2011年 インドネシアの労働事情

2011年6月17日 講演録

インドネシア労働組合総連合(CITU)
ジュフリザル

 

1.当該国の労働情勢(全般)

2.労働組合が現在直面している課題

a. 労働人口は非常に多く、1億1600万人又は57.83%(*訳注:57.83%は67.83%のタイプミスと思われる)となっているが、そのうち57.44%は小学校までの教育しか経験していない。大学以上の高等教育経験者は576万人又は4.97%となっている。
b. 雇用吸収能力が限定されているため雇用機会も少なく、労働者の多くがインフォーマルセクターで働いている。半数以上が自らの意思で選択している。この労働層には社会保障体制がなく、健康を害しやすい。
c. 既存産業のフォーマルセクターに勤務していたとしても、大多数は契約労働、日雇い、下請労働者(不安定な労働者)であり、社会保障へのアクセスを持たない。
d. 組合員組織化のため、労働組合はもっと努力しなくてはいけない。労働組合に参加する機会は縮小しているからである。
e. 管理機能が不十分なため、労働組合員への違反が頻発している。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

a. 雇用問題を議論する三者協力機関に対し、総連合レベルの労働組合はより積極的にかかわらなくてはならない。
b. 組合員の組織化、活動家の活発化、能力開発のためにも、パートナー(ILO、FES、JILAF)と協力する。
c. 三者協力機関における、労働問題の監督者としての政府の役割を支援する。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 インドネシアのおける多国籍企業はすでに長い歴史があり、例えば:パナソニック、トヨタ、ホンダ(1970年)、ダイハツ、スズキ、ヒノ、ヤマハ、コマツ(1975年)などである。現在はサービス業・銀行業にも拡大し、企業数はさらに増えて数百に達し、多数の労働者を雇用している。
一般的に、多国籍企業での福利厚生環境は良好であり、経営側と労働組合との関係も活発かつ調和的である。

インドネシア福祉労働組合総連合 (KSBSI)
マルチュア ラジャ シレガール

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 インドネシアは、2億3千万以上の人口を抱える巨大な国家である。労働人口も1億1千万人に達し、失業者は860万人にものぼる。労働者のうち、3割のみがフォーマルセクターに勤務し、残りはインフォーマルセクターで働いている。1997年初頭から始まり1998年にピークを迎えた経済危機以降のインドネシア改革時代において、インフォーマルセクター従事者は一気に増加した。労働者は増加したものの、新規の雇用機会拡大とはならなかったため、インフォーマルセクター労働者が増えていった。

1.最低賃金

 インドネシアにおける最低賃金は、各州の賃金委員会によって決定されている。各州の最低賃金は各地域賃金委員会が実施した調査結果に基づいて年末に決定され、翌年より適用となる。

2.教育レベル

 インドネシアにおける労働者の教育レベルは低く、2010年の中央統計庁調査によると、22.28%の労働者は教育を受けていないか又は小学校も卒業していなかった。29.22%の労働者は小学校卒、18.90%は中学校卒、22.32%は高等学校卒、7.28%の労働者は専門学校又は大学卒であった。

3.労働システム・労働契約

 労働に関する2003年法律第13号に基づき、雇用契約には有期雇用契約(PKWT・契約社員)及び無期雇用契約(PKWTT・正社員)の二種類が存在する。

4.社会保障

 フォーマルセクター就労者は、全員が労働者社会保障に参加する義務がある。しかし実際には、全労働者がこれに参加し労働者社会保障の恩恵を受けているとは言えない。

5.年金保証

 年金保証は、公務員のみに与えられている。

2.労働組合が現在直面している課題

労働省のデータによると、現在インドネシアには労働組合の総連合として4団体が存在し、国家レベルの連合として86団体、地域レベルでは100以上の団体が存在している。

 多数の労働組合が存在するため、各組合は各自の利益のために闘っており、組合の分裂も起こりやすい。組合間で会員獲得競争もあり組合対立も起こりやすく、組合のバーゲニング・ポジションの低さにもつながっている。
 組合結社の自由への違反や最近の雇用契約システムのために、新規組合員を獲得しにくい状況となっており、組合の会員数も減少している。
 組合執行部での個人的対立から発生する組合の分裂も、最近の大きな課題だ。
 雇用環境への監視業務が弱まっている点も、組合の困難な課題の一つである。

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

 現在、存在する諸問題を低減させるためにインドネシアでの組合活動を統一しようとする動きがあるが、互いの利益の相違という障害が立ちはだかっている。
 組合間の相互連絡を目的としたフォーラム結成はすでに同意がなされているものの、各組合がそれぞれ多忙のために話は進んでいない。
 違反件数を最少化するためにも、労働法、特に契約労働システム管理に関する法律への改定案が存在する。

全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)
アフマッド スプリアディ

インドネシア繊維・衣料・皮革労働者組合

 

1.当該国の労働情勢(全般)

 基本的にインドネシアの労働者は高い意欲を持っているが、労働者の福利厚生が未整備という課題があり、多くの企業には従業員の健康を保証する機能がない。また、インドネシアの労働者は納得できる連絡や相談のない命令・指示に対して敏感である。インドネシアの労働者は労働に関する法規をよく理解しており、それら規定内容は交渉することなく全て実施されるよう希望している。

 雇用に関する統計上の状況について(ILO 2010)

  • 15歳以上の人口 108,131,000
  • フォーマルセクター就労者 36,583,000
  • インフォーマルセクター就労者 61,535,000
  • 失業者 10,548,000
  • 社会保障を持つもの
    フォーマルセクター 36,048,000
    インフォーマルセクター  → まだ社会保障がない
  • 賃金 → 州別最低賃金/県別最低賃金/業種別県別最低賃金

2.労働組合が現在直面している課題

  • 法令違反の雇用契約
  • 外部委託体制
  • 買い手が注文を決定するため、突然終了する場合もある
  • 企業や労働者をなおざりにした認可の存在
  • 適正な賃金合意
  • 部門別賃金の合意は非常に困難である

3.その課題解決に向け、どのように取り組もうとしているのか

  1. 政府や議会に対し、契約雇用や外部委託を廃止するよう圧力をかけ、法令遵守の監視強化を求めている。
  2. 労働者と企業家が調和のとれた関係を持てるよう、企業連盟とのコミュニケーションを拡大している。
  3. インドネシア、バンテン州、タンゲラン県の地方賃金委員会に対して働きかけている。

4.あなたのナショナルセンターと政府との関係について説明してください

 全インドネシア労働組合総連合執行部と政府との関係は十分良好と言え、相互連絡も円滑に進んでいる。
 政府が労働問題を真の重要課題としてあまり捉えていないように見える点が、問題である。
 インドネシア共和国の労働関連法では、政府と労働組合は以下のような機関を通じた関係を持っている。

  • 国家レベル・地方レベルの三者協力機関
  • 国家レベル・地方レベルの労働安全衛生評議会
  • 国家レベル・地方レベルの賃金委員会
  • 国家レベル・地方レベルの生産性委員会
  • 職業訓練委員会

5.あなたの国の多国籍企業の進出状況について、また多国籍企業における労使紛争があればその内容についてお知らせください

 多国籍企業の進出には通常であれば二カ国が関係するが、それ以外に複数の投資家が関係する場合もある。
 多国籍企業で問題が発生した際、政府の方針として投資家保護の傾向が強く、厳しい交渉の中で労働者側が妥協しなくてはならない状況となることもある。