2019年スリランカの労働事情

2019年6月27日 講演録

 国際労働財団(JILAF)では、将来を嘱望される各国(フィジー、インド、ネパール、フィリッピン、スリランカ)若手労働組合活動家を招へいし、それぞれの国の労働運動に活かしてもらう観点から、日本の労働事情や建設的な労使関係などを学んでもらった。そのプログラムの一環として、各国の労働を取り巻く現状や課題などの共有化を図るため、6月27日(木)に「労働事情を聴く会」を開催した。
 以下は、その報告の特徴的概要をまとめたものである。

基本情報

 スリランカはインド南部と海峡を挟みインド洋に浮かぶ島国である。面積は6.6万平方キロ(北海道の約0.8倍)、人口はおよそ2088万人、民族はシンハラ人が7割強、タミル人が2割弱である。国民の約70%は仏教徒であり、ヒンドゥ教徒は16%、イスラム教徒は約10%である。政治体制は共和制で一院制をとっている。その独立は1948年で英連邦の自治領セイロンとしてであった。その後、1972年自治領から完全独立し、スリランカ共和国に改称、さらに1978年にはスリランカ民主社会主義共和国と国名を定めた。1983年タミル・イーラム解放の虎(LTTE)との四半世紀にわたる内戦が、2009年ようやく終結に至った。今年(2019年)4月に最大都市コロンボをはじめとした8か所同時爆発事件が発生、多くの犠牲者(256人死亡)が出たことは記憶に新しい。
 経済は2015年以降4%前後の推移で持続的な成長を遂げている。主要な産業は農業(紅茶、ゴム、ココナツ)、繊維業だが、経済の高度化や輸出産業の育成が不十分であり、対外収支は赤字となっている。失業率は2017年4.2%で安定的であり、物価は2017年6.7%と一桁台を維持している。最低賃金は、2016年に定められた月額1万ルピー(約7000円)が継続されている。労働力人口は800万人強。産業別就業者割合は、サービス業47%、農業27%、製造業26%だが、その多くは日雇労働者であったり、インフォーマルセクター労働者である。スリランカの主要ナショナルセンターは、今回参加のCWC(農業プランテーション、教職員組合、地方自治体労組など5産別、19万人)、NTUF(プランテーションと製造業の2連合体と8組合など、27万人)、SLNSS(運輸、電力、農園、商業サービスの4連合会508組合、8万人)とNWCである。
(注)概要の概ねは外務省とJILAF情報。

セイロン労働者会議(CWC)
ウマダハルシニ ムニヤンディ

セイロン労働者会議(CWC) 女性コーディネーター

ヴィノツジ ジャヤラム
青年コーディネーター

スリランカ全国労働組合連盟(NTUF)
ラクサパシ マハ ヴィダナァラジ ガヤン マキシム デ メル

ダンペ村ホテル労働組合 支部長

スリランカ・ニダハス・セワカ・サンガマヤ(SLNSS)
ヴィンディア ハンシニ バムヌ アラチチヂ

スリランカ・ニダハス・セワカ・サンガマヤ(SLNSS) 書記長

 

労働を取り巻く現状と課題

1.増大するインフォーマルセクターと正規・非正規・短期雇用問題

[SLNSS]
(1)減少する組合員-求められる若年労働者の組織化

 大きな課題として組合員の減少が挙げられる。その減少する主要な要因は、使用者が非直接雇用、短期契約など、いわゆる非標準的な雇用形態を導入していることに起因している。スリランカは結社の自由と団体交渉権に関するILO条約を批准しているが、使用者は組合に対し敵対的な態度をあらわにし、組合つぶしを目論んでいる。労働省はこうした事態に全く対処できず、民間セクターの雇用者の90%以上が未組織となっている。組合はこうした課題に3つの角度から取り組んでいる。1つは、正規社員と同じ仕事内容である場合、第三者を介した雇い入れは違法とする法律を提案した。この法案は全国労働諮問会議の承認を得たのち、2年以上前に内閣に提出された。現在、この法案が閣議決定された旨の報告を政府から受けており、まもなく議会に提示され承認を受ける見通しである。2つには、協約締結のある企業に対し、あらゆる非標準的労働を制限する条項を協約に盛り込んできた。同時に、不安定な雇用条件にある労働者を組合加入させる協約締結なども行ってきた。最後3つには、出産・育児の休暇について様々な要求活動が行われ、議会は出産育児休暇給付を全国一律に認める法案を可決したことや、長年懸案であった公務員の定年を一律60歳とする法案が可決されたこと、などの取り組みである。
 いま1つある深刻な問題・課題がある。それは年金基金の管理に重大な不正行為が発覚したことである。民間セクターの労働者は拠出型老齢退職年金制度のすべてをスリランカ中央銀行に委ねているものの、不正をチェックすべき委員会に労働者代表が入っていない。不正発覚後、労働者にも動揺が広がり、組合は三者構成による諮問委員会を設置を提案している。
 スリランカの組合運動という面で、それを阻害している問題がある。それは若年層を組合に引き付けられないことである。そうした層を引き付けるだけの必要な変革ができていないということに尽きる。真剣にこの問題に取り組んでいかなければならない。

