2018年 モンゴルの労働事情

2018年9月25日 講演録

モンゴル労働組合連盟(CMTU)
バツォーグト バルドゥ(Mr.Battsogt Bsruduu)

モンゴル建設労働組合連盟 会長

オユン ドルジパラム(Ms.Oyun Dorjpalam)
トゥブ県労働組合連盟 会長

バザヤ オロンゴ(Ms.Bazaya Orongoo)
スフバートル県労働組合連盟 会長

ソヨルマ ヨンドンジャムト(Ms.Soyolmaa Yondonjamts)
ウランバートル市労働組合連盟 副会長

ムフンバヤル ツェレンソドノム(Mr.Munkhbayar Tserensodnom)
モンゴル労働組合連盟 文化センター所長

バジャーガル ヘンメデフ(Mr.Batjargal Khenmedekh)
ダルハン・オール県労働組合連盟 副会長

 

1. 基本情報

 モンゴルは中国・ロシアと国境を接する東アジアの内陸国である。首都ウランバートルは北海道最北端よりさらに北に位置している。日本からの距離(首都まで)は3千キロを超え、直行便(成田から)で5時間強かかる。その面積は日本の約4倍(約156万平方キロ)、人口は約320万人、政治体制は共和制(大統領制&議院内閣制)である。モンゴルの独立は1921年の人民革命による人民政府(君主を抱いたまま)の樹立をもって果たされた。君主が死去した1924年には人民共和国として政体を変え、社会主義国が成立する。その後、ソ連・東欧の民主化運動に影響を受け、1992年社会主義を完全放棄し現在の体制へと至っている。経済成長率は、2011年のV字回復(17.3%)以降、高い水準を維持していたが、資源ナショナリズムを背景とする国内政策による対モンゴル外国投資の減少や、中国景気の減速、世界的資源価格の下落で要の鉱業が不振となり、2016年には1.0%と低迷したものの、2017年には一転5.8%(1月~9月までのデータ、通年では5.1%)、2018年6.1%(ジェトロデータでは4%台とみている)と高い水準を見込んでいる。その強気見通しだが、好調な石炭輸出やモンゴル政治状況の安定によるIMFからの信用供与の効果によるとする見方が有力である。物価は90年代、社会主義体制から民主主義体制へ移行した直後、300%にのぼる高いインフレ状況であったが、近年は経済動向に同軌する形で低い水準となっている。しかし2017年12月の物価は前年同月比6.4%、2018年3月は前年同月比6.6%の上昇となった。食品・交通・住居・医療などの上昇が主な要因のようである。最低賃金は、月額で2015年、2016年が192000トゥグルク(円換算で約9000円)、2017年は240000トゥグルク(約11000円)、2018年も240000トゥグルクと変化はない。労働者を束ねるナショナルセンターはモンゴル労働組合連盟(CMTU)1つであり、組合員数は22.2万人、組織率は18.5%である。その歴史をさかのぼれば、1917年に労働組合運動が勃興し、1927年には全国規模の労働組合中央組織が設立されたことに始まる。現在のCMTUは14の産業別組織と22の地方組織、2500の加盟組合で構成されている。総会は4年ごとに行われている。  モンゴルの主な産業は畜産業と鉱業であるが、とりわけ豊富な鉱物資源をどう国の発展に結びつけ、生活水準の向上に反映させるのか、揺らぎなき国家運営に果たす政労使の役割は一段と増しているようである。

(注)概況は概ね外務省情報を参考にした。経済成長、物価は報告とジェトロデータに基づく。最賃以降の数値は報告による。

2.労働を取り巻く現状と課題

*2017年招へいから僅か9カ月での本年招へいであり、報告内容が重なるため、多く昨年内容を取り込みながら本年報告としている。

(1)度重なる労働法改正により一歩づつ前進する労働環境

 モンゴルの労働法が初めて制定されたのは1925年だが、1990年の民主化体制への移行に伴い、労働法を含めた様々な法律が改正されるところとなった。そして何度かの改正を経て1999年に制定されたものは、それまで国が単独で調整していた労使関係について、その取扱いを法で定めるという大きな変革となった。すなわち、その内容は、経済、福祉社会の求めに応じる形で、労働協約、協議、集団労使紛争、雇用主と労働者の労使関係の条件調整、労働管理に関する2者または3者協議についての法的根拠を定めるというものである。その後さらに労働法は18回に及ぶ改正が行われている。そして、いまなお環境変化に対応すべく改正論議が進められ、CMTUも参加・提言を行う中でこれまでになかった新たな内容が組み入れられている。例えば、「単身赴任」「交代勤務」「一斉解雇」「家族を扶養している雇用者」「職場でのパワハラ」「職場でのセクハラ」などの概念がそれである。2017年には、「試用期間」「勤続期間」「時間労働」に関する新たな条項が書き加えられた。長い歳月の粘り強い努力により一歩づつ前進が図られてきているといえよう。
 ただ、度重なる改正にも拘わらず大きな課題が残されている。それは、この労働法が労働契約を結んでいる者のみを対象としている点である。もちろん現状でも、法に扱えない問題(法適用対象外)を論議する場として、3者協議委員会(政府、経営者、労働組合)や産別労働組合における2者協議という仕組みはあるが、インフォーマルセクターに働く労働者、遊牧民のような労働者かどうかあいまいな位置にいる人たちの取り扱いは不安定であり、こうした人たちをも対象者としていく必要があるからである。また、モンゴルの国会議員には自ら企業経営者である人も多く、そのビジネスにとって有利かどうかが判断基準となっていたり、組合の必要性についても、労働者の生活の向上という視点より、ビジネス視点で判断するきらいがあり、正していかなければならない。今後は、市場経済が求める労使関係を包括的に扱うことができるよう、その適用範囲を拡大し、また、国際規範などにも合わせていくために、改革論議をさらに活発に行っていかなければならない。
 加えて、労働安全衛生法は未だ十分に施行されておらず、過去1年間でも労働安全衛生に関連する事故やケガが急増していることから、法律への追加、変更の取り組みが急がれる。

