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ベラルーシ:2020年抗議運動の徹底的弾圧とその後

2024.10.15掲載

2020年のベラルーシ大統領選挙をきっかけにルカシェンコ大統領に対する大規模な抗議運動が起こった。ITUCに加盟するBKDP(ベラルーシ民主労組会議)も運動を指導する調整委員会に加わり、デモやストを果敢に展開したことは記憶に新しい。BKDPは1993年結成され、組合の規模は政治情勢に応じて増減が激しく不明であるが、2008年9,000人というデータがある。ベラルーシの大多数の労働者は体制側の組合(FPB)に入っている。

私は今年9月12日から20日までベラルーシを訪れたが、その約1週間前に日本人が当地でスパイとして拘束され、この旅行は相当危険だということを意識せざるを得なかった。キャンセルしようかとも考えたが、ベラルーシの友人たちは「是非来い」と言い、年休を取って旅行中ずっと付き添おうという友人まで現れた。ベラルーシの人々の日本に対する感情が大変良いことの証であろう。その友人とずっと一緒に旅行し、無事日本に帰国したが、そこで様々な人から聞いた話は私の想像を絶していた。

まずBKDPはベラルーシ国内では完全に弾圧され、存在を全く感じられないことだ。最高裁は2022年7月18日にBKDPとその加盟組合を「過激派」と規定し、解散を命令した。BKDPは欧州に移り、活動を続けているが、ベラルーシ国内では全く禁句となっている。2020年の抗議運動参加者は今なお一人ひとり呼び出され、弾圧されており、ベラルーシ国内の活動家は息を潜めている。多くの活動家は国外に逃れたが、いま進められようとしている政策は、国外の活動家がパスポートを更新する時にベラルーシに戻らなければならないというもので、これは活動家たちの間で驚愕を招いている。帰ったら最後、何をされるか分からないからだ。こうした国内の締め付けに対し、BKDPの闘いは国外で、GUFと連携し、約60人にのぼる投獄中の労働組合幹部の釈放を求める闘いと、ILOの場でベラルーシを非難する決議を通すことを中心軸と位置付けているようだ。これは一定程度成功しており、ILO総会では、ベラルーシが議題として取り上げられており、ベラルーシを指弾する文書も出ている。さらに今年7月24日国連人権委員会は、2018年のREP(BKDP加盟ラジオ電子労組)弾圧事件でベラルーシ政府の取り扱いを非難し、逮捕されている活動家の釈放を要請した。しかしこうした成果とベラルーシ国内で行われるべき運動の間には大きな乖離がある。

ベラルーシは人口が約1,000万人だが、第2次産業の位置づけが大きいことが特徴である。だが驚くのは、ほとんど全ての労働者が1年から3年の契約労働に従事していることだ。1999年に発出された労使関係の規律の強化に関する大統領令29号が問題である。

全ての労働者が契約の年月を勤め終えると契約を更新してもらえるのかどうか使用者と話し合わねばならない。これは使用者の力を必要以上に大きくする。労働法が多様な発展を見せている旧ソ連圏共和国でも「ほとんど全ての労働者が1年から3年の契約労働に従事している」国は他には無い。ルカシェンコ大統領のわがままが通ってこのような大統領が出来たとしか言いようがない。1999年この大統領令が発出された当初はあまり行きわたらなかったようだが、2004年大統領がこの徹底を強く主張し、5歳以下の子供がいる女性と退職前の労働者を除いてすべての労働者に適用されるようになった。どんな悪法も20年もその下で暮らしていると慣れてくるものだ。ベラルーシにいる間、この問題について様々な人々に質問したが、誰もこのシステムがおかしいとは言わなかった。しかし今2020年の抗議運動を根絶やしにすることを意図している政府にとって、このシステムは有効に機能している。

人々の不満は、専ら給料が安いことであった。ベラルーシの給料は、基本給部分とプレミアからなる。両者の比率は80:20位という。両方合わせて平均賃金はミンスクで4万5,000円から7万5,000円、地方都市の例えばビテブスクでは2万2,500円から3万円程度という。ミンスクは美しい町だったが、ビテブスクは衰えが目立つ都市だった。2020年の抗議運動では、歴史的な意味を持つ赤白の旗が多用されたが、今町の至る所に翻っているのはベラルーシの国旗である。同時に、ベラルーシ語にも力が入れられ、公共の建物はロシア語とベラルーシ語が両方書かれている。しかし通常の場面で話されるのはロシア語である。「ベラルーシには集団農場はあるが、オリガルヒ(新興財閥)はいない。ただルカシェンコだけがオリガルヒだ」と言われる。彼の圧倒的力が感じられる言葉である。2020年の抗議行動を徹底的に抑え込んだルカシェンコ大統領が国民に与えているのは愛国主義であり、秩序の賛美である。朝グロドノの町で、ゴミを拾っている人々を見た。彼らの努力もあり町はゴミ一つない。2022年から始まったウクライナ戦争は、ベラルーシの独自性を際立たせ、締め付けをますます厳しくしている。KGBを中心とする権威主義の支配は、一目瞭然である。しかしいつの日か、ベラルーシの人々が再び沈黙を破るのは間違いない。

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