2018年 バングラデシュの労働事情

2018年9月25日 講演録

ITUCバングラディシュ協議会

バングラディシュ・ジャティヤタバディ・スラミク連盟(BJSD)
モハマド クルシェド アラム(Mr.Mohammad Khorshed Alam)

バングラディシュ・ジャティヤタバディ・スラミク・ダル 青年局長

バングラディシュ・ジャティヤタバディ・スラミク連盟(BJSD)
ジェスミン アハメッド(Ms.Jesumin Ahmed)

バングラディシュ・ジャティヤタバディ・スラミク・ダル 女性委員会財政局長

バングラディシュ労働連盟(BLF)
モハマド ザキル ホサイン リートゥ(Mr.Mohammad Zakir Hossain Litu)

バングラディシュ労働連盟 組織局長

バングラディシュ自由労働組合連盟(BMSF)
ラキブ アハメッド(Mr.Rakib Ahmed)

バングラディシュ自由労働組合連盟 青年委員会委員

バングラディシュ・サンジュクタ・スラミク連盟(BSSF)
モハマド モノワル チョウドリ―(Mr.Md Monowar Chowdhury)

バングラディシュ・サンジュクタ・スラミク連盟 青年委員会組織局長

ジャティオ・スラミク・リーグ(JSL)
アシュラフル イスラム(Mr.Ashraful Islam)

ジャティオ・スラミク・リーグ 青年員会執行委員

バングラディシュ自由労働組合会議(BFTUC)
アミヌル イスラム(Mr.Aminul Islam)

バングラディシュ自由労働組合会議 組織局長

 

1.基本情報

 バングラディシュはインド(東側)・ミャンマーと国境を接するとともに、ガンジス川下流域を有し、ベンガル湾に面している。日本(東京)から首都ダッカまでの距離は、直線で5千キロ弱、石垣島や与那国島よりもさらに南に位置している。面積は日本の約40%(約14.7万平方キロ)、人口はおよそ1億6千万人余り、この内9割弱がイスラム教徒である。政治体制は共和制(1991年の憲法改正で大統領制から議院内閣制へ)をとっている。その独立は1947年(東西に分かれたパキスタンとして)となる。その後、さらにバングラディシュ独立戦争を経て1971年にパキスタンからの独立が果たされる。経済成長率(実質)は、2016年7.1%(バングラディシュ中央銀行)、2017年7.28 % 、2018年7.65%の見通しとなっている。その経済構造は、繊維製品などの輸出、海外からの送金、並びに農業セクターによって支えられているが、今後の持続的発展を図るためには、多様な産業分野の拡大、電力・道路などのインフラ整備が欠かせない。(2017報告者による)物価動向は、2016年5.9%(バングラディシュ中央銀行)、2017年5.4%(バングラディシュ中央銀行)、2018年5.8%(世界経済見通し2017年10月)の見通しとなっている。最低賃金は、月額で2016年、2017年とも5300タカ(1 タカ≒1.33円、日本円で月額約7千円程度か)であった。2018年は9月1日改正(5年おき改正)で8300タカ(日本円で約1万1千円)となった。政情は、野党勢力の弱体化などから表面は比較的安定しているようにみえる。しかし、2016年7月、ダッカ市内にあるレストランへの襲撃テロが発生し、日本人7人を含む22人が犠牲となったことからは、依然としてテロの危険が存在している国情にある。労働者を束ねるべきナショナルセンターは数十を数え乱立している。政党・政治家と労働組合との関わりにその原因があるとみられる。今回参加の6つのナショナルセンター(下記)がITUCバングラディシュ協議会を構成し、協力した取り組みを行っている。因みに、6ナショナルセンター(BJSD20万人、BLF10.2万人、BMSF20.3万人、BSSF8.9万人、JSL15万人、BFTUC15万人)の組合員総数は90万人足らずだが、労働人口が6 千万人以上とみられることから、他のナショナルセンターの組織数を考慮しても組合組織率はかなり低い状況である。(約4%とみられる)ナショナルセンターが真に労働者の拠り所となりえるか、そのあり様が問われている。(注)概要の概ねは外務省情報。経済成長率以下の数字は報告者による。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)危機的な労働情勢―増大するインフォーマルセクター・未確立の労働組合権

 バングラディシュの労働情勢は極めて危機的である。ITUC世界労働組合人権調査2018では、世界で労働組合権の最も確立していない10カ国の一つにバングラディシュが挙げられている。民間セクターにおける組織化と団体交渉は、いまなお困難との見立てである。団結権や団体交渉権は十分尊重されず、労働法制がきちんと実施されていない。EPZ(輸出加工区域)やSEZ(経済特区)関連の法律はILOに適合していない。また、グローバル化により、労働市場は浸食され、外部委託、臨時雇用、契約労働者などインフォーマルセクター労働者が増大し、その結果、雇用不安と実質賃金の下落などの労働環境が現出している。こうした状況を改善しなければならない役割を負う組合は乱立気味で、運動の弱体化をもたらしている原因の一つとなっている。

