活動報告 各国の労働事情報告

2024年 中国の労働事情(中国チーム)

以下の情報は招へいプログラム「中国チーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

中華全国総工会(ACFTU)

中国財貿軽紡煙草工会(ACFTU加盟組織)

基本情報 (外務省令和6年6月11日更新データより)

  • 人口:約14億人
  • 宗教:仏教・イスラム教・キリスト教など
  • 政体:人民民主専政
  • 主要産業:第一次産業(名目GDPの7.3%)、第二次産業(同39.9%)、第三次産業(同52.8%)(2022、国家統計局)
  • GDP:約121兆207億元(2022年、中国国家統計局)
  • 経済成長率:3.0%増(2022年、中国国家統計局)
  • 失業率:5.6%(都市部調査失業率)(2022年平均、中国国家統計局)

中国の労働法制について>

1.施行されている労働法制

中国の労働分野における法整備は1950年代に始まり、改革開放期以降に大きく進展してきた。現在、以下のような労働関連法制が施行されている。

【法律】

労働法(1994年制定、基本的事項を幅広く規定している重要な法律)、労働契約法、労働組合法(工会法)、労働紛争調停仲裁法、安全生産法、職業病防止・治療法、婦女権益保護法、就業促進法、社会保険法(労災保険、失業保険、出産・育児保険、基本養老保険、基本医療保険)

【条例、規定、規則】

障害者雇用条例、雇用サービス・雇用管理規定、人材市場管理規則、労働契約実施規則、労働協約規則、労働人事争議実施規則、最低賃金に関する規則、賃金の支払いに関する規定、従業員の年次有給休暇に関する規定、児童労働の禁止に関する規定

2.課題

労働関連の法整備は十分とは言えず、次のような課題があると考えており、ACFTUとしては労働立法、労働法制の整備に力を入れる必要があるとの立場にある。

  1. 労働法の法体系が十分に整っておらず、法的にカバーしきれていない重要領域が存在する(例:公正な雇用、労働基準、所得分配、団体交渉、企業・機関の民主的管理)
  2. 法・制度の改正が遅れ気味で、社会における急速な変化との間にずれが生じている(例:労働法は1994年に制定され、2009年と2018年に技術的改正が行われたが、実質的改正は30年間行われていない。労働契約法や就業促進法や労働紛争調停仲裁法も10年以上改正されていない。)
  3. 一部の労働関連法は課題がある状況にある。例えば、労働協約の関係は「規則」に留まっている。労働法は基本的・根幹的な重要法であるにも関わらず、一般法の扱いとなっており位置づけが明確でないため、実施段階においても様々な問題が発生している。

<プラットフォーム労働者の増大と取り組み>

1.プラットフォーム労働者の増大と法整備

中国ではインターネットプラットフォームに依拠して仕事をする、新しい就労形態の労働者が急速に拡大している。トラックの運転手、ネット配車の運転手、宅配品の配達員、出前の配達員などで、フレキシブルな働き方が特徴である。

プラットフォーム労働者の多くは雇用関係が曖昧で労働契約を結ぶことが困難な状況にあるが、2021年7月に、人力資源社会保障部(日本では厚労省)や最高人民法院やACFTUなどの8つの機関が共同で「新就労形態労働者の労働と権益を保護する指導意見」を策定したことで、一定の範囲で当該労働者の権益を保護することに役立っている。また、最高人民法院は、労働者性が曖昧である場合には事実に基づいて判断するように、との指針を出している。更に、2021年12月には労働組合法(工会法)が改正され、企業との間に労使関係があるかどうかに関わらず、新しい就業形態に就く労働者が労働組合に加入できるようにした。安全生産法についても、労働者の特徴に照らして適用できるように改正された。しかし、全体的な法整備についてはスタートラインについたばかりの状況にある。

2.労働組合の取り組み

ACFTUはこの新しい就業形態の労働者を守るための取り組みに力を入れており、法整備の取り組み以外に、以下のような対応を行ってきている。

  1. 組織化:2021年7月~22年12月までを集中行動キャンペーン期間として取り組みを進め、現在は2023年~2025年の3カ年行動計画の下で組織化に取り組んでいる。現在、1590万人を組織化した。方法としては、ア)プラットフォーム企業における労働組合設立を促進、イ)政府部門や業界団体などの協力を得て業種別組合を設立、ウ)市町村など地域レベルの組合を強化、改善して組織化に向けたカバー率を上げる、という3パターンで進めている。

    組織化にあたっては、ACFTUがプラットフォーム企業内に入って行って、何らかの形で暫く場所やポジションを企業内に確保して、組織化を進めるというアプローチも取っている。また、労働者が組合に加入しやすいようにネット加入やQRコード加入などの方策もとっている。

  2. 組合員サービス:組合に加入したいという意欲を促進すべく、次のような取り組みを進めている。ア)権益についての協議メカニズムを確立・改善し、労働者による要求の表明が円滑になるようにコミュニケーション・プラットフォームを設置

    イ)オンラインとオフラインを有機的に連携させたサービスシステムの構築(例:移動型の健康診断の実施、法律支援・職業紹介・労災保険紹介などのサービスの提供、ドライバー組合員が充電・食事・休憩ができるスポットの設置など)

