2020年 ウクライナの労働事情
国際労働財団(JILAF)では、ユーラシアチームとしてベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や日本の労働組合の特徴、生産性運動や雇用安定の取り組みなどについて学ぶためのプログラムを用意した。しかし、新型コロナウイルス禍の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も開催が不可能となった。
以下は、ナショナルセンターや参加者からの報告資料等を参考にまとめたものである。
ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU)
Alla Rura
ウクライナ自由労働組合総連盟(KVPU) 報道官兼女性委員
1.ウクライナの労働情勢
2018年 | 2019年 | 2020年(見通し) | |
---|---|---|---|
実質GDP(%) (出典元) |
3.3 (国家統計局) |
3.2 (国家統計局) |
3.7 (ウクライナ財務省) |
物価上昇率(%) (出典元) |
109.8 (国家統計局) |
104.1 (国家統計局) |
102.5 (国家統計局) |
最低賃金 (時間額・日額・月額) (出典元) |
□時間(22.41)
□月額(3,723) (ウクライナ国家予算法) |
□時間(25.13)
□月額(4,173) (ウクライナ国家予算法) |
□時間(29.2)
□月額(5,000) (ウクライナ国家予算法) |
労使紛争件数 (出典元) |
312 (国立調停和解局) |
370 (国立調停和解局) |
データなし |
失業率(%) (出典元) |
9.1 (国家統計局) |
8.6 (国家統計局) |
9.4 (国家統計局) |
法定労働時間 (出典元) |
8時間/日 | 40時間/週 | 時間外/割増率 +100% |
休日/割増率 100% |
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2.ウクライナの労働法制・社会保障の特徴
労働法その他の法令によって定められた労使関係に対する主要要件を以下に明記する。
労働時間は週40時間を超えてはならない。特定カテゴリーの雇用者については、週労働時間は36または24時間の水準とし、カテゴリーによっては非定型の週労働時間が認められている。超過労働は例外的なケースに限って法令で認められており、連続する2日間で4時間、または年間で120時間を超えてはならず、報酬は2倍支払わなければならない。
給料額は、雇用者との個別の雇用契約によって定める。無資格労働に対する最低月給は、労働法令に定める基準値以上とされている(現在5,000フリヴニャ)。
ウクライナ憲法第46条を実施することにより、社会保障制度と社会扶助制度によって社会的保護の権利を確保した。より具体的には、労働人口の経済支援(社会保障)、年金その他の所得代替スキームの導入、最も立場の弱い人々に給付を提供する社会扶助スキーム、子育て家庭への金銭的補償、公的給付や社会サービスの物価スライド制によって行う。
社会保障の主要機能は、法的条件にしたがい長期または恒久的ケア(高齢、障害、その他経済的困窮の場合)を受ける資格に該当すれば、当該層に福祉と介護支援を提供することである。さらに、一時的障害、妊娠出産、育児、疾病、退職、失業、稼ぎ手の死亡、就労中の事故、職業病に対しても社会的保護が提供される。
社会扶助は人口の特定層の社会的地位や、社会施設関連のネットワークの質を高めるために、社会的プログラムを通じて提供される(例えば、前者は公営住宅補助金、後者は介護施設や寮)。社会保障とは異なり、社会扶助は個別評価を行って対象者の生活水準が最低生存水準を下回る場合に提供される。
3.ウクライナの不安定雇用の問題やインフォーマルセクター労働者の現状
国家統計局によると、2018年には354万人(21.6%)がインフォーマル雇用されており、そのうち58.5%が男性、41.5%が女性だった。インフォーマル雇用されている労働者が多い分野は、農林漁業(42.9%)、自動車およびオートバイの卸売・小売・修理(18.2%)、建設(15.9%)、工業(5.5%)、輸送・倉庫・郵便・宅配活動(4.2%)、ホテル・ケータリング事業(2.2%)となっている。一方、給与を「封筒入り」の現金(税逃れのための無申告賃金)で受け取る雇用者や、雇用契約ではなく民法上の契約により違法に就労している雇用者については、公式データがない。
KVPUはウクライナの法的雇用を促進している。さらに、法律家や活動家が求職者の相談に応じ、正式に雇用されているが賃金の一部を「封筒入り」で受け取っている雇用者を支援している。また、KVPUはEU出資の「労働条件を改善し無申告労働に立ち向かうために労働行政能力を強化する」ILOプロジェクトに参加している。
4.労働組合が直面している課題
KVPUは新自由主義的な労働法の改革に反対するキャンペーンを行っている。提案されている法案(「ウクライナの一部法令(労働組合活動に関するもの)の改正に関する」法案第2681号と「労働に関する」法案)は、労働者と労働組合に対する最も重要な法的・社会的保障を廃止するものであり、その対象には最低賃金、有害危険作業に対する有給休暇、週休制、残業手当・制限、女性の夜間労働制限、解雇権、障害のある労働者の保護が含まれる。また、ゼロ時間契約などより柔軟な契約も認め、労働組合権を弱めている。さらに、こうした法案の規定は労働者の権利を狭め、ILO条約やEU・ウクライナ連合協定に反する。KVPUはこうした問題について何度か抗議行動を行い、議会と政府への呼びかけや議員との協議を行った。
また、KVPUは賃金未払と闘っている。経済活動を行っている企業における未払賃金は12.2%増えて21億8,000万フリヴニャ(7,930万ドル)に達した。
KVPUの目下の課題は、パンデミック禍における安全対策の推進と労働権の保護である。COVID-19パンデミックが発生して以来、KVPUは企業でのベストプラクティスを示し、労働者の権利侵害に焦点を当て、労働者が抱える問題を知らせるように促す目的で、「あなたや会社の感染対策はどうですか?」というキャンペーンを行ってきた。
さらに、KVPUは国、地域、業界レベルでの所得保護にも努めている。ウクライナ政府はKVPUの提案――感染対策によるロックアウトで一時休業を余儀なくされた二つのグループの企業家に児童手当を支払う――を承認した。また労働組合は、感染対策により生じた遊休時間について、賃金の3分の2が労働者に支払われるよう確保に努めている。