2021年度労使紛争未然防止シンポジウムを開催

開会式(理事長挨拶)

 2021年10月20日(水)に「建設的な労使関係の確立で社会経済の発展と労働者生活の安定を」をテーマに、労使紛争未然防止シンポジウムをオンラインで開催しました。今回は、フィリピンの労働組合代表、政府代表、バングラデシュの労働組合代表、使用者代表にご登壇いただき、また、JILAFタイ事務所からも登壇し、日本の労働組合関係者、企業関係者、学識・研究関係者など、計60名にご参加いただきました。

 JILAF南雲理事長の主催者挨拶の後、フィリピン及びバングラデシュ両国から、労働情勢も含めた労使紛争の現状と未然防止のための取り組み課題について報告を受けました。

【発言要旨】
<フィリピン全国労働組合(NTUC Phl) >
 フィリピンでは、1つの事業所・企業ごとに組合があり、組合のある企業の割合は、2018年には6.3%まで下がっている。そのうち労働協約を結んでいるのは98.1%で、組合員における女性割合は2018年時点で35.5%である。
 労働組合の代表者性を認めるための選挙として、認証選挙というものがあり、そこで過半数を従業員が投票すれば、その組合は代表者性が認められ、そのプロセスには使用者は干渉できない。ただし、この組合の代表性を認める過程で、不当な労働事案の発生もある。
 労働者側から団体交渉を求めれば、使用者はそれに応じなければならない。団体交渉が行き詰まり合意形成ができないと紛争となり、労使紛争の解決方法としては、労使だけで行う労使協議会や苦情処理機関もあるが、労使双方で解決できない場合には、国レベルの中央あっせん調停委員会まで進む。それでも難しい場合は強制仲裁となり、労働雇用省あるいは中央労使関係委員会といった国家レベルの調停となる。
 1990年代には、ストライキやロックアウトもあったが、今はほとんど発生せず、円満に安定してきており、ストライキにまで至らずに、労使間で解決されることが多くなってきている。

<フィリピン労働雇用省 労使関係局>
 フィリピンの総人口は1億900万人で、そのうちの69%である7,500万人が15歳以上の生産年齢人口、いわゆる労働人口年齢に当たる。今現在、雇用されているか、あるいは求職中のいずれかとなっている労働力人口は4,880万人である。これは、労働力率としては65%に相当する。そして、労働力人口のうち4,510万人が就業者であり、そのうち2,110万人が民間部門で働いている。一方で、現在の失業者数が370万人で雇用率が92.3%、そして失業率が7.7%である。
 労使紛争解決のため、いくつかのプロセスがあるが、まずは労働法を遵守し紛争そのものを回避すること、治療よりも予防が大事であると強調したい。回避できずに起こってしまった場合は解決方法として、労使による自主的な解決、労使委員会、苦情処理の3つがある。
労使委員会は労使協議の場であり、労使のメンバーにより定期的な会議を開催し、話し合いで解決していく仕組みである。苦情処理は不服申立てのプロセスであり、労働協約に含まれなければならない仕組みである。これにより報復の心配なく不服申立てができ、公正かつ迅速に対応することで、小さな意見の不一致が大きな紛争になることを防いでいる。しかし、職場レベルで解決できないと、第三者が介入し、まずは任意の仲裁を行い、次にあっせん・調整となる。
 労働雇用省は、紛争の予防措置として、労使関係局では、労使教育プログラムや卒業前の学生向けセミナーなど様々なプログラムを用意している。

<ITUCバングラデシュ協議会(ITUC-BC)>
 国の紛争解決機構として、調停、仲裁、裁定の3つがある。労使交渉では、交渉代理人として選出された労働組合は、紛争について書面で提起し、経営陣に提出する。また、使用者側も同様に提起、交渉を行う手続きが規定されている。労使間交渉がうまくいかない場合、関係者は調停人に調停を要請することができる。調停が不成立の場合、調停人は紛争を仲裁人に付託するよう当事者に促し、合意が得られると、仲裁人に対して要請が行われ、仲裁人は30日以内に裁定を下す。仲裁人はその結果を当事者および政府に送付するが、仲裁人による裁定は最終の結論であり、不服申し立ては認められていない。仲裁人による裁定を選択せずに、ストライキやロックアウトを行うか、労働裁判所を通じて紛争の解決を図ることもできる。
 2006年に改定された労働法では、労働者と使用者の同数の代表で構成される労使間機構である「参加委員会」の介入により、初期段階で労使紛争を解決できるような手段が提供されている。参加委員会の労働者代表は、労働組合の指名に基づき、労働組合がない場合は、事業所で働く労働者から選任される。
 バングラデシュでは大多数の労働者が現在も労働組合の範囲外にあり、結社の自由と団結権が制限されている。政府、使用者、労働組合、なによりも一般の労働者など、すべての当事者が協力しあって、交渉した協定を共に実施していかなければならない。