(2)低い組織率・拡散する組合運動-忍び寄る多国籍企業の脅威

 労働者は850万人、うち200万人が政府経営の企業に属している。残りが民間セクター、ないしインフォーマルセクターに属していることになる。労働参加率は男性が74.5%、女性が36.6%となっている。先にも触れたが、労働者の団結権や交渉権を保障した法律があるにもかかわらず、組合組織率は低く、10%を下回る状況である。90%以上が未組織であり、集団で声を上げることが出来ない。その結果、労働運動は拡散しがちであり、組合の乱立やライバル争いなどを誘引している。そんな中にあってもSLNSSは努力・奮闘を続け、最賃の確立など一定の成果を上げてはいる。
 また、多国籍企業の進出が目立ってきているが、中でも、中国系企業が経済の主要部分に流入して来ている。例えば、国際空港が中国系企業に長期のリースとして貸し出された。いやが上にもこの忍び寄る多国籍企業の脅威を感じないわけにはいかない。同時に移民労働者の流入も増えており、未熟練労働者との職の奪い合いとなっている。それ故、失業率4.2%という数字が現実を反映していないのではと疑っている。

[NTUF]
(1)最大の問題は若年層の組合運動への無関心-組合への消えぬ悪印象と不信感

 端的には、若年層が組合になんの関心も抱いていないということである。インターネットの発達が若年層に多くの雇用機会を生んでいるが、その形はプロジェクト単位のフリーランスの自営業としての活動なのである。誰かの下で働こうという気概はなく、自分の時間でペイ高い個人事業主として働くという思考である。この層を組織化したり、運動に興味を持たせたりすることは至難の業である。
 また、若者に限らず、総じて「組合は何の問題解決もしてくれない」という烙印を押されている。その原因には、1980年の大規模ストライキで4万人が一挙解雇の憂き目にあい、その解雇された中の公務員が裁判所に訴え出ることもできず、何の法的恩恵に浴すこともない立場に追いやられてしまったことや、2011年に労働者の年金基金の不正流用に抗議するストに際し、警官が発砲し3人が死んだというようことなど、社会を反組合意識へと誘引する実際の事件があったからである。悪印象、根深い不信感が容易に消えない所以なのである。
 もう一つ加えれば、組合員になることでの不利益が降りかかるという問題である。それは、組合員になることで政党や政治リーダーから目を付けられ、公職ではいい仕事にありつけないという懸念があるからである。政治の影響は組合にとって無視しがたいものである。強すぎる政治サイドからの関与は大きな問題となっている。

(2)法の目で見えないアウトソーシング分野・増大するインフォーマルセクター
-いずれも困難な組織化

 アウトソースが進んでいる。清掃やセキュリティー、庭師などの肉体労働がそうした対象となっている。労働者にとって、アウトソースの仕事は一度失えば、次の仕事を見つけるのが困難な状況に陥る類のものである。そうした労働者は、派遣元が働いている当該企業ではなく外部にある。そのため、組織化は相当に困難である。そもそも派遣元はインフォーマルなものが多く、登録なし、住所登録なし、派遣した労働者に対する社会保障費も払っていない。そのため表に出てくることを嫌うのである。アウトソースで派遣されてくる労働者は、法の目からは見えない存在なのである。
 また、インフォーマルセクターの増大も大きな問題となっている。30年に及ぶ内戦のあと、様々な建設現場や道路工事で多くの人が働いているが、ほぼ全員が契約社員はおろか日雇いなのである。明日職場からいなくなる労働者の組合組織化はこれまた至難の業なのである。

