2021年 中国の労働事情

2021年11月12日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、2021年11月1日~5日、中国の労働組合活動家に労使紛争未然防止などに役立つ知見を深めてもらうためのプログラムを実施した。プログラムはCOVID-19パンデミック禍にあって、オンラインにより実施され、そのプログラムの一環として、11月2日(火)に「労働事情を聴く会」を開催し、自国での労使紛争未然防止の取り組みを含む労働事情について報告してもらった。
 以下は、その報告の概要をまとめたものである。

<労使紛争未然防止の取り組み>

1.企業別組合における取り組み

 成都イトーヨーカ堂労働組合は調和のとれた労働関係(注1)の構築を推進してきている。経営側との協議を積極的に行っており、その下、賃金や労働安全衛生などについての労働協約を締結している。労働協約の下、労働者の権益が守られ、会社の労働関係は調和がとれ安定し、争議や紛争が減ることにつながっている。
 労働組合は、組合員とのコミュニケーションを促進するため、いくつものチャンネルを設置している。具体的には、ウェブサイトの立ち上げ、労働組合私書箱の設置、労働組合専用電話の開設などである。他方、経営側も従業員相談室を設置している。これらのコミュニケーションルートを通じて問題を吸い上げ、大きな問題に発展する前に経営側と話し合い、問題の解決をはかっている。
 また、労働紛争調停仲裁法に基づき、企業内に労働紛争調停委員会が設置されている。委員会は労働側と経営側の双方のメンバーで構成され、委員会の主任は労働組合の主席が務める。この委員会の役割は紛争を早期に調停し、処理し、初期段階で解決することにあり、委員会はきちっと役割を果たしている。
(注1:中国では労働者と企業との関係を表す用語として「労働関係」が使われるのが一般的で、「労使関係」は使われない。)

2.産業別労働組合における取り組み

 中国財貿軽紡煙草工会(金融・商業・軽工業・繊維・たばこ産業労働組合)がカバーする産業で働く労働者は1億4千万人で、中小零細企業や民間企業が多く労働関係は複雑である。
 当工会の活動においては、労働者の権益を守るために労働紛争を未然に防止し、調和のとれた労働関係を構築し、業界の発展を促進することが重要な柱となっている。その具体的取り組みは以下のとおり。

① 連席会議制度の堅持:関係省庁及び全国の業界団体と合同で会議を開催し、業界が置かれた経済情勢や労働関係への影響を検討

② 調査・研究・分析を基礎とした政策立案と、政府への働きかけ

③ 業界レベルでの団体交渉の実施とそれに基づく指導意見(注2)の発出

④ 業界と協力して行う産業別労働計画基準策定作業に参画

⑤ 雇用の規範化の促進につながる職業技能基準の策定作業への参画

⑥ 労働関係の安定に資する環境の醸成:労働者の待遇改善の奨励について全国的な業界団体と合意、職場を愛し仕事に真剣に取り組むことについての労働者への呼びかけ、工会の要請を重視して事業展開した優良企業の表彰、CSRマネジメントシステムの普及

⑦ 地域(省と市)レベルの当工会組織に対し、労働紛争未然防止のための情報を発信するとともに、報告システムの構築や、労働者の要求把握に資するツールの開発などを指導

⑧ 労働紛争に至った場合には、その解決に向けて三者構成システムの下での協議や調停に参画

(注2:「指導意見」は、日本の「勧告」などよりも強い意味合いを持った公的な文書で、政府機関が発する文書に多くみられる。)

<プラットフォーム労働者の増大と労働組合の取り組み>

1.プラットフォーム労働者の増大と課題

 中国ではインターネットプラットフォームに依拠して仕事をする、新しい就業形態の労働者が急速に拡大している。トラックの運転手、ネット配車の運転手、宅配品の配達員、出前の配達員、家事代行サービスやインターネット金融に従事する者などである。
 とりわけ、新型コロナウイルスの影響で配達産業への労働力の移動が顕著となる中、配達員は中国全体で770万人を超える状況となっている。
プラットフォーム労働者の多くは雇用関係が曖昧で労働契約を結ぶことが困難な状況にある。従って労使関係は明確ではなく、組織化が困難であり、労働紛争が発生した場合の対応には大きな困難が伴う。また、労働災害の防止や社会保障をはじめとする保護措置の恩恵を受けにくい状況に置かれている。その一方でプラットフォーム労働者をめぐる紛争件数は急速に増加している。
 こうした状況にあって、このような新しい就業形態の労働者をめぐる関連法規の整備が急務になっていると同時に、労働組合の取り組みの強化が重要になっている。

2.労働組合の取り組み

 労働組合はこの新しい就業形態の労働者を守るための取り組みの強化を迫られており、以下のような対応を行ってきている。
 2021年7月、中華全国総工会は人的資源や社会保障などを担当する8つの省庁と共に、新しい就業形態の労働者の権益保護のための指導意見を策定した。この指導意見は、労働組合が新しい就業形態の労働者の組織化を推進することについても明記したものとなっている。さらには、業界団体との労働協約や協定を締結することや、労働基準の策定を推進することが明記されている。
 また、中華全国総工会は、この新しい就業形態の労働者の権益保護を確実に実行するための考え方をまとめ、関係各方面に配布した。これは、権益保障メカニズム構築の必要性、さらには組織化推進とそのための予算確保などが方針化されたものとなっている。そのもと、各省・市の労働組合が地域の状況に応じた活動計画を策定している。例えば、北京市総工会は、労働組合が党と労働者の架け橋となって新しい就業形態の労働者の権益を保護するよう指示を発している。広東省総工会は、新しい就業形態の労働者の組織化に向けた、企業、業界、地域、インターネットを融合した組合のモデルを打ち出した。
 現在、各地の労働組合が新しい就業形態の労働者の組織化・入会促進キャンペーンを展開しており、上海では出前配達やオンライン宅配業のトップ企業で労働組合が設立され、既に約25万6千人が組合に加入した。
組合の形態はいくつかあり、単独で設立するもの、共同で設立するもの、オンラインで設立するものなどが見られる。
 加えて重要なことは、業界との協議であり、団体協約制度の確立である。これに成功している例として挙げられるのは唐山市総工会の取り組みである。唐山市総工会は宅配業界の連合会と集団協議を進め、業界としての労働協約の締結にこぎつけた。名称は「唐山市宅配業界労働協約」であり、その付属文書で最低賃金、賃金の支払い方法、労働安全衛生、従業員技能訓練などが明文化された。
 別の事例では、2019年9月に締結された安徽省蚌埠市の主要出前配達企業3社との労働協約がある。これは市内の出前配達従事者の85%にあたる800人の配達員をカバーするもので、賃金、労働保険、福利厚生、休暇、教育訓練、スポーツ・文化活動など18項目をカバーする内容となっている。
 また、労働災害との関連でも各地の労働組合が取り組みを強化しており、中には、組合新規加入者に対して傷害医療共済を1年間無料で提供するといった取組み例も見られる。