米国音楽界に労使交渉の波、NYフィルが3年間で30%の賃上げ
9月19日と27日のニューヨーク・タイムズは「米国最長の歴史を持つニューヨーク・フィルファーモニックはボストンやシカゴ、ロサンゼルスなどのオーケストラに比べて低給与に甘んじてきたが、今回の労使交渉で3年間に30%の基本給引き上げが合意され、業界トップの給与が保障される」と報じた。
現行協約が期限切れとなる9月20日には組合員の同意が得られる見通しだが、楽団100名の基本給は年間205,000ドルに引き上げられる。また協約改定には採用方法の公正化と透明性の実現があり、人種差別を避けるために最終オーディションでは暗幕を使った演奏が含められた。米国の楽団には、黒人とラテン系演奏家が極端に少ないとの批判がある。その他、オーディション採用時における特定個人の影響排除のための無記名投票などが盛り込まれた。
NYフィルは去る7月のセクハラ疑惑による楽団CEO辞職のあと、常任指揮者も不在の状態が続いているが、2026年には人気のグスタボ・ドゥダメル指揮者の就任が予定されている。しかし経営状態は、コロナ災禍から大きく立ち直ったとは言え依然として厳しく、2億3,700万ドルの寄付を頼りに、9,000万ドルの年間予算のなか、800万ドルの資金不足に直面している。
その中での賃上げだが、”ドゥダメル夢想基金キャンペーン”展開による寄付金集めなどを通じて、今シーズン15%、25年―26年年度に7.5%、26-27年度に7.5%賃上げの予定である。
現行基本給は153,504ドルだが、ボストン、シカゴ、ロサンゼルスの新協約では数年以内に20万ドル以上が約束されている。
労働協約を締結したのはアメリカ音楽家連合会ローカル802だが、カトラ―委員長は「この協約でトップクラスの音楽家が応募してくる。NYフィル楽団員の持つ世界的才能を認識してくれたパートナーに感謝する」と述べた。
他方、ワシントンのナショナル・シンフォニー交響楽団は9月27日、1978年以来となるストライキを午前11時から午後2時半までの間展開した。楽団員は以前提案の4年間で13%賃上げは拒否したが、今回の今年度4%、25-26年シーズン4%賃上げには同意した。
労働組合はアメリカ音楽家連合会ローカル161(地域・職場毎の支部)、労使交渉は5月から開始され、賃上げや医療費などが協議されたが、デッドロックに陥った。現行基本給は159,000ドル、4年協約では180,593ドルが予定されたが、組合員は25%を要求した。新協約では2026年の基本給が171,879ドルになるが、医療費補助の増額や育児休暇も改善された。
労働組合はコロナ災害時に行った18か月間の35%賃下げの保障も要求したが、その影響から完全に脱却できずに今年度1,200万ドルの赤字に直面する楽団側のケネディー・センターはこれを拒否した。同楽団の寄付金総額は5,200万ドルである。
9月19日にはまた、サンフランシスコ交響楽団の合唱団がストライキに入り、ベルディ鎮魂曲の演奏が中止されたが、150人の音楽家たちがピケに参加した。同楽団には3億1,500万ドルの多額の寄付金があるが財政的には困難な状態にあるとされ、合唱団予算の80%カットが提案されたと言われる。合唱団を代表するアメリカ音楽芸術家ギルド組合は「楽団経営者は合唱団員による切符販売など経営改善に果たす役割を認識せずに経費削減を迫っている」と非難した。