活動報告 各国の労働事情報告

2024年 インドネシアの労働事情(アジアユース非英語圏チーム)

以下の情報は招へいプログラム「アジアユース非英語圏チーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

・インドネシア全労働組合同盟(KSBSI)

・全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)

基本情報

人口:約2億7,000万人(2023年)

宗教:イスラム教 87%、キリスト教 10.4%(プロテスタント 7.4%、カトリック 3%)、ヒンズー教 1.7%、仏教 0.7%

政体:大統領制、共和制

主要産業:製造業、卸売・小売、農林水産業等

GDP:11,790億ドル(名目、2023年)

経済成長率:5.05%(2023年)

 

1.最近の課題および問題点

  • 勤続期間が5年を超え、正社員の扱いおされるべき者に対する解雇。
  • COVID-19感染拡大以降の収益減少を理由とした解雇。
  • 休息なデジタル化により、小売り店舗の業績が落ちていることを理由とした解雇。

2.最近発生した労使紛争

紛争事例ケースⅠ:法令が遵守されていない労働者の解雇

①紛争の原因と経過

原因:前述の勤続5年を超える組合員に対する一方的な解雇が発生したもの。
経過:労使間で3回にわたる協議が実施され、会社側は弁護士も参加させたが、その3回の   協議では解決に至らなかった。

②労使の主張

労働側:勤続5年を超えた労働者については正社員として再雇用すべきである。
会社側:解雇は正当である。

③労使紛争の結果

協議で解決に至らなかったため、労働側は会社が和解に応じない場合、ストライキを実行に移すと会社に通告した。その結果、再度、労使間の協議が実施され、勤続年数5年以上で契約満了となった労働者の一部は正社員として再雇用された。一方、勤続年数5年未満で契約満了となった労働者の一部は再雇用されず、これらの労働者は補償金を受け取った。また、会社は有期雇用で従業員を新規に募集する際には、今回解雇された組合員を優先的に採用することを約束した。

紛争事例ケースⅡ:あるホテルに勤務する組合員の不当解雇

①紛争の原因と経過

原因:当該組合員が会社に一方的に解雇された。解雇理由はある業務違反によるものである。しかしながら、その業務違反は組合員本人でなく同僚が犯した業務異端であり、解雇不当として紛争に発展している。
経過:仲裁機関で審議中。

②労使の主張

労働側:会社は一方的に解雇するのではなく、解雇する前にまず調査を行い、証拠を得るべき。
会社側:解雇に対する補償を行う意思はない。また、組合員の解雇は妥当である。

③労使紛争の結果

労使間で2度協議を実施したが合意には至っていない。そのためデモを行った。

紛争事例ケースⅢ:COVID-19感染拡大に伴う、労働時間短縮や賃金カット

①紛争の原因と経過

原因:会社は収益減少を理由に、組合員3名に対して解雇通告を行った。組合員は何の補償もない解雇を不服とし、労使紛争に発展した。
経過:労使間協議では解決策と妥協点を見出せなかったため、 労働組合が当該地域労働事務所に調停を要請する書簡を送付し、労働組合と経営陣との間で3回の調停が実施された。

②労使の主張

労働側:勤続年数に基づき、退職金規定の満額を一括払いすること。
会社側:COVID-19感染拡大後、会社の財務状況は改善しておらず、店舗運営費をまかなえないため解雇した。退職金を支払う余力もない。

③労使紛争の結果

当該地域労働事務所は、退職金規定満額の50%と長期勤務手当を含む補償の支払いを会社に命じた。会社はこれら全てを受け入れた。組合員2名もこの内容を受け入れたが、残り1名については、この内容では不服として拒否し、裁判所における調停に進んだ。

3.労働法制について

①労働法の現状

オムニバス法(雇用創出に関する法律)は、労働力に関する法律、社会保障制度に関する法律、社会保障提供機関に関する法律などを1つに統合している。この法律の施行にともない、外国人労働者に関する政府規則、特定時間労働契約、業務委託、労働時間および休憩時間、雇用終了に関する政府規則、賃金に関する政府規則、失業補償に関する政府規則が規定された。
オムニバス法には、問題のあるあいまいな条文が多い。また、有期雇用契約について、最長2年+1年の延長上限を経過した場合、無期雇用契約に変わるという規程が廃止された、このため、有期雇用契約の労働者の雇用が不安定になる可能性が高くなっている。

②現状に対する問題意識とナショナルセンターの取り組み

オムニバス法の条文改正を求め、政府に提言するとともに、大統領官邸と下院の周辺で数回のデモを実施した。また、地方最低賃金についても引上げを実現させるべく政府へ提言を行っている。

4.社会保障制度について

制度の現状
老齢保障制度、年金保障制度の加入率は非常に低いが、これは多くの労働者が制度の保証内容を魅力的でないと考えているためである。国民健康保険については、全国民を対象とする健康保険が存在し、労働者については、賃金の1%を負担するだけで労働者とその家族が給付の対象となることができる