フォルクスワーゲン労使が2030年までの10工場操業継続で合意
2024年12月20日のニューヨーク・タイムズは「ドイツ産業の衰退を露にすることになったドイツ最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン工場の閉鎖問題について、労使が2030年までの10工場操業継続で合意した」と報じた。
ハノーバー市での70時間を超える討議を経て、2030年までの10工場の操業継続と12万従業員の雇用継続に合意した労使だが、再建計画を進めながら35,000人の定年退職と自然退職を見込む。その代わりに、大多数の組合員を組織するIGメタル労組は2031年までの賃上げ要求の停止とボーナス・カット、工場での減産を受け入れたが、VW労働者協議会のカバロ議長は「工場閉鎖は無し、解雇も無し、賃金も長期にわたり確保される」と述べた。
VWは欧州需要の減少と中国企業との競争にさらされて厳しい状況に立たされているが、同社は87年の歴史の中で団体交渉制度による社会契約の下、対等な会社繁栄と従業員福祉と言う強固な労使関係を築いてきた。工場閉鎖の会社要求はこの伝統を裏切るものとして労働組合は反対する。
このため、約10万人の組合員は12月に短期間のストライキを実施、交渉難航の場合は1月にもスト拡大を示唆した。VW社はまた過去12か月間に約35%の株価低落に見舞われており、このため会社は当初要求の3工場閉鎖と10%賃金カットを撤回して、早期の労使合意を必要としていた。VW社のブルームCEOは「一連の問題に解決が付き、会社は将来に向けてのコスト、生産、機構改革への方針を決めた」と語る。
これに対しIGメタル労組は7%の賃上げ要求を撤回、代わりに今後5年間の5%賃上げに相当する資金による共同基金を創設、勤務時間縮小や早期退職に追い込まれる組合員のために使用する。会社はこうした計画で40億ユーロ(42億USドル)を節減、生産能力を今後5年間に734,000台に縮小して、生じた余力で新規車種の開発と競争力強化を図ると言う。
この点についてドイツ自動車調査センターは「この計画は労働者を納得させ、労働者に自信を取り戻させるものとなる。VW社に依存する多くの部品業者と従業員など自動車業界全体にも良い結果をもたらすだろう」と述べた。
他方、ドイツ経済は成長が2年連続で縮小し2025年の改善も望み薄の中、議会ではショルツ首相への不信任案が可決され、来年2月の総選挙では新政権によるジャンプ・スタートが期待されるが、エネルギー高価格、複雑な官僚制度、老朽化するインフラ、政治対立、それにショルツ政権による政治麻痺もあって輸出が阻害されており、加えて米国トランプ政権による保護主義の脅威が起きている。
VW社は欧州に加えて世界最大の自動車市場、中国での需要低迷に苦しみ、ドイツ国内では労働力と電力の高コストに遭遇、今年8ー9月の利益は過去3年間で最低の28億6千万ユーロに落ち込んだ。そのためVW最大の株主、ポルシェ社は31.9%の持株評価を200億ユーロ減額すると言明、その点からもVWは早期の対策を迫られている。