(2)未だ重要な課題を残す労働法-組合結成を困難にする加入率の義務付け

 労働法は2006年と2013年の改正により、労働者の権利、労働組合の権利、団体交渉の権利、職場における健康と安全などが確保され、いい状況になってきたかにみえる。しかし、現実には政府の力が及んでおらず、法制度の実用化が進んでいない。正規雇用の場合には、確かに労働に関わる各種権利が守られたり、社会保障などの恩恵に浴しているが、労働者の多くを占める非正規労働者(インフォーマル労働者全般)にその恩恵は届いていない。その主な理由は、組合の組織力の低さが挙げられる。正規雇用の場合、結社の自由と団結権が認められているが、非正規労働者の場合には、労働法の規制に阻まれ、組合結成ができず、自分たちの権利要求の手だてが乏しい状況におかれている。また、新規組合結成には一定以上(現状は30%だが、20%への改正は間近のようで国会の決議が待たれる)の組合加入率が義務付けられており、組織化を困難にしている。このように現状の労働法は重要な課題を残しており、さらなる改善に向けて今なお要求が続けられている。
 社会保障についてだが、民間セクターでは年金、積立基金、老齢年金などは受け取れず、限定的なものとなっている。インフォーマルセクターの労働者に社会保障がないことはいわずもがなである。また、労働災害のスキームが実施されているが、その補償額は低く、これまたインフォーマルセクターはほとんど無視されている。労働者全般にわたる環境整備を図るには、まだまだ遠い道程である。

(3)組合が抱える最大の問題は組織力の弱さ
 -求められる組合の団結とインフォーマルセクター労働者の組織化

 バングラディシュの全労働者は6千万人以上とみられるが、その9割弱がインフォーマルセクターにあるとみられ、採用通知も社会保障もなく、低賃金で、ほとんどはノーワーク・ノーペイの原則で働いている。不健康でリスクの高い仕事があてがわれるケースも多い。加えて、女性に対する差別と暴力が増えていることも見過ごすことはできない。このようにこうしたセクターに働く労働者は法に守られることなく、組合による権利保護からも見放された存在であり、自らも権利についての認識が浅く、また、低い水準の教育しか受けておらず、突然の解雇などに到底対抗できる力を有していない。
 フォーマル経済からインフォーマル経済へと急速にシフトする危うさの上に成り立つバングラディシュの経済構図を変え、労働者の置かれた環境を変えていくためには、インフォーマルセクター労働者をどう組織化していくかがカギを握っている。このためナショナルセンターを筆頭とする組合は、新規組合結成やインフォーマルセクターへの法適用に向けた取り組みを展開しているが、法の壁(上述)や使用者側の壁に阻まれ、進展は遅々としたものである。組合が抱える最大の問題である組織力の弱さを克服し、力を一つに結集していくために、各ナショナルセンターの団結と連携に向けた検討が動きだしている。

(4)どう取り組むか-連帯・リーダー人材の育成・ILO条約適合の法改革

 組織力の弱さの克服にどう取り組むかでは、6つのナショナルセンターとしての現状認識の共有化と方針の統一化が図られねばならない。JSL(注)は現政権与党の下部組織という立ち位置から、現状認識は現政権の取り組みに肯定的であり、他のナショナルセンターと多少スタンスの違いがある。とはいえ、グローバル化の進展が労働者の環境を悪くしているとの認識やインフォーマルセクターへの認識に違いはない。因みに、活動方針をみれば、①インフォーマルセクターの組織化、②ILO条約のもと、時代に沿った労働法改正、③仕事環境の安全確保、④非正規労働も最賃を守るなど労働法に基づく取り扱い、⑤様々な研修への労働者の参加の保証、となっており、他との違いは見いだせない。団結・連帯の下地はできており実行が急がれる。
 そうした情勢の中、いまITUC-BCレベルでは、まず現状を認識してもらい共感を呼び起こすため、①地域から海外までのあらゆるレベルで連帯感を生み出すということ。このため、組合は大規模なキャンペーン、アドボカシー、ロビーイングなどを行っている。より幅広い層にメッセージを広めるためには、印刷物や電子メディアの利用が効果的であり活用している。また、②組織力の弱さの一端が、リーダー人材の不足にあることから、その改善に向け、リーダーと組合員の能力向上研修や意識啓発行動を図ること。つまり、組合があってもリーダーによる指導もないような実態の改善で、組合員の心を一つにまとめていけるような核人材の養成を行っている。加えて、③政府に対し、ILO条約に適合する労働法改革を図ること。これは、①の連帯などを通じ内外からのプレッシャーをかけることを意図している。それぞれのナショナルセンターの持ち味を生かした取り組みで、相乗効果が生まれることが期待される。

(注)政権寄りとみられるJSLも、労働法再編では政府委員会という内側からステークホルダーとしての役割を果たしたり、産業内で発生する労使対立の仲立ち役を果たしたり、最賃の制定に政府機関への働きかけを行ったりしていると自己評価している。
 また、現政権によって立法や改善が果たされてきたとして、その成果を列挙している。①バングラディシュの43ある産業部門のほとんどの部門で賃金体系が改定され、最賃が制定された、②2013年の労働法改正で労働組合の登録方法が簡易となった、工場の安全に関する画期的な改定が図られた、港湾当局の労働組合に関する法律の改正、2006年の労働者健全基本法の改定、2012年の公務員法の改定、その他児童労働禁止の条例、公務に関わる健康及び安全の条例、国家的専門技術開発の条例、国力開発の条例などの法化etcが図られた。また、③衣料品部門に従事する女性労働者たちの住宅問題の解決のため、労働雇用省により2千戸の共同住宅の建設が進められている。さらに、④衣料部門の労働者の最賃が2010年82%増、2013年77%増、そして2018年8300タカ(基本情報内に既述)へと改定が行われた。