2020年 モンゴルの労働事情

2020年9月11日 報告

 国際労働財団(JILAF)では、ユース非英語圏チームとしてモンゴル労働組合役員を招へいし、労働を取り巻く最新情報の共有や建設的労使関係の特徴、雇用安定の取り組みなどについて学ぶためのプログラムを用意した。しかし、新型コロナウイルス禍の影響により来日交流が困難となり、「オンラインプログラム」による取り組みとなった。従来の「海外の労働事情を聴く会」も今回は開催が不可能となったため、以下はナショナルセンター・参加者から提出されたそれぞれの労働情勢報告の特徴的概要をまとめたものである。

<「オンラインプログラム」参加者>

モンゴル労働組合連盟(CMTU) モンゴル運輸・通信・石油労働者組合

ムンホゥ ボルドサイハン
オルガナイザー

モンゴル労働組合連盟(CMTU)

バトバヤル ホスバヤル
本部メディア・広報局長 兼 労働新聞編集長

エンへバータル タミル
本部労組開発・政策局エキスパート 兼 青年局長

スヘバータル ウヌルビレグ
本部社会保障・政策局エキスパート

エルデネツォグト バータルツォグト
本部財政局長

ツェンデジャブ ナムーン
本部国際関係局スペシャリスト

 

基本情報

 モンゴルは中国とロシアに挟まれ地政学的に重要な位置を占め、国土は約156万平方キロ(日本の約4倍)、人口は約330万人で首都はウランバートルにある。国民の95%はモンゴル人で、言語はモンゴル語(公用語)とカザフ語である。モンゴル独立の1991年以降の憲法で信教の自由が保障されチベット仏教が復活した。1921年の独立後は君主制人民政府が成立され、その後人民共和国を経て社会主義体制となったが、民主化運動の流れの中で1992年に現在の体制となる。1972年日本との外交関係が樹立され、現在は様々なレベルを通じて二国間関係を強化している。
 主要産業は、豊富な鉱物資源を背景とした鉱業、馬や羊を中心とする牧畜業が主な産業であり、2019年の名目GDPは約139億米ドル、一人当たりの名目GDPは約4300米ドルとなっている。経済成長率は5.1%、一時期中国の景気減速や世界的鉱物資源価格の低迷により落ち込んだものの、再び石炭の輸出が好調となったことから高い水準を維持している。経済の現況は、新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年第一四半期のGDP成長率は前年同期比マイナス10.7%、貿易総額はマイナス28.1%とモンゴル経済に大きな影響を与えている。失業率は2018年の6%台から2020年には約10%と予想されるなど厳しい状況になっている。最低賃金は月額で2018年240000トグログ(円換算で約11000円)、2019年320000トグログ(円換算で約14000円)2020年には420000トグログとなることが、2019年1月に国家労働社会問題協議3者委員会で決定されている。
 モンゴル労働組合連盟(CMTU)が唯一のナショナルセンターである。組織人員は237000人、36の産業別組織、2245の加盟単組を組織し国際労働組合総連合(ITUC)に加盟。

※主な概要は外務省情報による。その他にJILAF基本情報、報告者情報などを参考にした。

モンゴル労働組合連盟(CMTU)提出の労働情勢資料
  2018年 2019年 2020年
(見通し)
実質
GDP(%)
(出典元)
7.2
https://tradingeconomics.com/mongolia/gdp
5.1
(同左)
6.7
(同左)
物価上昇率
(%)
(出典元)
6.81
https://tradingeconomics.com/mongolia/inflation-cpi
7.30
(同左)
6
(同左)
最低賃金
(時間額・
日額・ 月額)

(出典元)
□時間(1500トグログ)
□日額(12000トグログ)
□月額(240000トグログ)
https://tradingeconomics.com/mongolia/wages
□時間(2000トグログ)
□日額(16000トグログ)
□月額(320000トグログ)
(同左)
□時間(2625トグログ)
□日額(21000トグログ)
□月額(420000トグログ)
(同左)
労使紛争件数
(出典元)
1500~4000
(CMTU研究センター)
2000~4000
(同左)
1500~4000
(同左)
失業率
(%)
(出典元)
6.25
https://www.macrotrends.net/countries/MNG/mongolia/unemployment-rate
6.01
(同左)
10.6
(同左)
法定
労働時間
(出典元)
5時間/日
(労働法)
40時間/週
(労働法)
時間外/割増率
1.5%以上
(労働法)
日/割増率
2%
(労働法)

通貨名:トグログ(MNT) 2846.5244トグログ=約1ドル(2020年8月25日現在)

ナショナルセンター情報

1.労働法制の改正への取り組みとCOVID-19禍の社会保障

 モンゴルの労働法は1925年に制定され、民主化体制の移行に伴い1990年に現在の労働法が制定された。その後度重なる改正が行われ現在も法改正の論議が行われている。モンゴル労働組合連盟(CMTU)ではいくつかの改正案を提示して、ワーキンググループ内で作業を行っている。
 COVID-19禍による経済への影響は甚大で、解雇や賃金引下げも行われ労働法制の適用や社会保障システムに関しては問題が生じている。CMTUでは、政府に対して次のような請願を行った。

  • ・企業や団体に対する社会保障費の免除
    ・所得税徴集の延期
    ・企業に対する給付金の支給
    ・牧畜業者への低金利貸付
    ・一斉休校による児童手当の増額
    ・燃料価格の引き下げ

 また、自治体や加盟産別の協力により、COVID-19の労働環境への影響や将来的リスクに対して調査研究を行っている。

2.非正規労働者とインフォーマルセクター労働者

モンゴルの労働人口は約120万人、このうちの約50万人が正規労働者である。労働契約を締結されていないパートタイム労働者が多く、インフォーマルセクター労働者は2019年第2四半期統計で約22万人、全労働者の18%を占めている。インフォーマルセクター労働者の内訳としては、男性62%、女性38%でウランバートルを中心とした都市部に居住している。業種別では、サービス業、運輸、生産加工業が多く、従業員9人未満の零細企業が多い。CMTUでは、インフォーマルセクター労働者の権利保護や安全衛生の確保を目的に組織化を進め、セミナーの開催や研修会を実施して法的知識や権利意識の高揚に努めているが、現状は困難を極めている。

3.ナショナルセンターとしての課題

 CMTUは、2017年~2030年の開発プログラム・発展プログラムを提起、その実現に向け現在活動を展開している。プログラムの内容は、新規加盟の条件見直し、権利の見直し、役員の兼務禁止、非正規労働者の組織化、グリーン経済の発展と労働者の賃金増加、安全衛生の徹底、人材育成強化を掲げ組織人員28万人を目指している。
 しかし、グローバル化が進展する中で社会・経済環境の変化、世界的なCOVID-19禍での活動は大きな課題を抱えている。とりわけ、最大の貿易国である中国の景気の減速は大きな影響を与え、実質賃金の低下は組合費の徴集基準を課税所得の1%と定めているCMTUにとって、大きな課題の一つとなっている。CMTUとしては、この財政問題に対して組合費以外の収入確保のため、貸しビルの建設とそれに伴う賃貸料収入を財源とする取り組みを行っている。
 また、政労使による国家三者協定(国家労働社会問題協議3者委員会)が締結されているが、効果的な開催と具体的な対策が実施されていない事である。あらゆる機関での労働協約も締結されておらず、これら課題解決のため教育宣伝活動は必須であるものの、モンゴルメディアとの理解協力が得られず苦慮している。
 COVID-19禍での職場の安全衛生確保、社会的保護、税額控除の確保、AIの進展による新しい雇用形態に対する労働法制の見直し等も大きな課題となっている。