2021年度先進国シンポジウムを開催

パネルディスカッションの様子

 2022年2月22日(火)に「有期契約労働者を巡る法制度の概要と現状」をテーマに、国際シンポジウムをオンラインで開催しました。今回は、オランダの労働組合代表、使用者代表、イギリスの労働組合代表、日本の有識者にご登壇いただき、それぞれからの報告やパネルディスカッションを行いました。
 日本の労働組合関係者、企業、学識経験者、マスコミなど計63名にご参加いただきました。

 JILAF相原理事長の主催者挨拶の後、オランダ及びイギリス両国から報告を受けました。

【発言要旨】
<オランダ労働組合連盟(FNV)、オランダ人材派遣協会(ABU)>
 オランダは第二次世界大戦後、経済を立て直すために、使用者、労働者、政府の三者構成の社会経済会議や、労使の労働協会といった制度が取り入れられた。失業率が高まるなか、1982年のワッセナー合意に至る。1996年や1999年の労働法改正によりフルタイムとパートタイムで賃金や労働諸条件での格差が禁じられ、無期転換ルールが定められた。そういった背景もあり、結婚や子育てで労働から離れていた女性の就業率が高まった。
 最近では派遣雇用も増えてきている。労働者だけではなく企業にとっても一定の柔軟性は必要であろう。派遣業者を通じて柔軟な働き方を行い、諸条件については派遣業者が労働協約を結んでいる。2000年ごろ、賃金は最初の半年間、独自の賃金表に基づき払われ、半年後は企業の雇用者と同様の賃金・労働条件となった。2015年からは、独自の賃金表は廃止され、その企業の従業員と同一の賃金・労働条件となった。また、職業訓練の機会は派遣労働者にも与えられる。2015年には解雇補償金が導入され、派遣社員にも適用された。改正により2020年には就業日から適用になった。
 2000年代からあいまいな雇用の働き手が増えてきており、偽装自営業者が労働法によって保護されないという問題をどのように保護していくべきかの議論は続いている。新政権の方向性がまだ見えていない。

<イギリス労働組合会議(TUC)>
 イギリスでも労働者の非正規化が進んでいる。2007年の金融危機によって、失業率が上昇しなかったものの、正社員ではない不安定な就業が増えた。不安定な就業とは、ゼロ時間契約や季節労働者、また最低賃金以下の収入しか得られない自営業者を指す。世論調査の結果として、プラットフォームワークを経験したことがある人は4人に1人おり、また、単純労働だけではなく熟練工を含むあらゆる分野にも広がっている。
 不安定な仕事に対する就業の分布は、労働市場の構造的な不平等を反映している。不安定な仕事の就業者は、男性よりも女性の方が多く、黒人やマイノリティの労働者は白人よりもゼロ時間労働契約者の割合が多いなど、人種差別的な要素もある。不安定な就業の結果として、職場での権力は使用者側のほうが大きくなっている。直前での急なシフト調整やキャンセルが増加し、リスクが労働者に転嫁されている。
 不安定労働者は頻繁に入れ替わり、組合に加入する可能性も低くなる。ギグエコノミーは固定の仕事場を持たないので、組織化に向けたコンタクトをとることは難しくなる。一方で、ギグエコノミーの組織化に成功した例もある。
 英国の労働市場の特徴として、個人に対する保護の弱さがあげられる。実態は従業員だが自営業者として働いている人も多い。労働審判でそれが明らかになるとしても、数か月~数年、自身の案件が処理されるまで待つことは労働者にとって多大な労力をともなう。
 現在の与党は右派で自由市場推進・反規制・反労働組合の立場であり、選挙の際には労働者の権利保護を約束して票を得たにもかかわらず、2年以上たっても実現していない。

