2019年 ネパールの労働事情

2019年6月27日 講演録

 国際労働財団(JILAF)では、将来を嘱望される各国(フィジー、インド、ネパール、フィリッピン、スリランカ)若手労働組合活動家を招へいし、それぞれの国の労働運動に活かしてもらう観点から、日本の労働事情や建設的な労使関係などを学んでもらった。そのプログラムの一環として、各国の労働を取り巻く現状や課題などの共有化を図るため、6月27日(木)に「労働事情を聴く会」を開催した。
 以下は、その報告の特徴的概要をまとめたものである。

基本情報

 ネパールはインドと中国に国境を接し、エベレストを含むヒマラヤ山脈をその国土に有している。面積は日本の約40%(約14.7万平方キロ)、人口はおよそ2900万人余り、この内8割強がヒンドゥー教徒である。政治体制は連邦共和制(2008年王政廃止、2015年新憲法制定で共和国体制が整い、2018年連立政権を組む2つの共産党が統合、2院制)をとっている。経済成長率は2016年0.4%、2017年7.5%で、農業への依存度が高く(農林水産業従事者が就労人口の7割弱)、工業化の進展は遅れている。物価動向は、2016年9.9%、2017年4.4%となっている。最低賃金(2018/2019)は、月額9700ルピーから38%引き上げの13450ルピー(約14000円)と、2年5か月ぶりの改善となった。1人当たり所得は依然低く(800米ドル台)、アジアの中の最貧国の一つであることに違いはない。海外への出稼ぎ者からの送金はGDPの3割に達するとみられる。労働組織(ナショナルセンター)としては9つあるが、ITUCに加盟するのは3つである。(ネパール労働組合会議〈NTUC〉、ネパール労働組合総連盟〈GEFONT〉、全ネパール労働組合連盟〈ANTUF〉)
(注)概要の概ねは外務省、JILAF情報。

ネパール労働組合会議(NTUC)
ガネシュ バハダール ケーシー

ネパール労働組合会議(NTUC) 副事務局長

 

労働を取り巻く現状と課題
抱える課題はインフォーマルセクターの増大、女性労働問題、並びにグローバル化に伴う仕事の変化-果敢に取り組むNTUC5つの戦略

NTUCの概要、労働市場、組合活動の実態

▶NTUCはネパールにおける最大のナショナルセンターの一つである。結成は1947年、その後民主化・再結成(1990年)を経て、現在はフォーマルセクター、インフォーマルセクター、また公共セクター、民間セクターと広いウイングを構成している。組合員約42万人強、加盟組織27となっている。国際組織ITUCなどにも参加している。
▶民主化が達成されて以降、合弁企業や多国籍企業も増え、銀行や保険、教育、医療、観光セクターなどへの対外投資が盛んになってきている。変化する産業情勢の中、これに対応する労働市場だが、生産年齢人口(15歳~64歳)が2070万人(全人口の7割強)、労働力人口(15歳以上で働く能力と意思のある人)は約800万人、失業人口は約90万人(労働力人口の11.4%)、フォーマルセクターが約4割弱、インフォーマルセクターが6割強の割合となっている。平均収入は月額17809ネパール・ルピー(約1万8000円)である。主な雇用産業は農業部門、商業、サービス業、建設業、非正規部門などだが、GDP比規模別では、サービス産業が52%、農業等が27%、製造業等が15%となっている。この他に、約350万人の海外出稼ぎ労働者の貢献を見落としてはならない。その送金額はGDPの3割を担っているとみられる。こうした労働諸相の改善を目指し、様々な対応が図られてきた。労働関連法(はじめは工場労働者のみが対象)ができたのは1960年代だが、その後労働法、労働関連法制が成立(1992年‐93年)した後、2015年に新憲法が発布され、2017年には社会保障法が成立した。こうした労働に関する一方の当事者であるナショナルセンターは現在9団体存在し、170万人を束ねている。
▶組合活動の実態だが、高いレベルでは、政策機構への参画として中央労働諮問委員会があり、この他には、全国規模・中央規模として最低賃金設定委員会がある。そして企業レベルとしては、労働関係委員会と職業安全衛生委員会がある。こうした参画のしくみはあるものの、組合には抱える問題が重くのしかかっている。

インフォーマルセクターの増大、女性労働問題、並びにグローバル化に伴う仕事の変化

▶インフォーマルセクターの増大、契約労働者の増大が大きな問題となっている。それはこれらのセクターに働く労働者にはなんの社会保障の恩恵もないということだからである。この改善に組合はその役割を全力で発揮しなければならないが、州や地方レベルでは社会的対話の法的裏付けが欠如している。また、組合の側も一枚岩とはなれない現実がある。それは1つの会社に複数組合が存在するということである。定期的な交渉が機能していないため、変則的な社会的対話や交渉となっている。加えて組合リーダーの交渉能力の低さもある。この他、労働行政の弱体化、効率の悪い労働法制の施行、そして労働市場に関する最新情報の欠如といった問題も挙げられる。
▶今1つは、女性労働者の問題がある。差別、職場におけるハラスメント、母性保護制度の欠如などである。
▶さらに、グローバル化に伴う仕事の変化という問題である。技術的進歩は一方でそれへの適応力問題を生んでいる。場合によってはそのことで職を失うという事態もあるが、組合が適切な対策をうてていない。それがために若い世代が組合運動への参加に興味や関心を抱かなくなっている。

果敢に取り組むNTUC5つの戦略

▶こうした直面する問題に対し、NTUCは5つの戦略を提起し、果敢に取り組みを図る決意を固めている。まず、①組織化である。主にインフォーマルセクターの労働者、つまり未組織労働者の組織化に挑むということである。また、州レベル、ローカルレベルでのネットワークの確立、若年層や女性組合員のネットワーク化の推進も図っていく。次に、②若者や女性の能力、またはリーダーシップとしての能力醸成を図るということである。さらに、③労働者の権利の拡充、社会的対話の促進、労働協約の推進である。中央レベル、州レベル、地方政府レベルという、3つのレベルでこの社会的対話を具体的に推進していく。4点目は、④キャンペーン活動や動員活動の推進である。労働者の知見を高めるということであり、社会保障や新しい労働法制、最低賃金などについて認識を高めていく。最後5点目は、⑤対話や動員、ロビー活動などによって、組合側の意図を政策に反映させる取り組みの推進である。