2021年 バングラデシュの労働事情

2022/1/21 報告

 本報告はCOVID-19パンデミック禍で、2022年1月10日~21日にJILAFが実施した「オンラインプログラム」〔カンボジア・バングラデシュチーム(カンボジアチームは1月10日~14日に実施、バングラデシュチームは1月17日~21日に実施)〕におけるバングラデシュの参加者から報告された「バングラデシュの労働事情」および同提出関連資料に基づいて作成した。なお、今回の労働事情報告は、「コロナ禍における雇用・労働情勢、そうした環境下で生じた最近の労使紛争とその解決に向けた取り組み事例等」を中心に報告された。
 バングラデシュはITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)に加盟する5つのナショナルセンター〔バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)、バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)、バングラデシュ労働連盟(BLF)、労働組合連盟(JSL)、バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)〕から下記の計8名が参加した。

バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)

タスニーム カーン マイシャ(Tasnim Khan Mysha)
バングラデシュ自由労働組合連盟 青年委員会委員 
ルパリ アクター(Rupali Akter)
グラデシュ自由労働組合連盟 中央執行委員(女性部門)

バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)

タスリマ アクター リナ(Taslima Akter Lina)
バングラデシュ民族主義労働組合連合 教育局部員・女性委員会委員

バングラデシュ労働連盟(BLF)

ファテマ アクター(Fatema Akter)
バングラデシュ労働連盟 女性委員会局員
モティアル ラーマン(Motier Rahman)
バングラデシュ労働連盟 青年委員会事務局次長

バングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)

シュモン ハウレイダー(Md Sumon Howlader)
バングラデシュ労働連盟 青年委員会委員

労働組合連盟(JSL)

アンジュマン アラ シャンモ(Anjuman Ara Sammya)
労働組合連盟 テジカオン地区委員

バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)

ジャフリン フェルダス(Jafrin Ferdous)
バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟 女性委員会委員
 
【バングラデシュの労働事情】

Ⅰ〔バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)〕

1.バングラデシュの労働情勢(概況)

(1)バングラデシュの産業構造

 バングラデシュの労働人口は、2020年時点で67,225,702人である(世界銀行「開発指標」による)。その労働人口のほぼ半分が農業セクターに従事している。農業セクターに次いで経済を支えているのが繊維・衣料産業である。この繊維・衣料産業に働く労働者の約85%は女性であり、総じて本人と家族の生活を支えるには低すぎる賃金で、かつ、長時間労働の実態にある。
 近年は、同産業に加えてサービスセクターが影響力のある産業として浮上してきている。このサービスセクターの中では、卸売・小売業、運輸・通信業、金融仲介業が緩やかに成長している。

(2)インフォーマル経済の状況

 バングラデシュの労働指標は、①フォーマル経済、②農村部のインフォーマル経済、③都市部のインフォーマル経済、の3つの市場に区分される。
 なお、労働力人口の87%はインフォーマル経済で働いている実態にある。このインフォーマル経済で働く人々には、①賃金労働者、②自営業者、③無給の家族労働者、④出来高給労働者、⑤その他の雇用労働者が含まれる。そして、インフォーマルな雇用は、都市部よりも農村部に広く見られ、性別では女性でインフォーマルな雇用契約を結ぶ傾向がより強い実態にある。

2.最近の労使紛争と解決に向けた取り組み

(1)バングラデシュにおける労使紛争の解決ルート

 労使二者間交渉やの団体交渉で解決するのが基本だが、ここで解決しない場合は労使に政府機関や行政を加えた「三者間協議および調停」が行われる(この「三者間協議および調停」には、全国レベルの場合と地域自治体レベルの場合がある)。この調停でも解決に至らない場合は「労働裁判所による仲裁・裁定」へと進むことになる。ちなみに、労使二者間交渉やの団体交渉で解決する割合は概ね3割程度にとどまっている。