(3)抜け道の多い多国籍企業-難しい組合のアプローチ

 多国籍企業の進出が組合に難題を突き付けている。スリランカの組合の歴史は、グーネイハという社会主義的考えを持った政治家に始まる。(1922年)そうした背景もあり、ILOのほとんどの条約を批准し、憲法で結社の自由や言論の自由が保障されている。しかし、多国籍企業の取り扱いは、憲法ではなく、BOI(ボード・オブ・インベストメント)という政府の投資委員会に差配され、たくさんの抜け道が用意されている。あたかも全く違う法律で動く1つの州のような扱いになっているといっても過言ではない。多国籍企業は基本的には組合を持ちたくないというのが本音なのである。仮に、組合があったとしても、その労働争議では常に会社側が勝つことになっているようだ。そこには経済的観点からの、政府の多国籍企業への肩入れが透けて見えてくる。それが故に、組合のアプローチは極めて困難が伴う状況となっている。

[CWC]
枚挙に暇がない労働者の直面する課題
-組合運動の違い、賃上げ、健康、住居、子供・女性の教育、多国籍企業

 スリランカでは、ナショナルセンターがそれぞれ異なる目標を掲げて運動を展開することがよくみられる。あるところは賃上げ、他のところでは住宅や教育などの要求を掲げるなどである。こうしたパラレルな取り組みからは生産的効果が生まれにくい。共通の要求を仕立て上げ、力を結集して取り組んでこそ役割が果たせる。労働者、組合員の目線に立った共闘のしくみが求められる。
 賃上げは労働者の生活向上に欠かせない。CWCと使用者連盟とは、この賃金を巡り2年協約の締結を行ったが、使用者側は組合の要求する1日当たり最低賃金1000ルピーには難色を示し、受け入れられなかった。これまでは1日当たり500ルピーにEPF(従業員積立基金)とETF(被雇用者信託基金)が上乗せされ、560ルピーであったが、2019年から2021年の協約では1日の労働者賃金の初任給水準750ルピー(日本円で460円)を要求している。いずれにせよプランテーションセクター労働者の賃金が非常に低い水準であることに変わりはない。
 健康問題では、現状、衛生状態の改善を通じて適切な健康状態が保てるような環境が提供されていない。住居についてみれば、プランテーションでの施設は貧困なものである。1992年から2019年での適切な住居の提供が図られていない。新しく建てられた住宅は不十分な戸数であり、多くの労働者が3~4年待たされる状況にある。
 子どや女性に対する適切な教育という点での問題である。収入が少ないため労働者の子供たちは適切な教育、高等教育を受ける機会が極めて限られている。政府は無料教育という方向性を持っているものの、なかなかうまく機能していない。
 多国籍企業と組合の問題である。スリランカはILOの中核条約をすべて批准している。しかし、公務員は団体協約交渉権がないという実態にあるのが現状である。肝心の多国籍企業の場合、民間であっても自由貿易区(FTZ)では結社の自由に制約がかけられている。FTZでは組合結成ができないのである。
 組合組織化を阻むこうした様々な状況の改善に、CWCは改めて努力していかなければならない。

2.組合員の増加に結びついた労使関係の深まり(ホテル組合の取り組み実例紹介)

[NTUF]
労使の話し合いを前面に―直面する困難を乗り越えて

 スリランカの観光産業はテロ事件により多くの困難に直面している。組合の懸念はこのことによる雇用への影響である。全てのホテルが人員削減や契約従業員の解雇を図っていた。この苦境を乗り越え、労使双方がウィンウィンとなる状況をつくり出さなければならない。そのため、過去の取り組みとは異にして、労使の話し合いと非暴力的な組合行動で双方がウィンウィンの状況となるよう努力した結果、経営側との信頼関係が深まり、それによって職場での労働環境改善に結びついた。一方、こうした厳しい現況に直面し、雇用者の不安を解消してくれる組合への期待機運の高まり(=組合への信任の向上)や、新規組合員加入を誘引するチャンスが生まれてきた。その機会をとらえ、新たなメディアによる効果的なコミュニケーションづくりで若者の組合加入対策が図られた。組合とホテル福祉協会と密接に協力し、ホテルのあらゆる福祉事業にも積極的に関わる活動が行われ、多くの労働者が組合を肯定的にみるようになった。こうした結果、組合員数が増加するという成果に結びついた。