(2)組合の最大課題は組織拡大―カギ握る民間・インフォーマル労働者の組織化

 モンゴルの労働事情は次の通りである。労働人口は約120万人、その約40%(約50万人)が正規労働者として働き、一方賃金契約はあるものの、労働契約のない弱い立場のパートタイマーが相当数おり、さらに全体の約18%(22万人余り)を占めるインフォーマルセクター労働者が存在している。
 組合の組織率は基本情報に触れた通り18.5%(2017年)である。当然ながら組合にとっての最大の課題が組織拡大であることは論を待たない。まず既存組織の状況だが、産業別組織(注1)である医療、教育、インフラ、鉱山分野での組織率は高いものの、地方に目を転じれば、22ある地方組織(注2)が機能していないという点、並びに行政単位の最小単位である「ムラ」が360あるが、地方公務員ばかりであり、政治情勢の影響で大量解雇や人員交代が行われる環境にさらされている中、政権不支持であることを理由に組合に入らないなどから、組合があっても加入促進がままならず、組織強化→組織拡大が進展していないという現状である。その上で、組織拡大のターゲットとしてそのカギを握るのは、民間企業とインフォーマルセクターの労働者の組織化である。民間セクターの組合化(組合結成)だが、その主なる対象は中小(10人以下)や零細(中には家族経営)などである。しかし、民間企業における労働権の侵害は著しい一方で、肝心の当事者の組合結成・交渉の必要性や意義への認識が低く、また零細企業では家族経営≒経営者的側面があり、極めて組織化しづらい実態となっている。また、もう一つのインフォーマル労働者だが、社会保障を得ることが難しいこと、労働安全基準や衛生基準を満たしていない工場等で事故に遭遇する確率の高い現場におかれていること、労働賃金が低いことなど厳しい環境に置かれているものの、当該労働者の権利意識の低さや受け皿の未整備などの問題から、これもまた組織化は困難を極めている。ナショナルセンター・組合は、こうした弱い立場の労働者が増える流れを食い止めるため、例えば、様々なセミナーや研修会を通じ、労働者に必要な法的知識や権利などの情報提供を行っている。とりわけ、インフォーマルセクター向けには、組合への加入を促すため、産業別労働組合の政策や取り組みの柔軟な対応を働きかけている。

注1)14産別→①自動車労連②職員公務員労連③建設労連④教育科学労連⑤統合労連⑥販売、サービス、旅行業中小企業労連(民間企業労連)⑦電力地質鉱山労連⑧食糧農業自然環境労連⑨運輸通信石油労連⑩鉄道労連⑪製造労連⑫保健医療労連⑬都市計画公共事業労連⑭エルデネット工場労連
*今回、③建設労連の団体交渉について報告が行われた。建設労働者の最賃を405384トゥグルク以上(約18000円/月)とする取り組み、労働安全衛生ではILO167号条約の批准手続きへ、JICAと協力して「建設業の安全管理能力強化プロジェクト」の開始、管理者・技術者など専門職に労働安全衛生研修を受講させ、管理者の特定ができるよう「管理カード」を付与する制度の制定、並びに環境整備第5次プログラムの提言などが紹介された。 *また、教職員の組合は団体交渉(賃上げ)が不十分として、本年9月新学期に合わせストを敢行し、15%賃上げを勝ち取るとともに、来年1月には20%賃上げを確保したことも報告された。
(注2)単組組合費は組合員の月給の1%徴収によっている。徴収されたうちの30%が上部団体であるナショナルセンター地域組織へ流れる。その5%が地域における産別組織へ、また600トゥグルクがナショナルセンターへと流れる。

 

(3)実行力が問われるモンゴル労働組合連盟(CMTU)―2030年に向け開発プログラムを提起

 CMTUは第22回大会で規約を改正するとともに、2017年~30年までの開発プログラムを提起した。規約改正の主な点は以下の通りである。①新規に加盟を希望する組織は、自己資金で活動可能な組織のみ受け入れるという条件を加えたこと。②各会員組織は、CMTUから当該分野の労働争議及びその他の活動について、支援を受ける権利があることを追記したこと。③CMTUの幹部、加盟組織のトップは、労働組合の選挙について全権を有する期間中は、いかなる党の幹部、選挙役員の地位を兼任してはならないこと。④CMTUの組合員には、パートタイマー、シニア労働者も加入することができる旨を追記したこと。⑤CMTUの規約を改正するためには、CMTUの拡大理事会(拡大会議の構成をいかに拡大すべきか、議題はその都度、総理事会の会合で決議する)によって話し合い、代表者の4分の3以上の賛成を得て可決することを追記したこと。
 CMTUの2017年~30年の発展プログラムによって、以下の5つの目標が掲げられた。
①適切な労働方針、安定的で行き渡ったグリーン経済(環境にやさしい経済、持続可能な開発・発展を実現する経済)の発展を促すことによって、国民、労働者の実収入を増加させる。②各職場の環境を確実、健康的で安全なものにする。③労働者の団結権を保証し、労働組合の活動を強化させる。④労働組合の組織構成を整備し、人材育成を強化する。⑤資金力を増強し、分配を適切に行う。こうした目標と合わせ、2030年までに組織拡大目標28万人も掲げている。
 CMTUの実行力が問われ、それに応えるべく粘り強い取り組みが始まっている。