2019年度国際シンポジウム

意見交換の様子

  2019年11月22日、「今後の労働契約のあり方と労働者の権利保護について」をテーマに、国際シンポジウムを開催しました。今回は、JILAF招へいプログラム・先進国チームの被招へい者でもあるイギリス、ドイツの労働組合代表に加え、ドイツの使用者側代表、連合関係者にも登壇いただき、日本の労働組合関係者、企業、行政関係者、マスコミなど、計52名に参加いただきました。JILAF安永専務理事の主催者挨拶の後、それぞれの立場から報告を受けました。

  イギリスからは、不安定雇用労働者についての報告がありました。イギリスでは、有期雇用契約を除く不安定雇用労働者が労働人口の約1割を超えており、その中には契約に労働時間が明記されず、仕事があるときだけ働く「ゼロ時間労働契約労働者」や、プラットホーム経済*を支えて急速に増加する「低賃金自営業者」も含まれており、これらの労働者の働き方が単純労働にとどまらず、熟練労働や専門職の分野にも広がっていることが紹介されました。これに対し、労働組合はこれらの労働者に適正な賃金や最低限の権利保障を求める要求を掲げていることが報告されました。またその内容は、労働党のマニュフェストにも盛り込まれていることから、総選挙(12月実施)での政権交代を支持していること、現場においてはSNSでの情報共有の徹底や街頭キャンペーンを実施しつつ、これらの働き方に多く従事する移民労働者の組織化等にも取り組んでいることが紹介されました。

  ドイツからは、技術革新がもたらす職場の喪失や新しい働き方の拡大に、人口構成の変化があいまって大きな混乱の時期にあるとしたうえで、これに対し政府は明確な戦略を立案できていないとの認識が示されました。また、技術革新がより良い仕事と公正な社会の実現のために利用されるべきであるものの、事態は逆の方向に進んでいるとの懸念が披瀝されました。また、技術革新による新しい働き方の具体的事例として「モバイルワーク」「人工知能」「プラットホーム労働(*注)」が紹介され、その進展状況や問題についても報告されました。
  
  とりわけ、急速に拡大する「プラットホーム労働」については、大半が業務や労働時間を自己決定できない偽装自営業者であり、雇用労働者としての権利保護が不十分であること、またその半数が「正規雇用」への転換を望んでいるとのことでした。社会全体の経済効率重視への風潮が、労働者に様々な歪みを生みだしており、労働組合としてはこれらの人たちの権利保護のため、法的環境整備や人材投資・育成、教育戦略や体系的資格制度の構築等を求めていくことが提起されました。加えて、デジタル化をはじめとする技術革新がもたらす働き方への影響について、ジェンダーの切り口から、「労働者の自己決定権を強める可能性」が示唆され、「不平等問題への改善要求を高める」という提案もなされました。また、それらの問題解決に向けた実行可能なアプローチとして、労働協約の事例も紹介されました。

  そのうえで、労働組合としては、労働者としての自己決定権(労働時間と働く場所の自己決定等)を確立すべく、新しい働き方に対する法的な枠組み作りが不可欠であるとの見解が示されました。

  一方、ドイツの使用者からは、この飛躍的な技術革新、人口構成の変化、国際競争環境の激変の時代に、中小製造業として生き残るためには、企業文化の転換が求められることが紹介されました。それは、コラボレーション(協創)のためのインフラを活用し、最重要資源である多用な従業員の経営参画を促進することや、より顧客に近づくために地域や階層を超えた協力を可能にすること等、経営組織として変化を共に受け入れていく取り組みであるとの報告がなされました。

  日本からは、「雇用類似の働き方」についての調査報告がなされました。契約決定時の「双方の協議による決定」や「契約内容の明示」については、半数以上の人が「有り」としていますが、「契約内容の明示」が無かったとする人が半数を超える職業分野もあることが紹介されました。また、契約に係るトラブルが多発しており、それについて「すべて解決した」が半数を超える事案も多いものの、「報酬の未払いや一方的減額」「アイデアの無断使用」等についての解決は4割以下、「セクハラ・パワハラ」おいては半数近くが未解決のままとなっている実態も共有されました。

  また、現状の請負契約での働き方に対しては、「収入の不安定さ」「失業時の保険がないこと」「業務による災害への補償がないこと」が問題だとし、今後に向けては「契約内容の書面化」、「トラブル発生時の相談窓口の設置」等を要望していることが報告されました。
連合としては、「労働者性の拡大」「偽装請負の防止」「労働者とともに請負契約従事者の権利保護の向上」の3点を中心に、多方面に働きかける幅広い活動と、問題が同時進行する世界との連携を図っていきたいとの考えが述べられました。

  各国報告の後は、安永専務理事の先導により、会場からの質問を中心に登壇者との意見交換(パネルディスカッション方式)の時間としました。

  質問は多岐にわたりましたが、技術革新と労働者の権利保護については、健全な均衡を図って進めるという基本認識を共有したうえで、「組織化による労働者の権利保護の取り組み」、「技術革新に対応する人的投資の重要性と担うべき責任」、「あいまいな雇用で働く人たちの権利保護に向けた最優先課題」等の質問がありました。
各国とも大きな変化の途上にあり、抜本的な対応策を見極めていく過程にあることから、本シンポジウムでは、今後とも各国が連携を深めていくことの重要性が認識されました。

  最後に、JILAF塩田常務理事は、「デジタル化をはじめとする技術革新への対応は、人間中心の基本理念と人材育成が重要であること、また、これらの問題は健全なパートナーシップとしての労使関係を基盤とし、社会対話を重ねることで共存可能な社会の実現につながることを期待したい」と述べ、シンポジウムを終了しました。

<*注>
*プラットホーム労働(経済):一般的には、デジタルプラットホームを基盤に、個人や組織が、別の個人の問題を解決したり、サービスを提供したりする労働を指す。また、この基盤を活用して行われるビジネスが形成する経済は、プラットホーム経済と呼ばれる。