2024年 シンガポールの労働事情(先進国チーム)
以下の情報は招へいプログラム「先進国チーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
1.はじめに
シンガポール全国労働組合会議(以下、SNTUC)は、企業に企業訓練委員会の設立を奨励することで、労働者が「新しく価値の高い仕事」で活躍できるスキルを身につけられるよう支援し、労働者のキャリアアップを促進している。この委員会は経営陣と労働組合の代表で構成され、事業変革を支援するために必要な訓練を特定し、雇用可能性を高めるために労働者の技能を向上させる目的で設置された。具体的には、①低・中賃金労働者について、技能の向上と生産性の向上を通じて賃金の上昇を実現する。②プラットフォーム労働者、フリーランサー、自営業者について、プラットフォーム労働者の集団代表の法的枠組みを提供する新しい法律を施行する。③女性向け活動について、離職者の職場復帰を目指した訓練・柔軟就労プログラムを重点活動とする。④高齢労働者がキャリアの機会を拡大できるよう支援し、退職後の経済的安定を高めるよう提唱する。⑤若者のキャリアの機会と自己啓発を支援する。などである。
以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。
2.シンガポールの労働事情
(1)直近に発生した問題視されている労働争議
ある電子商取引会社が約100人の従業員に突然解雇を通告した。この人員整理の労働者への解雇パッケージは劣悪なもので、かつ、労働者が就業時に締結した雇用契約書の競業企業への転職禁止条項に縛られたため、労働者は数多くの企業に転職することができない状況となった。同社は労働組合のある会社であったが、使用者側は解雇に関する事前通告を一切行わず、解雇手当についても労働組合と交渉しなかったため、労働組合はこの問題を労働省に通報した。その後、同社は労働組合に対し、人員整理が公正に実施されるよう全面的に協力し、必要な情報を労働組合に提供することを確約した。両当事者は緊密に協力し、労働者の利益を交渉の最前線に置くことに合意した。その結果、会社は影響を受ける対象労働者に対する追加給付を求める労働組合の要求に同意した。
(2)社会保障制度
シンガポールにおける主要な社会保障制度は、中央積立基金 (以下、CPF) である。CPFは、雇用主と従業員の双方からの拠出金によって運営される義務的な貯蓄制度で、退職、医療、住宅に関する支給や子育て中の家族に対する政府の支援も充実している。さらに、政府支給の産休および育児休暇、税制優遇や財政補助金、助成金といった追加の財政支援を受けることができる。
(3)労働法制
①シンガポールの労働法制について
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- 雇用法:シンガポールにおける雇用を規定する主要な法律である。船員、家事労働者、法定委員会職員、公務員を除くほとんどの被雇用者を対象としている。労働時間、残業、休息日、解雇などの基本的な雇用条件を定めている。
- 外国人労働者雇用法:シンガポールにおける外国人労働者の雇用を規制する法律である。外国人労働者の労働許可(就労ビザ)について定めている。
- 退職・再雇用法:高齢従業員の再雇用を規定している。雇用主は、63歳になった従業員に対し、68歳までの再雇用を提供することが義務付けられている。
- 労働安全衛生法:職場における従業員の安全と健康確保を目的としている。安全な職場環境を提供し、職場のリスクを管理する義務を雇用主に課している。
- 労働災害補償法:従業員が訴訟を起こすことなく、業務上の負傷や疾病に対する補償を請求できるよう定めている。
- 児童発達共済法:出産・育児休暇を規定している。
- 労働問題に関する三者構成ガイドライン:法律を補足するものである。労働省はガイドラインの不履行に対して措置を講じることができる。政労使三者の勧告は、雇用主が採用すべき進歩的な職場慣行を示している。
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②労働法制改正の動向
プラットフォーム労働者法は、2024年9月10日に可決された。この法律は、プラットフォーム運営者の権利と義務を規定し、プラットフォーム労働組合の登録と承認、プラットフォーム労働者とプラットフォーム運営者の権利、義務、保護、代表権を規定している。また、この法律は職場での傷害補償を従業員と同等に提供することや、プラットフォーム労働者の住宅と退職のニーズをサポートするための、より良い社会保障を定めている。