(2)労使紛争とその要因、労使の主張点

 労使紛争には、雇用契約、労働契約条件、賃金、経済的利益などに起因する課題が多い。なお、あらゆる産業に共通して政府、事業主、購入者(消費者)、労働者の主な4つの当事者(ステークホルダー)があるが、前三者は利益を得ているが、労働者は唯一困窮状態に置かれていると認識している。
 また、労使関係には労使と組織を取り巻く社会的環境も大きな影響を及ぼしており、こうした視点を踏まえ、労使紛争解決のためには社会的対話の必要性も重視すべきと考える。
 なお、職場でよく見られる労使紛争の要因としては次のような点が指摘される。

【職場の無規律状態が要因】職場における無規律や暴力行為が原因で起こる労使紛争で、使用者側はこうした状態に歯止めをかけるためロックアウトを行うことがある。
【労働組合が関与しないことが要因】使用者側は労働組合からの干渉を嫌い、労働組合を承認しないことがしばしばある。こうした状況下で労使の対立が深まる。
【労働組合が脆弱なことが要因】労働組合が脆弱な場合、使用者側は医療、教育、住宅施設といった労働者の基本的ニーズを否定するようになり、労働者と使用者側が直接対立することになる。
【監督者と労働者、使用者側と労働者のコミュニケーション欠如が要因】監督者の行動や使用者側と労働者の適切なコミュニケーションが欠如したことが要因と思われる労使紛争も見られる。
【集団的争議】その他、労使間(労働組合と使用者側)の集団的労使紛争が挙げられる。

3.バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD)のCOVID-19対策

 バングラデシュ民族主義労働組合連合(BJSD) では、女性チームとユースチームによる有志グループを組織している。このグループはCOVID-19対策におけるイニシアティブを発揮し、インフォーマルセクターで働く労働者に特化した支援を行っている。具体的には、健康保持、衛生の維持を基本として、①新型コロナウイルス陽性者のための医療資金の積み立て、②インフォーマル労働者のための食糧支援、③ワクチン接種の支援、などの取り組みを実施している。

Ⅱ〔バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)〕

1.バングラデシュの労働情勢(概況)

(1)2016年の労働力調査によると、バングラデシュにおける労働力の9割近くがインフォーマル経済で雇用されている。このインフォーマル経済の主要なセクターは、建設、船舶解体、露天商、零細企業、在宅労働者(家内労働)、宿泊・飲食店、漁業、農業、人力車業、運輸など、幅広い分野に亘っている。これらのインフォーマル経済で働く労働者の大半が労働法の適用対象外となっている。

(2)バングラデシュの労働法では、使用者は労働者を容易に解雇できる。解雇された場合、労働者は4カ月間「解雇手当」を受給することができる。また、産休期間は公的セクターで6ヵ月、民間セクターで4ヵ月と定められており、この間、該当者は手当を受給することができる。

(3)労働組合にとって、インフォーマルセクターを含め未組織労働者の組織化が最重要課題であるが、多くの使用者側が労働組合に対して「経営への圧迫を受ける存在」との認識を持っているため、労働組合結成を容認しない態度をとることが多い。

2.バングラデシュの社会保障制度

 バングラデシュでは、公共セクターと民間セクターでは社会保障制度が異なる。概して、公共セクターは民間セクターに比べて有利な制度となっている。公共セクターには、年金制度、積立基金の他に、教育・老後・未亡人・祭事・障害者などへの補償制度がある。一方、民間セクターには、積立基金、団体保険、教育奨学金などの制度がある。(上記記載の積立基金は全ての企業にある訳ではない。公的セクターや銀行、縫製業の一部企業などにある制度で、労使がそれぞれ賃金の一定割合の積み立てを行い、労働者が退職時に一時金として受給する任意の退職積立金的な制度である。)

