2019年 アルジェリアの労働事情

2019年8月1日講演録

アルジェリア一般労働組合(UGTA)
ホセイン メッサウディ(Mr. Hocine Messaoudi)

UGTA執行委員(労使紛争担当)
アッスィア ゼハダ(Ms. Assia Zehda)
農業地方開発銀行労働組合 書記長
アンマール モウアルキア(Mr. Ammar Moualkia)
アルジェリア社会保険基金労働組合 社会福祉委員会委員長

ハジーラ ナイトゥアラブ(Ms.Hadjira Naitouarab )
ビジャーヤ州女性委員会委員・兼軽工業アルミニウム労働組合執行委員

 

1.基本情報

 面積は238万平方キロ、日本の約6倍強と広大な領土を有しているが、その多くが砂漠地帯である。人口は約4,260万人、この内8割がアラブ人である。政治体制は共和制をとっている。
 実質の経済成長率は、2016年が3.2%、2017年が1.4%、2018年は2.06%(推計)となっている(IMFデータ)。その経済構造は、原油・天然ガスに多くを依存しており、ここのところの原油価格安を背景にして経済成長率は低迷している。今後の持続的発展を図るためには、多様な国内産業の育成が求められている。一方、物価上昇率は2016年が6.4%、2017年が5.59%、2018年が4.27%(推計)となっている(IMFデータ)。また、一人当たりGDP(名目)は2016年が3,291米ドル、2017年が4,016米ドル、2018年が4,237米ドル(推計)である(IMFデータ)。
 最低賃金は、月額18,000アルジェリア・ディナール(2019年7月現在のレートで約151米ドル)で、2011年11月以来、この金額で据え置かれている。失業率は2016年が10.50%、2017年が11.71%、2018年が11.73%で(IMFデータ)、深刻さが増している。
 政治状況については、大統領選挙をめぐって混乱が続いている。20年間に及ぶ長期政権にあったブーテフリカ大統領(82歳)が5期目をねらい立候補を表明したが、これが発端となってデモが発生し、デモは全国規模で6週間にわたって行われた。その結果、同大統領は2019年4月に辞任に追い込まれた。これを受けて7月4日に大統領選挙が行われる予定であったが、憲法評議会が、審査の結果2人の立候補を却下し、大統領選挙の実施は不可能との声明を7月2日に発表した。選挙は実施されず、国民評議会のベンサラ議長が暫定大統領に就任しているが、軍や経済界のエリートからなる既存の支配層の退陣を求める反政府デモは収まっておらず、先行きが見えない状況となっている。
 労働組合のナショナルセンターはアルジェリア一般労働組合(UGTA)で約273万人を組織し、国際労働組合総連合(ITUC)に加盟している。

2.労働を取り巻く現状と課題

(1)労働法制と社会保障制度

 アルジェリアの労働法は1990年に制定され、1997年に改正されたもので、雇用される側の権利、雇用の安定に関する権利、社会保障と労働の安全の権利、職業訓練を受ける権利、同一労働同一賃金の権利などの諸原則を規定している。これに加えて5つの関係法令があり、これらは「集団的労使紛争の防止と解決、ストライキ権の行使に関する法律」、「労働監督に関する法律」、「個別労働紛争の解決に関する法律」、「労使関係に関する法律」、「労働組合の権利行使に関する法律」である。
社会保障制度は賃金労働に従事するすべての労働者、そして学生に適用され、国民の8割が恩恵を受けている。制度の種類と2018年1月1日現在の労使等の負担率の一覧は次のとおりである。

制度 使用者 *1 労働者 *2 国民社会保障基金 *3 合計
社会保険(病気、妊娠出産、障害、死亡) 11.5% 1.5% 13%
労災保険 1.25% 1.25%
退職年金 11% 6.75% 17.75%
早期退職 0.25% 0.25% 0.5%
失業保険 1% 0.5% 1.5%
公的住宅(公団) 0.5% 0.5%
合計 25% 9% 0.5% 34.5%

*1:使用者の負担: 12カ月間における雇用労働者の平均給与総額の 25%
*2:労働者の負担: 給与の 9%
*3:国民社会保障基金の負担:労働者の給与の 0.5%

(2)直面する課題

①低下傾向にある組織率
 労働者の組合活動に対する不満ならびに無関心が組織率の低下につながっている。
 また、民間部門での組合結成が非常に困難であることも大きい。背景として使用者が労働者の団結権を無視し、組合結成を妨害する事態が横行していることが挙げられる。労働者に対する脅迫などもあり、時には解雇さえ敢行される。
 なお、アルジェリアでは組合の結成に当たっては、労働組合中央組織(ナショナルセンター)に対して結成申請を提出し、許可を得る形をとる。申請を受けた中央組織は、当該使用者に対して労働組合結成集会の開催を要請する。集会が開かれれば、法律に基づく必要な手続きを経て組合の結成にこぎつけることになる。しかし、この過程で、使用者が集会の許可を出さないこともあり、そうなれば結局組織化は進まない。
 UGTAはこうした状況に対し、購買力の確保に目を向けた新しい給与体系を策定し、労働条件や賃金の改善に力を注いでいる。同時に、草の根レベルでの労働組合員研修を促進するための全国レベルでの戦略を実施するとともに、若者と女性の労働組合参加を促進するための戦略を策定して取り組みを行っている。また、会社内あるいはUGTAの下部レベルで発生した問題を解決するための団体交渉及び社会的対話にも優先的に取り組んでいる。

②経済の低迷と困難な雇用状況
 石油価格の下落、通貨安、購買力の低下など、経済状況は厳しい状況が続いている。そのもと、需要に見合うだけの雇用は創出されず、インフォーマル労働に従事する者が労働者全体の半分程度にまでなっている。とりわけ、若者は学校を卒業してもそのほとんどが正規の雇用に就くことができず、インフォーマル労働に従事することを余儀なくされる状況となっている。残念ながら、新卒に対する雇用対策が欠落しており、社会保障制度もその点においては機能しているとは言えない。更には、非正規雇用の増大が社会保障制度の基盤を揺るがすことにつながっている。それは使用者がそうした労働者を社会保障制度に加入させないからである。

③多国籍企業では多くの問題が発生
 数多くの国際協定が批准され、労働者は法的には権利を保障されているが、多国籍企業においては多くの問題が発生している。具体的には、団結権の無視、劣悪な労働環境、差別的な賃金体系、有期雇用契約などであり、とりわけ、通信、銀行、石油関係の企業において問題が多く発生している。