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韓国の2025年最低賃金、1月1日から時給一万ウォン超に ~春にはじまる来年の賃金額等に向けての論議にも注目~

2025.02.27掲載

韓国では1月1日から、2025年からの新しい最低賃金額が施行された。同国の最低賃金額は全国一律であるが、今年は前年から1.7%引き上げられ、一万30ウォン(約1,073円)となった。これは日本で昨年改訂された最低賃金額の全国平均である1,055円を上回る。都道府県別の賃金額と比較すると、第6位の埼玉県(1,076円)と第7位の兵庫県(1,052円)の間にある。最低賃金を1万ウォン以上とすることは、2017年に大統領に就任した革新系の文在寅氏の公約であった。今回、保守系の尹錫悦大統領のもとで実現したことになる。

 

韓国での最低賃金制度に関する論議は「最低賃金委員会」で行われる。通例では、3月に政府から委員会に対して検討の要請が行われ、4月から7月までの間に論議されて、その後、決議が行われる。昨年は、同委員会の初回での意見表明では、労働者側は27.8%引上げ(12,600ウォン)、使用者側は賃金額据置き(9,860ウォン)の見解であった。その後、激しい論議の応酬が続き、4回目の論議では、労働者側は9.9%引上げ(10,840ウォン)、使用者側は0.8%アップ(9,940ウォン)であった。これらを経て、最終の論議が行われ、今回の引上げ額が決議された。

 

このような激しい労使対立を招いたものの一つは、文在寅政権下での最低賃金額の大幅引上げである。そこでは、現在の制度では史上最高レベルといえる16.4%の引上げが行われた。文大統領は、「所得主導成長」を掲げ、経済活性化に繋がるとした。しかし、その後は、むしろ解雇や倒産の増加、格差の拡大などが指摘された。使用者側は昨年、これらを厳しく指摘、結束して論議に臨んだ。ただ、韓国の2024年の消費者物価上昇率は2.3%、経済成長率は2.0%であったことから、1.7%では低過ぎたとの声がある。また、使用者側が1万ウォン超えを強く意識したとの見方もある。

 

昨年の労使の論戦では、最低賃金を職種別に設定することも論議された。韓国では制度上は職種別の扱いが可能だが、発足時を除けば、賃金額を全国一律とする扱いが続いてきた。しかし、使用者側は今回、「最低賃金額が高過ぎ対応できない職種が広がった」として、小規模サービス業などを別額にすることを改めて提案した。労働者側は強く反対したが、委員会での投票に持ち込まれた。結果は賛成11票、反対15票、無効1票で否決されたが、今年の審議でも再燃する可能性がある。

 

さて、今年も4月から最低賃金の審議が開始されることになる。昨年の経過を振り返ると、厳しい対立となることが想定される。AFP=時事通信の“Korea Wave”によれば、「韓国の最低賃金制度では賃金額を合意で決定するとしている。しかし、37年間の歴史の中で、合意で決まったのは7回に過ぎない」として、制度改善への動きを紹介している。例えば、韓国政府は昨年11月「最低賃金制度改善研究会」を設置して制度の見直し等の論議を続けている。

 

いずれにしても、韓国の最低賃金制度は、「1万ウォン時代」となり、新しいステージを迎えたといえる。今年の論議は内外からの注目がさらに高まるであろう。

レート: 1ウォン=0.107円(2025年1月)

(K.K)