3.最近の労使紛争と解決に向けた取り組み

 インフォーマルセクターで働く労働者が9割近くにも及んでいるが、この大半が労働法の適用対象外であるため、このセクターにおける労働組合の組織化が非常に困難な状況にある。当該労働者自身も自分たちの権利についての知識と認識が欠如している面も指摘される。現在、コロナ禍でインフォーマルセクターをはじめ、多くの労働者が職を失ったが、彼らへの支払いは労働法に従って実施されていないケースが多い。労働組合の組織化の遅れとイニシアティブの発揮が弱い点も労使紛争が適切に解決されていない要因の一つといえる。
 労使紛争の原因としては、コロナ下での失職以外にも劣悪な労働条件への不満、賃金支払いの遅れや未払い、休暇や残業の手続きをめぐる問題などが挙げられる。
 私たちは、労働法とILO条約に従って労使紛争の解決にあたること、労働組合活動を円滑に機能させるため経営側の干渉を排除すること、労使間の良好な関係を発展させることを強く主張している。
 こうした中、多くの労使紛争が両者の話し合いによって解決している。労使紛争が解決したケースにおいては、その結果として生産性が向上している。

4.バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)のCOVID-19対策

 COVID-19感染予防の意識向上を図る取り組みを行うとともに、当該労働者に、非常食・マスク・手指消毒液・石鹸などを配布している。また、COVID-19感染の登録プロセスについてのサポートも行っている。

Ⅲ〔バングラデシュ労働連盟(BLF)〕

1. バングラデシュにおける労働組合組織の現況と課題

 バングラデシュにおいては、FOA(結社の自由)に基づく労働組合結成が阻害されており、労働組合運動の基礎ともいえる「組織化」と「団体交渉」が十分に機能していない。なお、労働組合(ナショナルセンター)が分立・多様化していることも労働組合運動を弱体化させる主な要因の一つとなっている。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大が労働者を取り巻く状況をさらに悪化させている。
 こうした中で、ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)は、労働者の権利を保護するために、加盟する6つのナショナルセンターが団結して役割を果たすための共通プラットホームとして機能しているといえる。

2.労使紛争の現況と課題

 労使紛争のほとんどが縫製業セクターで発生している。労使紛争は、工場レベルでの団体交渉が欠如しているため、労使紛争への適切な対応が行われていないことに最大の課題がある。そして、異議申し立てと話し合いのプロセスも適切に機能していない。
 労使紛争の主なテーマとしては、①賃金、②残業、③賞与(一時金)、④休暇の許可が挙げられる。この他には、セクシャルハラスメントに関する問題も指摘される。なお、上記①~④の各テーマに関する労働者側の具体的な問題指摘(主張点)は、①賃金が期日内に支払われていない、②労働時間が守られていない、③賞与が期日内に適切に支払われていない、④産休を含む各種休暇の許可に関する問題がある、などである。
 労使紛争は労使協議を通じて双方が満足ある解決に至るケースは少ない。団体交渉によって労働協約が交わされても、その労働協約が完全に履行されるケースは少なく、したがって、労働協約を履行させるための新たな協議と協約の締結が必要になる場合もある。

3.バングラデシュ労働連盟(BLF)のCOVID-19対策

 COVID-19感染予防の意識向上を図る取り組みを行うとともに、当該労働者に、保護用品などの配布、食料品支援や現金給付(当該労働者への手渡し)、労働者へのワクチン接種に関する要求、などの取り組みを行っている。これらの取り組みにおいては、特に内職労働者や自宅待機中の労働者に対する支援活動を全国的に展開している。

Ⅳ〔労働組合連盟(JSL)〕

1.最近の労使紛争と解決に向けた取り組み

 最近の労使紛争要因としては、雇用条件をめぐる問題、賃金の支払いをめぐる問題、昇給規約に関する問題、などが挙げられる。
 労使紛争の解決ルートとしては、労使二者間の話し合いで解決するのが基本だが、ここで解決しない場合は労使に政府機関や行政を加えた「三者間協議および調停」が行われ、この調停でも解決に至らない場合は「労働裁判所による仲裁・裁定」の段階へと進む。労使はこうしたルートを通じて解決策を模索することになる。
 労使紛争において労働者側(労働組合)は、①採用に関する契約内容の明確化と遵守、②賃金を期日内に適切に支払うこと、③労働時間に関する規定の明確化と遵守、④労働組合活動への理解と尊重、職場環境の改善、などを主張している。
労使紛争は、労働者・使用者・政府の「三者間協議および調停」で全て解決している。また、労働組合と事業主が対話を通じて解決するケースもある。