<社会保障について>

1.現状

社会保障制度については、全国民をカバーする保障とアクセスの確保という目標が党により掲げられ、制度構築が進み、大きな成果がもたらされている。この10年余りで被保険者数は大幅に増加し、全国の社会保障カード保有者数は13.8億人に達した。これは人口の98%がカバーされるに至っている。また、給付額についても大きな改善が見られる。

概要は以下のとおり。

  • 公的年金制度(基本養老保険):都市職工養老保険、公務員養老保険、都市・農村住民養老保険の3つの制度で構成され、2024年3月現在の被保険者数は10.7億人。なお、退職労働者の2023年の年金月額は2012年比で倍増。
  • 公的医療制度(基本医療保険):都市職工を対象とする制度と都市・農村住民を対象とする制度の2つで構成されている。
  • 失業保険:2024年3月現在の被保険者数は2.4億人。失業保険の平均給付月額は2012年の707元が2023年には1814元まで増加。
  • 労災保険:2024年3月現在の被保険者数は2.9億人。なお、労災保険の平均障害給付月額は2012年には1864元であったものが2023年には4000元となっている。労働組合は中国の社会保障制度の構築に重要な役割を果たしており、公的保険に関する政策や制度の策定に参加している。また、労働者のための医療共済の提供・運営に携わり、企業年金制度の標準化と発展を推進し、困難な状況にある労働者のための支援センターを設置・運営している。支援センターは2023年初めまでに県レベル以上の3380カ所に設置され、生活支援、医療支援、子どもの就学支援、雇用サービス、法律支援などを行っている。
2.課題と取り組み

急速に発展を遂げている社会保障制度ではあるが、ACFTUとしては以下のような課題があると捉えている。

ア)年金、医療、労災、失業についての各公的保険制度は、長い間、地域間の調整がされない状態に置かれ、保険料算出ベースは統一性を欠いており、経済産業の発展、農村部から都市部への人口移動、高齢化の進展などに適合できていない。

イ)所得、再分配(税、保険料)、共助(慈善事業、私的保障)を効果的に調整することに資する制度が構築されていない。当面は、所得(賃金)の改善、企業による福利厚生の充実、寄付や慈善団体への税制上の優遇措置などを促進する必要がある。

ウ)保険の適用範囲の拡大なども必要になっており、例えば、労災保険は全ての労働者をカバーすると共に、労災障害給付に留まることなく、労働災害の予防やリハビリなどもカバーする制度とする必要がある。

<中国財貿軽紡煙草工会とその取り組み>

1.組織概要

中国財貿軽紡煙草工会(金融・商業・軽工業・繊維・たばこ産業労働組合)がカバーする4つの主要産業で働く労働者は約1億3千万人で、業種は多岐にわたり中小零細企業や民間企業が多い。4つの主要産業の内訳は、①小売業を含む商業・流通業、②観光、ホテル、ケイタリング、家事サービスなどの生活サービス産業、③農業、食品加工、皮革、製紙、プラスチック製品、家具、家電、醸造、たばこなどの軽工業、④繊維、衣料、化学繊維などの繊維産業である。なお、プラットフォーム労働など新しい就業形態の労働者も組織している。

 2.取り組みの概要

中国財貿軽紡煙草工会は、労働者の権益を守るために尽力すると共に、当該産業の労働者の質を高め産業を発展させるための活動にも力を入れている。

最近実施された具体的取り組みは以下のとおり。

①思想的・政治的指導力の強化のための取り組み:大学生に対する労働講義の実施、労働表彰候補の推薦(全国メーデー労働表彰、全国メーデー労働勲章、全国労働先駆者)

②カウンターパートとの協力:中国総商会、中国軽工業連合会、中国国家たばこ専売局との合同会議を開催し、産業の現状を踏まえた重点活動を計画・実施

③労働技能コンクールの幅広い実施:これにより労働者の知識レベルの向上と技能の向上に貢献

④新しい就業形態の労働者の権利保護の取り組み:

    • 組織化に力を入れている。フードデリバリーの大手プラットフォーム企業である「ハングリーモール」本部の配達員は4000人全員を組織化済みであり、全国のフードデリバリーの配達員全体では70%の組織率を達成している。
    • プラットフォーム宅配労働者に温かい食事を提供する活動を立ち上げ、レストランと契約して全国23都市でサービスを提供できるようになった。既に累計約100万人の労働者がその恩恵を受けた。
    • まだ例は少ないが、プラットフォーム企業と労働組合との間での協議が進み、団体契約(労働協約に近い)締結にこぎつけた例も出てきている。例えば、アマゾンは個々の配達員と直接契約をして仕事を委託しているが、この配達員を組織している労働組合とアマゾンの間で団体契約が締結されている。

⑤調査・研究・分析を基礎とした政策立案と、政府への働きかけ:具体例としては、「家事サービスの専門性強化に関する国家意見」や「飲食業の質の高い発展促進に関する指導意見」などの策定に参加したことや、「宅配労働者の権益の現状に関する報告書」や「電子商取引業界における労働者の権益の現状に関する報告書」などの作成を通じて、労働者が直面している困難や問題を明らかにして解決策を提案したことなどが挙げられる。