2018年 アルジェリアの労働事情

2018年6月7日講演録

アルジェリア一般労働組合(UGTA)
ベルガセム ケルファ(Mr.Belgacem Kerfah)
国立労働組合調査研究所 トレーナー 兼 UGTA教育・組織担当

ハジーラ ナイトゥアラブ(Ms.Hadjira Naitouarab )
ビジャーヤ州女性委員会委員・兼軽工業アルミニウム労働組合執行委員

 

1.基本情報

  面積は238万平方キロ、日本の約6倍強と広大な領土を有しているが、その多くが砂漠地帯である。人口は約4千万人、この内8割がアラブ人である。政治体制は共和制をとっている。経済成長率(実質)は、2015年が3.6%、2016年が2.2%であり、2017年の見通しは、3.9%となっている。その経済構造は、原油・天然ガスに多くを依存しており、今後の持続的発展を図るためには、多様な国内産業の育成が求められている。(外務省情報等)物価動向だが、2015年は5.5%、2016年5.9%であり、2017年の見通しは6.1%となっている。最低賃金は、月額で2015年、2016年とも月額18000アルジェリア・ディナール(1アルジェリア・ディナール→約1円とすれば、月額約18000円程度か)であり、2017年もその水準は変わらずとなっている。政情は、2013年1月にイナメナスの石油天然ガスプラントでテロが起こり、多くの犠牲者(邦人も10人が犠牲に)を出す痛ましい惨劇があったが、現状では一部の地域を除き落ち着いているようである。労働者を束ねるナショナルセンターは2組織となっている。アルジェリア一般労働組合(UGTA)は約299万人を有する最大組織であり、労働者の拠り所としてその役割発揮が求められている。(注)数字は報告者による。

2.労働を取り巻く現状と課題、及び紛争解決への挑戦

(1)労働を取り巻く現状-常態化する労働権の侵害

 アルジェリアの労働を取り巻く現状の特徴は、民間及び公務員の両部門で労働権の侵害が常態化していることである。その端緒は1990年代の労働関係法律の大きな変化があってからのことである。こうした状況にあっても、UGTAは常に社会的な対話を重視し、組合・政府・使用者の3者構成による対話(これまでに21回に及ぶ)を重ねてきている。また、政府としても労働関係の多くの国際条約の締結・批准(60件以上)をしているものの、労働を取り巻く現状はむしろ厳しさを増すばかりである。

(2)直面する課題と解決に向けた取り組み-紛争の背景にあるグローバル競争の激化

①紛争へ駆り立てる様々な要因
 組合が直面する課題は次のような点である。まず基本問題として挙げなければならないのは経済のグローバル化・グローバリゼーション危機がもたらす労働者の購買力の低下という点であろう。労働者の経済力不足がもたらす影響は様々な形で現れる。労働者の連帯感の欠如もその1つであろう。不満のある企業労働者の動員を図ろうにも、連帯のないところに結集を図ることは困難である。その結果、それは組織率の低下となって現われる。特に若者と女性の組合離れが顕著であり深刻な課題である。さらに民間企業の経営側は組合設立を困難なものとしており、組合加入をも忌避させる機運を醸し出している。
 また、非正規労働者が増加し、社会保障制度の役割が危ぶまれている。非正規労働者は多用されながらも、雇用主・民間企業の事業主の反対で社会保障への加入が認められず、その保護がないだけでなく、低賃金、組合未加入を余儀なくされている。さらに、労働者の団結権に関する国の法律を経営者が遵守していない。雇用主の労働者に対する恣意的振る舞いの結果は、多くの労使紛争を巻き起こす結果となっている。
 こうした状況をつくり出している背景には、経済危機が国の法執行機関、労働監督機関などの監視・和解・指導といった役割を弱体化させていることや、海外からの直接投資が公正さを欠き、期待された結果や設定された目標に達していないこと(▷アルジェリア側の持ち分不足から期待される付加価値や利益を上げることができていない、▷主要な資源である石油価格の下落、及び直接投資の減少による通貨下落からのインフレの惹起で大規模開発計画が遅延している)などがあるからである。こうして直面する課題が労働側に突き付けられ、勢い紛争へと向う流れを形成している。

