高57.72%の引き上げを実現した。2014年は最低10.45%、最高30.38%となった。2015年には最低30%の引き上げを要求すると同時に、労働法に明記されている最低賃金算出の根拠となる「適正生活基準値(KHL)」を現在の60品目から84品目への改正を求めていく。最低賃金は、労働移住大臣がKHLを設定し、KHLに基づき、政労使三者構成の全国賃金協議会の審議を経て、毎年各州の知事が決定することになっている。KHLは、労働者1 人が1 日3000 kcal の摂取を基準として住居、教育、光熱、医療など適正な生活を営むのに必要な金額を算出した数値とされているが、まったく実態に合っておらず問題である。
 今年から、インドネシア全体で、国民全体を対象とした社会保障制度(国費と加入者の保険料で無料の医療提供をめざす)が開始された。インドネシアでは、無保険者も多いことから、すべての国民がこの制度への加入を早期に進める必要がある。このほかにも、家事労働者や海外へ出稼ぎに出ている労働者の保護という観点では、新しく法律を制定することを強く求めている。

2.課題解決に向けた取り組み

 取り組みに当たっては、常に3つのステップを基本的な考え方として、これに沿って行動する。第1段階は、いきなり行動するのではなく、しっかりとした調査や研究などを行ないコンセプトを定めてから動く。第2段階として、そのコンセプトを、政府や関係者にロビー活動を通じて要求内容をしっかりと伝える。第2段階のロビー活動で成果が得られない場合、第3段階として社会的支持の拡大を目的としてデモやキャンペーンなど、具体的な行動に移して訴えていく。
 インドネシアでも地方自治が進んでいるので、各地方の政令に要求を反映されるような活動も行なっている。今年4月の総選挙では、2人の労働組合出身者を地方議員に当選させることに成功した。

3.その他

 CITUは、大統領選挙に関して支持する候補者の選定に時間をかけてきた。労働組合とコミュニケーションを取れる人物かどうか、さまざまな候補者と意見交換し、労働組合のめざすもの、考え方に賛同する人かどうかを見極めて、最終的にグリンドラ党のプラボウォ氏1人を支持することになり、政策協定も締結した。
 2年前の最低賃金や社会保障の要求活動の中では、工業団地においていわゆるスイーピング行為が行なわれたが、3段階の活動の最後の行動に相当する部分なので、その前の段階で解決することをめざして、現在は行なわれていない。
 また、工場、産業の集積地では、労使関係裁判所を設置しなければならないと法律で定められているが、今のところ州レベルでしか設置が進んでいない状況にある。現在の課題は、裁判所をせめて県レベルまで設置することである。そうでなければ交通費がかかりすぎて費用を安く解決しようという趣旨に合致しない。政府はこの提案に消極的なので、労働組合が労使関係裁判所に関する法律の大幅な改正に取り組まなければいけないと考えている。

3.インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI)の現状と課題

ストリスナ
インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI)
飲食料・観光・レストラン・ホテル・タバコ連盟事務局長

 

1.KSBSIの現状

 KSBSIの直面する課題は、第1にアウトソーシング問題、第2に結社の自由、第3に社会保障、第4に賃金があげられる。
 中でも、賃金は最重要問題である。最低賃金決定に当たり基準となる必要品目数をこれまでの60品目から86品目に増やすようめざしている。最低賃金が労働者にとって一番の福祉であり、セーフティーネットだと考える。
 インドネシアはILOの中核的8条約をすべて批准している。しかし、批准していても現状は必ずしも守られていない。特に、87号条約である結社の自由に関して、政府が遵守の監視を行なったり、行動を起こしたりすることはない。

2.課題解決に向けた取り組み

 アウトソーシング問題に関しては、単独ではなく他の労働組合とネットワークを作り、ロビー活動を展開し、政府に働きかけを行なっている。
 インドネシアでは、企業が色々な名目をつけて労働組合の存在を認めようとしないことが実態としてあるので、法律が遵守されているかを監視する活動をしている。
 社会保障に関しては、インドネシアで新たに国民全体を対象とした社会保障制度が開始されたので、普及活動に力を貸すと同時に、実施を監視することが重要になっている。
 賃金関連では、政府が賃金関連の法案を提出する場合には、作業部会を設立し対案を作成して政府に提出している。

3.その他

 経営者団体であるインドネシア経営者協会(APINDO)に関して、経営者の10%程度しか加盟していないとはいえ、労使関係の中ではその存在を無視できない。本来は労働者と経営者の間の橋渡し役を期待したいが、現実には逆に障害となることが多い。日本のような経営者団体と労働者組織のあり方、文化をインドネシアに伝えてほしい。
 
*1ルピア=0.0085円(2014年6月20日現在)