<東京大学大学院 法学政治学研究科准教授 神吉知郁子氏による解説>
 オランダ・イギリス・日本の3カ国の規制を整理すると、契約締結の段階では3カ国とも実質的な制限はほぼなく、無期契約労働者に比べて有期契約労働者を不利に取り扱うことはどの国でも規制されている。雇用保障に関しては、イギリスでは、使用者からの一方的な解雇に対して不公正解雇が禁じられており、法律上、無期契約の解雇と有期契約の雇い止めは同列に扱われている。オランダの法規制は日本に似ている。もともとオランダでは、無期契約の解雇に当たって、行政機関か裁判所の関与が必要とされており、その際には合理性があることが要件となる。
 日本における有期契約労働者への問題関心として、正社員との待遇格差があるが、イギリス・オランダともに格差は小さいと言える。法規制はあまり違いがないのに、諸外国に比べて日本では正規・非正規の待遇格差が重大な社会問題であり続ける背景には、日本の正社員の特殊性がある。正社員の内部労働市場における契約内容の柔軟性と、定年までの強い雇用保障と高賃金は、他方で様々な事情で働き方に制約がある人、正社員になれず不安定雇用に甘んじる状況と表裏一体でもある。担当する職務の遂行状況よりも、長いスパンで人材活用する可能性を評価するという仕組みであることから、スポットでみるとあまり仕事は変わらなくても、大きな格差があることが問題になるといった構造的な状況にある。
 各国とも、有期契約労働者の保護は、無期契約労働者の保護とかなり近づいてきた。しかし、それにより雇用は細切れになるという現象が起きている。ゼロ時間労働者など、フレキシブルである一方、決まった時間働き、まとまった賃金が得られる見込みは非常に薄い労働形態が増加している。
 ゼロ時間契約や偽装自営業者といった報告があったように、これまでは有期か無期かという雇用労働者間の格差が問題となっていたが、今では雇用と非雇用の格差の問題となっている。形式的には自営業者だが、雇用されている労働者と同じ従属性を持ち、交渉力が弱い働き手の保護が最大の課題と言える。対処するために3つの方向性が考えられる。
① 労働者概念の拡張や労働者性の推定による、一定の自営型就業者も労働法で保護
② 従属的な自営型労働者も集団的労使関係に包摂し、団体交渉や労働協約の締結による保護
③ 既存の労働法の適用がない就労形態に対し、直接的に新たな規制を導入・強化
 柔軟で多様な働き方と法制度の関係を考える上では、誰にとっての柔軟性を尊重すべきか、という視点が基礎にあるべきだ。多くの国で、その柔軟性は使用者に偏っており、労働者の生活の脅威にもなりえている。規制の抜け道への対応や履行確保の仕組みも重要になる。さらに、不安定な就労が働き手の生活基盤を脅かすこと自体が問題であるならば、社会保障制度と労働法の役割分担をどう考えるかが問題になるだろう。

 その後、パネルディスカッションと質疑応答を行い、以下のような内容で議論されました。
① 非正規雇用、偽装自営業者、また若年層を今後どのように組織化できるかが課題であり、これまでの組織化とは異なるアプローチが求められる
② 組合へ加入する費用負担や組合加入への障害については、加入によるメリットの提示と理解促進が必要
③ 労働協約のカバー率については、オランダは約80%(組織率24%)、イギリスは民間部門で57%(民間部門の組織率13%)であり、業態に合ったアプローチをすべき
④ オランダのパートタイム労働は労働者自身が望んだ働き方ができている人がほとんどであり好事例と言えるが、労働法の理念と運用の乖離については、労働者が生活に必要な賃金が得られるかどうかが鍵
⑤ 無期転換ルールと運用については有期・無期のバランスが重要
⑥ プラットフォームワーカーや偽装自営業者等の非従来型の労働者の保護と、働き方の柔軟性と保障のバランスに向けて議論を深めるべき

 最後に、JILAF元林常務理事が、「JILAFは建設的な労使関係の確立を通じ、経済社会の発展に寄与すべく事業を行っているが、誰もが安心して働ける環境は、雇用形態や働き方にかかわらず、守られなければならない。両国の話を聞いてその重要性を再認識できた。」と述べ、シンポジウムは終了しました。

相原理事長による開会挨拶

各国からの発表(イギリス労働総同盟TUC)