②紛争回避に向けた組合側の取り組み
 国は非正規労働者が厳しい環境下に置かれていることを承知しながらも、その労働を奨励するべく「ケア・カード」(医療カード)等の導入にとどまり、働く環境の改善に取り組む姿勢を持たなかった。こうして労働組合が疲弊する中、産業界は国営大企業から中小民間部門への再編が行われ、組合活動の低下、使用者との関係の複雑化などにより、組合側の新たな環境への適応を困難にしている。
 それでも組合は、先にも触れたように、社会的対話を職業的、社会的問題の発生を防止し制御する重要なツールとして、定期的な二者協議(UGTAと政府または使用者間)、三者協議(UGTAと政府、及び使用者間)を重ね、紛争回避に取り組んできた。また、若者と女性を組合活動に巻き込み、地方と全国レベルで組合を設立するための全国的戦略の策定を行ったり、契約労働者を労使協議に基づき正規労働者化させる対策を図ったり、草の根レベルにおいて組合員の人材育成や、労働者の実績を守るために法を援用して交渉することのできる法的素養を身に着けさせるなど、全国戦略の策定に地道に取り組んできている。

(3)紛争実例-賃上げ要求と協約更新の拒否から紛争へ

①紛争の至る全般経過
 経済危機と国民の購買力低下から、賃金引き上げが最優先課題となる世相を背景に、要求をめぐる企業労使間での激しい対立と紛争突入の実例を紹介する。
 経過は次の通りである。①期間満了の協約の更新と25%の賃上げ要求、②使用者側は協議・話し合い、交渉の開催を了解するも、賃上げ延期の可能性を模索、③交渉当初からの対立で関係が悪化、使用者側は投資拡大と設備や備品の更新による財政難を主張、④使用者側が賃上げ要求を拒否、⑤組合側は、長期にわたり賃金増額の恩恵を受けていない上に、購買力の低下もあることから、協約の存在(さらには、定期会合で約束した賃上げの不履行)を根拠に賃上げ要求の姿勢崩さず、紛争へと至っている。

②紛争前段の話し合い・紛争発生・解決手段について
 前段の話し合いは、集団紛争防止・調整・ストライキ権行使に係る法律の規定に従い、内部手続きを経て行われた。その中身は、使用者と労働者代表が交渉の場に会し、社会的及び職業上の関係の状態や企業内部の一般労働条件が討議されたというものである。この場で労働者側は、使用者が自ら課した約束や義務を履行し、賃上げと協約の一定項目の更新を行うよう要求を行った。
 しかし、話し合いは行き詰まって関係が悪化、交渉決裂となり、労働者側は労働監督署に仲裁を求め、交渉再開に向けて使用者側を説得するよう要請した。申し立てを受け労働監督署は労使間の調停手続きを開始し、担当の監督官は通知から4日以内に1回目の調停会合に出席するよう指示を出した。だが義務付けられた第1回調停会合から8日経過しても両者の妥結は得られず、調停は不成立に終わった。事態は袋小路に入り対話が滞ったため、圧力をかけて強制的に対話を再開すべく、労働者総会とナショナルセンターUGTAの諸機関による支援で、さらなる圧力と強制が必要となった。

(4)紛争解決に果たしたUGTAの役割と成果-粘り強い話し合い姿勢に軍配上がる

 調停失敗後、当該企業の組合役員は労働者総会を招集し、交渉の全段階にわたる経過として、使用者側があらゆる打開案を拒否したことを説明した。全国労働組合を含むUGTAの諸機関はこれらの通知を受け、労働組合理事会の要請に応えて使用者との長丁場の会合に立ち会い、双方が満足し得る解決策の到達を指向した。その際の対応として、抗議行動やストライキは企業に多大な損失を与えるため、避ける方向での動きとなった。その結果、組合側は要求内容を見直し、賃上げ要求については15%増に留める新たな提案を行い、最終的には使用者側が労働者側の要求各項目に同意する結果となった。
 UGTAの大所高所からの支援は、当該組合の拠り所となり、最終盤での実力行使を控えての粘り強い交渉により、成果の誘因に結実した。まさにナショナルセンターとしての役割発揮は面目躍如たるものであった。UGTAは、この話し合いによる解決で軍配が上がる成功体験を加盟各組合に広く伝播し、さらなる交渉力の強化につなげていかなければならない。