2013年 韓国の労働事情

2013年7月26日 講演録

韓国労働組合総連盟(FKTU)
Woo TaeHyum

FKTU中央研究センター研究員

 

1. 韓国の労働情勢

 現在、韓国の労働情勢を取り巻く環境はあまり良くなく、どちらかと言えば悪いと言える。2012年の経済成長率は2%台で、特に下半期の成長率を見ると1%以下になっている。
 2013年の成長率は、韓国を代表する韓国銀行が2.8%程度と展望しているが、実際には2%ぐらいにとどまるのではないかとの予想もある。その理由は、世界全体の経済が不振で、国際的な貿易の規模が萎縮していることによる。
 経済開発機構(OECD)が発表した「雇用アウトルック2013年版」によると、2013年の生産年齢人口の雇用率は64.2%で、OECD34ヵ国中20位になる。雇用構造も悪化して生産可能人口(韓国では数え年で25~54歳ぐらい)の雇用率は74.7%で同じく26位の一方、青年層の雇用率は、24.3%で、27位にとどまっている。このように雇用事情は非常に深刻である。
 そして、臨時雇用者の雇用率は43.9%になっている。また、2010年の労働時間は、年間2193時間で、長時間労働となっており、厳しいものになっている。また、全賃金労働者のうちの47.8%にあたる、848万人(2012年)が非正規労働者になっている。
 こうした中、2012年に大統領選挙があり、新しい政府は非常に保守的である。労働運動に対する認識や労働に対する理解は非常に良いが、大統領選挙時の公約である経済の民主化、福祉政策については、反故にされている。

2.韓国労働組合総連盟(FKTU)の課題

 このような状況の中で韓国労働組合総連盟(FKTU)は、大きな課題に直面している。

1)労働基本権の拡大および労働組合専従者への賃金支払いが認められる「勤労時間免除(タイムオフ)制に関すること。

 今までの労働者は、労働基本権の拡大をめざしてきた。今まで組合員たちは比較的いろいろ自由に活動することができていた。しかし、2010年に、政府は労働組合の幹部の活動する時間、幹部の人数、幹部の業務ということに関して法で定め、これに違反してはならないという禁止事項を設けた。
 このような法律によって、労働組合の活動は非常に萎縮することになった。労働組合は、この『労働組合法』を改正する活動とともに、現場の規則を改善するための闘争を行なう計画である。

2)長時間労働と実労働時間の短縮

 過去、韓国の急速な産業化の裏には、長時間労働、低賃金労働などの構造があり、世界最長の労働時間を記録し、それに伴う生産性も変化した。労働時間の短縮は、雇用率を引き上げることに大きな影響を与えていた。
現在、韓国の労働時間制度は、勤労基準法により週40時間の法定労働時間に加え、最長12時間までの時間外労働を認めている。しかし、休日労働は法定労働時間に含まれないため、1週の労働時間は土日各8時間を加えた1週間5日間で最長68時間まで延長できる。私たちは、政府に週40時間労働の延長時間つまり残業はプラス12時間までとし、さらに、土日の残業はしないということを提案している。
 しかし、学者たちの調査により1週間に75~79時間働いている事業所が多数あることが判明し、休日と土日の労働を延長労働に含め、それ以上の労働は違法とするよう提案している。
 また、韓国の大手自動車企業では、11時間勤務で2交替を取り入れており、このような劣悪な状況での労働も改善する提案をしている。

3)非正規労働者の濫用と規制および差別の撤廃

 労働に関しては、同一価値労働同一賃金を要求している。政府や企業、使用者側は、非正規の人たちを無期限契約労働者にして解決しようとしているが(『非正規職保護法』(2016年11月制定))、これは、解雇だけしないという契約になる。これは賃金と労働条件には大きな変化はもたらさず、格差を固定することになってしまう。同一価値労働同一賃金という面から、明らかに差別を受けているため、改善のための活動を行なっている。また、非正規労働者の組織化にも力を入れている。韓国の労働組合は、派遣社員は明らかな中間搾取であると見ている。派遣労働者に関連する法律が定められているにもかかわらず、さまざまな方法で不法の派遣労働者として雇用している。このように不法な派遣労働者の雇用を根絶させる。

4)最低賃金の引き上げと法改正

 2013年の最低賃金は、1時間当たり4860ウォンであったが、2014年1月1日からは5210ウォンになる。韓国の最低賃金は平均賃金の37%程度にしかすぎないため、最低賃金を平均賃金の50%に引き上げるのがこれからの課題だ。
 この最低賃金は、韓国の社会において格差社会が生じている最も大きな原因となっている。実際にはこの最低賃金が守られていないケースが非常に多い。その理由は、違反した場合の罰則があまりにも軽い事である。私たちは最低賃金を上げて、罰則を強化しようと訴えている。

3.韓国労働組合総連盟(FKTU)の戦略

 大きく分けて4つの課題を提起したが、これらを目標とし、以下の方法、戦略を掲げている。
 戦略を一言で言うならば、「介入とけん制」である。政府の労働政策の確立とその過程において積極的に介入し、核心となる労働政策、要求事項を反映させようということだ。
 「けん制」とは、労働そして労働者に対して優しくない保守政権に対し、その政策に対してけん制していこう、闘争をしていこうということである。先ほど挙げた4つの課題、そして経済の民主化というのは非常に重要で、これらさまざまな問題に対して、私たち労働組合だけではなく、民間の社会団体とも連携して闘争していきたいと思っている。
 韓国の労働組合が参画できる公労使委員会にも積極的に参加していきたいと思っている。今まで韓国の会社では、1つの会社に1つの労働組合だけが許されていたが、2011年の7月から、1つの会社に複数の労働組合が結成できることに変わった(複数労組制度)。
 1つの会社で複数の労働組合ができるという現象により、中には会社の使用者側がつくった御用労働組合まで出てきている。従って、私たちは労働者の権益を守るために、このような御用組合との闘争もしっかり行なっていかなくてはいけない重要な課題である。
 最後に、FKTUの戦略について触れておく。私たちは2011年、社会改革的組合主義を掲げ履行している。これはFKTUの理念で、企業別労働組合をさらに民主化し発展させ、強固に積極的に進めていくことである。また、一般の市民団体、市民社会と積極的に連帯し、闘争の水準を高めていく。