活動報告 各国の労働事情報告

2024年 カンボジアの労働事情(アジアユース非英語圏チーム)

以下の情報は招へいプログラム「アジアユース非英語圏チーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

  • カンボジア労働総連合(CLC)
  • カンボジア労働組合連盟(CCTU)
  • カンボジア労働組合連盟(CCU)

基本情報(外務省令和6年4月17日更新データより)

人口:16.9百万人(2023年)

宗教:仏教

政体:立憲君主制

主要産業:製造業、卸売・小売、農林水産業等

GDP:309億ドル(名目、2023年)

物価上昇率:2.0%(2023年)

 

最近の課題および問題点

  • 会社が法律に違反して組合員を解雇する。また、労働者の社会保障や労働条件・福利厚生を蔑ろにする企業も多く、組合活動に参加する労働者を使用者が差別する(例:組合員の人事評価を恣意的に下げる)。
  • 2024年の月額最低賃金204ドルを2025年には208ドルへと引き上げ予定であるが、それ以上に生活費が高騰し、新たな最低賃金では十分な生活の支えとならない。
  • 多くの労働争議が未解決の状態であること。

最近発生した労使間でのトラブル

紛争事例:バナナ農園での劣悪な労働環境と労働条件について

①紛争の原因と経過

バナナ農園で劣悪な労働環境・労働条件が続き、州の機関が労働環境・労働条件の改善をバナナ農園に指示したにもかかわらず改善が見られなかったため、労働組合が結成された。

②労使の主張

労働側:公正な賃金と手当、および労働条件の改善を要求する。
理由もない不当な解雇や、外部委託の増加により余剰となった労働者を解雇することなどをやめ、雇用の安定を要求する。
労働者の社会保障制度加入に会社が協力する
労使間で団体交渉や労使協議を自由に実施できるようにする。

経営者側:競争力を維持するために生産性と効率を高める必要があり、組合活動でなく業務に邁進して欲しい。
政府や国際機関が定めた規制要件や基準遵守のためにコストがかさむため、賃上げは難しい。
事業を成長・拡大させるための投資資金確保のために、人件費削減をしてリソースを確保する必要性がある。

③労使紛争の結果

協議の結果、企業は労働者の社会保障加入については協力した。また、雇用契約を短期契約や有期契約から無期契約へと変更した。

会社の組合役員弾圧:ウィングスターシューズ組合委員長逮捕の件

①紛争の原因と経過

2024年2月ウィングスターシューズ社の組合委員長が会社側の根拠の無い刑事告訴により、工場内で令状なしに逮捕された。ウイングシューズ社の主張は、工場内で労働者による窃盗行為が発生し、委員長がこの行為を目撃しながら報告しなかったため、委員長は窃盗の「共謀」にあたるというものである。その後、州裁判所で審理が行われ「窃盗共謀」の罪で委員長は実際に起訴された。審理中に会社の証人による明確な証言がされないにもかかわらず、裁判所は同年6に有罪判決を下すこととなった(委員長はその後控訴)。その結果、会社が委員長を根拠なく刑事告訴したことや、委員長の裁判結果を不服として、ウィングスターシューズ社内で組合員たちが抗議活動を展開した。

②労働組合の主張

今回のケースは、労働組合への加入・労働組合活動を行うことに対しての捜査当局、使用者からの脅迫である。

③控訴審の結果

6月にくだされた有罪判決を不服として、委員長は控訴した。その結果、8月22日に裁判所は控訴審にて無罪判決を下した。また、会社に委員長を職場に復帰させることと、法律に基づいた補償金を支払うことを命じた。

.労働法について

労働法の動向

主な労働法の動向は以下の通りである。

1997年:19章396条からなる労働法を採択。

2007年:「夜勤労働」に関する2つの条文を改正。

2021年:労働検査官の役割に関する文を改正。

また、最近、時間外労働および夜勤に対する賃金、年功手当の支給、解雇等関連する条文が改正された。

.社会保障制度について

(1)制度の現状

社会保障法は、2002 年 9 月に国会で制定された。社会保障制度自体は存在するものの、労働者に給付を実施する上で次のような問題点が指摘されている。

  1. 建設業や縫製業では下請け業者が多く、そうした下請け業者は労働者を正確に会社に登録していないため、そういった労働者は社会保障制度の対象になっていない
  2. NSSF(国会社会保障基金)に対する労働者の興味関心が薄く、加入しようとする意識が低い
  3. 人材と医薬品の不足により、病院での治療サービスが十分でない

(2)社会保障制度改正に向けたナショナルセンターの取り組み

ナショナルセンターとして行った視察の結果や組合員からの声を踏まえ、ナショナルセンターとして、以下の通り社会保障制度の見直しを政府に提案したいと考えている。

  • 下請け業者や小規模企業への立ち入り検査を実施する
  • 国民に対して、労働災害、健康管理、年金について教育する
  • 高水準の医療パッケージを国民に提供する
  • 社会保障制度についての研修会を実施する
  • 政労使の3者構成で社会保障制度について議論する会議体を設立する