<バングラデシュ使用者連盟(BEF)>
 1980年ごろから繊維産業が急成長していったが、インフラ整備や労働者のソフト・ハード面の技能が追いついていなかった。その中でラナプラザの崩壊事故が起き、これにより世界中の注目がバングラデシュに集まり、労働条件や労働安全・衛生、職場環境、他にも様々な対策が必要だということで、取り組みが急に進み、賃金も9年間で200%以上も上昇した。
 2006年の労働法の改定により、労働者が労働組合に加入する権利、使用者が団体に加入する権利、両方が認められるようになった。なお、労働組合として登録するためには、雇用されている労働者の20%以上の組合員を有する必要がある。
 非常に深刻な紛争になった場合は、ストライキやロックアウトが行われるが、組合員の51%が同意のうえ、数日前に事前通知するよう法律で義務付けられている。また、ストライキやロックアウトが30日以上続く場合には、政府が介入できるが、この20年間で4日以上続いたストライキは見たことがない。
 2020年には593件の労使紛争が発生し、そのうち264件は繊維産業で発生している。現在、バングラデシュで登録されている労働組合は8,728、業種別の連合会が191、全国規模の連合会は34、そして2,129の各職場の参加委員会がある。参加委員会とは、各職場で紛争解決に向けて経営者と労働者の両方が入る委員会であり、経営者にとっても大きな助けとなる。
 バングラデシュ使用者連盟は、二者間協議や三者協議を通じて、より良い労使関係を促進しており、国の法律や政策の策定にもアドバイスや、参加をしている。加盟企業へのトレーニングも行っているが、加盟団体のみならず、労使関係や法律の解釈をサポートしていくことで、国全体の労使関係の促進に役立つと考えている。

 その後、パネルディスカッションと参加者からの質疑応答を行いました。
【質疑応答】
① 各国で新型コロナウイルスが労使関係にどのような影響を与えているか。
>経済の停滞にともない、雇用や賃金の面で労働者に大きな悪影響があったが、特にインフォーマルセクター労働者は悲惨な状況に追い込まれた。労働組合の組織化の阻害要因にもなったものの、労使で解決しようとした例もあったとのこと。
② 現状のなかで、労使紛争未然防止のための優先課題は何か。
>労働者の安全を確保しながら、どう経済活動を進めていくのか、そのためにも労使の話し合いの他、組織化や労働法への理解促進も重要であるとの認識が述べられた。
③ 欧米では新型コロナワクチンの接種を義務化している国もあるが、義務化についてどう考えるか。
>ワクチン接種の重要性・必要性を認識しつつ、義務化については意見が分かれた。
④ フィリピンの労使紛争が1990年代後半から減ってきた要因はなにか。労働仲裁人の役割は何か。
>和解・調停のプロセスを導入した。労使関係で問題があった場合に、労働仲裁人が介入し、あっせん・調停を行うことで、労使紛争の未然防止や早期解決の補助を行う。
⑤ ラナプラザの事故の後、労使関係が改善されたと認識しているが、コロナ禍において労使対話は有効に働いているか。
>ラナプラザ事故後の労使関係改善は、コロナ禍での問題解決にもつながると考えているとのこと。


 最後に、JILAF塩田常務理事が、「労使紛争は当事者間で解決できることが望ましいが、さらには問題が発生しないよう予防することが大事であり、労使紛争予防の要は労使協議や対話である」と述べ、シンポジウムを終了しました。

パネルディスカッションの様子①

パネルディスカッションの様子②