2011年 スリランカの労働事情
セイロン労働者会議(CWC)
Ms. ラリタ・メラニー・マリドウア・リヤナゲ
1.労働事情(全般)
スリランカの人口は2,048万人である。このうち労働力人口は約800万人で、200万人が政府部門、600万人が民間部門に属している。プランテーション(大規模農園)の就業者数は2010年12月現在で労働力人口全体の33%に相当する260万人を占めていた。
スリランカには、およそ2,000の登録された労働組合が存在する。このうち、1,059組合が政府部門、562組合が公社部門、375組合が民間部門である。しかし、組織率は労働力人口全体の15~20%である。
労働組合法の規定に従い、労働省の労働組合登録官に7名の人数で申請することによって労働組合を設立し、登録することができる。
賃金は賃金・給与委員会によって決定される。しかし、プランテーション部門の賃金は、2年毎に改定される労働協約によって決定されている。
店舗・事務所法及び労働法に従い、児童労働(年齢14歳以下)は禁止されている。
労働者の権益は、労働争議法、労働組合とセイロン使用者連盟との間で2年毎に締結される労働協約によってカバーされ、さらに健康・安全法及び労働者補償法によって守られている。
しかし、公務員は労働争議法の適用外であり。公務部門の労使関係事項は、内閣によって決定されている。
2.労働組合が現在直面している課題
スリランカの労働組合は、現在、政府によって議会へ提案された「民間部門年金計画」に反対し、幾つかの労働組合は抗議やデモなどを組織した。最近、この問題に関して抗議の一環として、コロンボ自由貿易圏内において雇用されている若い労働者が、警察の銃撃によって死亡する事件が起きた。それ以来、政府は一時的にこの年金計画を棚上げにした。
スリランカでは労働組合が多数存在すること、また、細分化されていることにより、組合員の少ない、小さな組合が乱立している。大きな労働組合も力が弱まってきている。それゆえ、労働組合の交渉力が失われてきており、これが緊急の問題となっている。
3.課題解決に向けた取組み
「民間部門年金計画」の問題については、労働組合は、何度も、政府、大統領と対話を持ってきた。CWCも代表を送っている全国労働諮問評議会では、労働組合は重大な問題として取り上げ、現在の計画の完全なる廃止を要求している。その代わりに新しい計画が議論されるべきであると要求している。
CWCの擁する「サブミアモールチ・トンダマン記念財団」は、プランテーション部門の学生に教育支援を提供している。また、この財団は自営業者向けに小規模融資を行ない、若者を対象に職業・専門科目における訓練も提供している。
4.ナショナルセンターと政府との関係
CWCは、現内閣に大臣を抱え、現政権を支持する連立政権として存在している。CWCの政治支部は、地方政府、州評議会を含むすべての憲法上の機関に組合代表者を送り込んでいる。CWC事務局長アルムガン・トンダマンは国会議員かつ現スリランカ内閣の大臣である。また、CWC会長ムトゥ・シバリンガム議員は副大臣である。
5.多国籍企業の進出状況と労使紛争
多国籍企業の多くは自由貿易区で活動している。自由貿易区内に組合を設立することは禁止されており、福祉委員会のみが機能している。
スリランカ全国労働組合連盟(NTUF)
Mr. ウイジェックマラン・シンナタンビー・ピカムツ
1.労働事情(全般)
スリランカの総労働力は約800万人で、その構成は、海外出稼ぎ、衣料品産業、茶とゴムのプランテーション、農業、宝石産業、そしてインフォーマル部門に従事する労働者である。スリランカは海外出稼ぎや茶、ゴム、宝石、衣料品の輸出を通じて外貨を得ている。
スリランカの総労働力の3分の2はインフォーマル部門に属している。インフォーマル部門の例として、移民労働者あるいは家庭内労働者、派遣労働者あるいは契約労働者、農業従事者などがある。このような労働者は組織化されていない。労使間の関係が欠如していることから、組織化が難しくなっている。
次に、労働法制は、契約労働者や家庭内労働者以外を対象とした法律は存在している。それらの法律は適切なものであるが、厳格に適用されているとは言えない。労働監督官も十分に役目を果たしていない。工場が急増する中、雇用労働者の数が増え、それに伴い多くの労働問題や労使紛争が起こっているが、対応しきれていないため、労働組合の担う役割はますます重要になっている。
2.労働組合が現在直面している課題
団体交渉に必要な40%組織化
大規模に存在するインフォーマル部門を組織化することができない、という課題がある。外部委託や請負業務に頼る使用者の数が増えている問題もある。また、スリランカにおける大きな問題として、使用者が労働組合を認めようとしなという問題がある。法律では、職場において従業員の40%を労働組合が組織していないとその労働組合は使用者との団体交渉が認められないということになっている。NTUFとしては、政府に対してこの法規則の緩和を要請している。
EPZにおける組織化の困難
スリランカの抱える問題として、輸出加工地区(EPZ)においては、使用者が解雇などの報復措置によって労働組合結成を阻止するために労働者の組織化が難しくなっている。
また、労働組合指導者はEPZに立ち入ることができない。労働監督官は、普通の企業にはいつでも立ち入ることができるが、EPZにおいては、労働監督官であっても、使用者側からの事前許可なく立ち入りはできない。コロンボ港で17の労働組合がサボタージュを行ったときに、最高裁判所はそれを法律違反であると宣言した。
教職員の逮捕
教師にかかわる問題で、一部の教職員の労働組合が中等教育上級課程の修了試験の答案用紙の採点を拒否したときに、これらの労働組合の5人の指導者が逮捕され起訴された。現在は釈放されている。
年金法案反対デモ
最近、カツナヤカというEPZで起きた事件で、年金法案に反対して労働者がデモを行なったが、デモ隊は警察に襲われ、その際に警察の発砲により一人の若者が死亡し、数名の負傷者が出た。このような状況から、若年労働者は問題があるときは、労働組合を頼るというよりも、政治家を頼るようになっている。
チェックオフ制度の不備
プランテーションの労働組合は使用者側と、毎月幾ら給与から差し引くというチェックオフ協定を結んでいるが、組合費を給与からチェックオフを実施する法律がスリランカにはない。
3.課題解決に向けた取り組み
スリランカからの移民労働者の組織化
スリランカから海外に出かける移民労働者数が増えている。海外での仕事は、合法であろうと、違法であろうと、雇用の安定というものがなく、特に一番脆弱なのが女性である。したがって、移民労働者の組織化に力を注いでいる。
インフォーマル部門の組織化、ジェンダー平等への取り組み
インフォーマル部門の組織化にも力を注いでいる。将来の組合のリーダーとなるべく若い世代の訓練も行なっている。また、ジェンダー平等促進の運動も行なっている。
「組織率40%」規則の引き下げ要求
使用者と団体交渉をするためには、法律で最低でも職場の40%の労働者を組合は組織しなければならないが、この40%という基準値を引き下げる運動を行なっている。
労働組合権確立に向けた若い指導者の育成
スリランカが批准したILO条約の国内適用に関して、ILOの専門家委員会に定期的に報告を行なっている。
また、国内の労働組合が団結し組合権の抑圧に反対する運動を展開している。最近、スリランカの様々な労働組合が集まるフォーラムがつくられた。こうした共同の場を通じて、組合同士の団結を強めていく取り組みを行なっている。
また、個々の労働組合の能力を強めていくことも重要である。将来、労働組合のリーダーになる人たちを養成するために、若者や女性を対象とした特別な労働組合のプログラムを企画し実施している。