2024年 バングラデシュの労働事情(バングラデシュ・ベトナムチーム)
以下の情報は招へいプログラム「バングラデシュ・ベトナムチーム」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。
参加者情報
バングラデシュ・サンジュクタ組合連盟(BSSF)
バングラデシュ自由労働組合連盟(BMSF)
バングラデシュ民族主義労働組合連合 (BJSD)
労働組合連盟(JSL)
バングラデシュ労働連盟(BLF)
バングラデシュ自由労働組合会議(BFTUC)
基本情報 (外務省令和6年6月11日更新データより)
- 人口:1億7,119万人(2022年)
- 宗教:イスラム教徒91%、その他(ヒンズー教徒、仏教徒、キリスト教徒)9%
- 政体:共和制
- 主要産業:衣料品・縫製品産業、農業
- GDP:3,055億ドル(実質、2022年)
- 経済成長率:7.1%(2022年)
1.最近の課題や問題点
- バングラデシュの急速な経済発展は主に織物・衣服産業が担い、外貨獲得の主力でもある(輸出額の7割超)。とりわけその中心はRMG(既製服)である。最近、このRMG業界の最低賃金が発表されたが、その額は月給12,500tkで100米ドルに過ぎず、これは生活賃金を保証していないため、各地で抗議活動が起き死傷者が出ている。
- 野党が主催するストライキに参加していたトラックドライバーの組合員が、鎮圧に動いた警察との衝突により死亡。適正な捜査を要求して「人間の鎖」で抗議した。
- 政府はサービス業におけるストライキ権を封じるための法案「必須サービス法」を提出。これはあらゆるサービス業を必要不可欠なものと捉え、そこで働く労働者のストライキ権を認めないとするものである。いったん可決されたものの、労働組合の反発で現在再審議中である。
以下、規模別の主な課題や問題点である。
- 企業レベル 不当解雇、不当労働行為、賃金や残業代の未払い
- 産業レベル 最低賃金の不統一、自動化やAIの導入による失業
- 国家レベル 労働法の改正、全国統一の最低賃金の制定、政府と労働組合の定期協議会の設置
2.労使紛争
(1)紛争事例
ガジプールの縫製で、給与未払のまま労働者700人が突然解雇された。
①労使双方の主張
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- 労働者側
給与未払いのままの解雇は、労働者の権利の侵害と雇用契約の不履行にあたる。経営者は労働組合の抗議を無視し続けた。労働者の権利に対する適正な対応と尊重が欠如しており、未払い賃金の支払いと、解雇された労働者の職場復帰を求める。
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- 経営者側
工場閉鎖が決定したため、労働者を解雇するのは当然であり、賃金の支払いには応じない。
②労使紛争
労使間での話合いでは解決に至らなかったため、労働者側は規制当局に介入を依頼した。しかし、規制当局が十分に機能せず、労働者側は労働大臣とバングラデシュ縫製輸出業協会に協力を求めた。その結果、経営者側が未払い賃金の支払いを確約する協定書に署名した。しかしながら、経営者側がこれを履行しなかったため 、労働者側は直接フランスにある本社に働きかけ国際的な問題にエスカレートさせた。
③労使紛争の結果
縫製工場経営者は、延滞していた賃金と勤務手当を支払う事に合意。今後は、支払計画の的確な実施とプロセスの透明性確保が重要となる。
3.労働法制について
(1)労働法の現状
バングラデシュ労働法は、2006年に制定され2013年に一部改正された。
これは、労働者の権利を確保して雇用条件を規制し、国内産業の成長と調和をはかることを目的としており、最低賃金、労働時間、時間外手当、安全基準、児童労働の禁止と制限、職場安全委員会の設置などを幅広く規定している。しかしながら、現状は、国内の90%を占める非正規労働者はその対象とされていない。
(2)労働法改正の動向
政府は労働法の問題点を指摘し、国際労働基準に沿った法律への改正を指示した。その結果、非正規労働者への労働法の適用 、ジェンダー不平等の改善などが改正案に盛り込まれる予定。その前に国民的議論や三者間対話(政労使)などの実施が重要である。
(3)現状に対する問題意識とナショナルセンターの取り組み
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- 問題意識としては、労働問題について政府は常に使用者側の味方になっている。
- 紛争解決のために行動する危機管理委員会(政府、使用者、労働者で構成)も常に使用者側の味方になっているため、事実上機能していない 。
- 労働組合結成に関して、現行法は3,000人未満の従業員の企業では全体の20%の署名が必要となっていることから、ナショナルセンターはこの条件の改正キャンペーンを展開している。
4.社会保障制度について
(1)制度の現状
バングラデシュには、年金、医療、子育て、社会的ケアなど様々な社会保障制度がある。公的部門と民間部門では社会保障制度は異なっており、公的部門の方が民間部門より保障が手厚い。年金については、民間部門の企業では従業員積立金(EPF)、公的部門には政府年金制度を通じた老齢年金がある。医療については、安価な医療サービス提供を目的としたいくつかのプログラムや、妊産婦や伝染病などを対象としたプログラムもある。また、子育て支援については、栄養や教育に重点を置いたプログラムがある。
課題としては、資金不足、都市部と農村部とのサービス提供格差、非正規労働者に対する社会保障制度の未確立などが挙げられる。
(2)社会保障制度改正の動向
政府による社会保障制度改正の動きはない。労働組合としては現行制度の充実に加え、非正規労働者への社会保障適用を実現させるべく、運動を続ける。