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トランプ政権誕生に身構える各労働組合

2024.11.21掲載

11月10日のニューヨーク・タイムズは表題記事の中で「大統領選挙においてトランプ支持に回った少数の労働組合に恩恵が見込まれる中、公務員労組には存続に関わる大きな影響が出る」として、以下のように伝えた。

 

ホテルやレストラン関係のサービス産業の組合員の多くは低賃金の移民が占めるが、トランプ提唱の国外追放を受ける恐れがある。また、従来路線を貫く労働組合の指導部には組合方針を無視してトランプ支持に走った組合員自体から来る脅威がある。

この点について、AFL-CIO政治委員会長でアメリカ地方自治体労組(AFSCME-160万人)のサンダース会長は「我々が直面する大きな問題であり、労働運動全体の問題だ」と述べる。

 

今回の選挙で労働組合がハリス陣営に注ぎ込んだ資金は4,300万ドルと言われるが、実際はそれ以上の金額が電話センターや、組合員や一般労働者への啓発活動に使われた。

トランプ勝利後も労働組合は「選挙活動の成果はあった。出口調査ではハリス支持が55%に対しトランプ支持は43%とバイデン当選時と同率だった」と主張するが、ミシガン州やウイスコンシン、ネバダ州の民主党上院議員の僅差の当選を見ると、組合員家庭の投票は異なる結果を示している。

 

特に大きな失敗は、民間部門の10%以下しか組織出来ていない民間労組が90%以上の一般労働者に影響力を行使できなかった点にあり、多くがトランプ支持に投票したことにある。トランプ選挙の広報者は「労働者はトランプを信頼して投票した」と語る。

これに対してアメリカ教員連合会労組(AFT)のワインガーテン会長は「高い教育や組合加入により自分の生活をコントロール出来ると感じた選挙民は、民主党に投票した。しかし、技術進歩のスピード、生活費の上昇、思い描いていた国とは違っている等、変化が激しすぎると感じた人々は課題を解決してくれる強い男を望むようになり、それがトランプだった」と語る。

 

ハリス敗戦の理由評価は様々だが、組合指導者の多くはハリス陣営が労働者の要望を汲み取れなかったと指摘する。ハリスを強く支持した国際塗装工労組のウィリアムズ会長は「移民労働者がもたらした米国への貢献を説明できなかった。またインフレへの対応も遅く、バイデン政権が成し遂げたインフラ整備や製造業の立て直し、半導体産業の復活についても国民への説明もない。これから出る成果はトランプの功績にされてしまう。民主党政権が労働者に如何に重要かの積極的説明も出来ずに、トランプとは違うというだけだった」と語る。

 

第1期のトランプ政権は労働関係委員会に反労働組合の委員を任命し、組織化や団体交渉権を妨害させ、労働長官も労働組合とは縁遠いものであったが、今回選挙では、組合指導者は別にして、労働組合を公式に応援する態度を示し、チップや残業代への課税廃止と言う約束も行った。更に大きな公約は、ほぼ全ての輸入品への関税強化という米国産業の保護であり、不法移民排除による雇用機会の増加、環境規制緩和による電気自動車や再生エネルギーから大型ガソリン車、石油採掘機への黄金時代への回帰である。

 

また、一般組合員からのトランプ賛成の声を受けて、有力労組がハリス候補支援を拒否したことも一因となった。チームスター労組のオブライエン会長は共和党大会に出席して、トランプ当選時の政策立案へのポストを要求した。同様の態度を示した組織は国際消防士労働組合、国際港湾労組、全米鉱山労組があり、真剣なハリス応援があれば動員できたであろう組合員票をトランプに向かわせたと言えるが、これら労組指導部はその報酬を要求する立場に立った。チームスター労組広報担当者は「共和党は選挙期間中、労働者の政党でありたいと言い続けてきたが、今やそれを示す時が来た」と語る。

 

これに対してハリス候補を親身に支援したUAWのフェイン会長は、その結果に直面することになるが「今や連邦政府はどの政党であれ候補者であれ、労働者のためのものか、億万長者のものかを示す時が来た」と語り、トランプ特有の報復に身構える姿勢を示す。

またネバダ州調理師組合もハリス支援の努力を強調していたが、その結果は2020年のバイデン当選時にトランプを22ポイント上回った組合員票が、今回はハリス48対トランプ47の1%差に縮小した。多くの移民労働者を持つ同労組はトランプの過酷な不法移民の大量強制送還とメキシコ国境の閉鎖を懸念し、労働組合潰しを恐れている。

 

また公務員労組については、新トランプ政権のために起草されたプロジェクト2025には「議会は、先ずは最初に公務員労組が必要なのかを審議すべきだ」との記述がある。トランプ次期大統領からイーロン・マスク氏と共に政府効率化省の責任者に指名され、政府機構の効率化、合理化に取り組みことになるオハイオ州の実業家ラマスワミー氏も教員労組の廃止を唱えていたが「言いたいことは公立学校教師の団体交渉権の停止だ」と説明している。また幾人かの有力者は教育省の廃止を提言しているが、トランプ自身は公務員労組についての見解は明らかにしていない。

この点についてAFTのワインガーテン会長は「労組存続の脅威があるのは間違いない。自分自身についてはユダヤ人であり、全てが心配だ」と語る。

 

また、全国労働関係委員会(NLRB)については5名の委員の早期交代が予測されるが、これにより民主党政権時代に出された多くの決定が変更される。企業が労働活動家を解雇するなどで公正選挙を妨害すると、労組結成がより困難となり、アマゾン配送運転手組合のようなケースでも組合承認と団体交渉が難しくなる。またギグワーカーの従業員としての認定も覆される。労働省人事変更による各種法令の改定が予想され、変更は大幅になりそうだ。