2.労働組合連盟(JSL)のCOVID-19対策

 労働組合連盟(JSL)は全国の困っている労働者への食糧支援やマスク・消毒液など衛生用品の提供、感染予防・対策のためのリーフレットの作成と配布、などの取り組みを行っている。

Ⅴ〔バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)〕

1.労働情勢(全般)

 主な経済・労働統計は下記の通りである。

  2019年 2020年 2021年
実質GDP(%) 8.13 5.2 (3.5)予測
インフレ率(%) (2019年10月)
5.43
(2020年10月)
5.77
(6.02)予測
最低賃金【縫製業】
(月額:Tk)
縫製業(月額)
Tk 12,000
縫製業(月額)
Tk 15,000
縫製業(月額)
Tk 15,000
労使紛争の件数 計214件 計204件  
失業率(%) 4.19 4.15 4.20

(注:為替レートは1Tk(タカ)=1.35円(2022年2月16日時点)

 なお、上記記載の最低賃金は「縫製業」の最低賃金(月額)である。バングラデシュには全労働者を適用対象とした最低賃金は設定されていない。セクター(産業別)に設定し、それぞれ、5年毎に最低賃金委員会で審議・決定している。

2.労働法と社会保障制度

(1)労働法

 バングラデシュの労働法は2006年に制定され、直近の改正は2018年に行われた。労働組合結成には登録・認可の手続きが必要であり、当該企業の事業所(複数の事業所を有する場合はその全て)の全従業員の20%以上を組織することが必要要件となっている。また、労働法が対象としている産業は一定の範囲にとどまっており、労働力人口の9割近くを占めるインフォーマル経済に働く労働者の大半は労働法の対象外となっている。
 バングラデシュでは、使用者は労働者を容易に解雇でき、解雇された労働者は4カ月間、解雇手当を受給できる。また、産休期間は公的セクターで6ヵ月、民間セクターで4ヵ月となっており、この間、産休手当を受給することができる。
なお、労働組合が不在の場合は、労使対等のメンバーで構成される参加委員会を事業所内に組織することができる。

(2)社会保障制度

 〔上記Ⅱ「バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)」報告の記載内容を参照(同じ報告内容のため省略した〕

3.労働組合が現在直面している課題と解決のための取り組み

(1)インフォーマルセクターにおける組織化

 インフォーマルセクター労働者が全労働者の9割近くを占めるまで増大しているが、この大半が労働法の適用対象外となっており、労働組合の組織化が非常に困難な状況だ。
 労働組合に未加入の労働者を組織化することは私たちの最優先課題だといえる。また、インフォーマルセクター労働者の労働条件改善のための戦略的な計画と法改正が必要だ。
 私達は、労働者や組合員の意識と能力の向上に向けてプログラムを作成し継続的な取り組み努力をしている。また、全てのインフォーマルセクターとその利害関係者を適用対象とするよう労働法の改正を求める取り組みを推進している。そして、インフォーマルセクター労働者の権利保護と平等な待遇を求めて政府に働きかけを行っている。

(2)多国籍企業における労働組合活動をめぐる状況

 概して、全社レベルでの経営者の協力がないため、全社ベースで組合活動を円滑に機能させることが困難な状況にある。また、労働組合の未加入労働者を組織化する取り組みも困難な実態だ。若い労働者は、自分たちの権利についての認識も希薄であり、また、失業を恐れることから労働組合活動への参加への関心が乏しい状況にある。