活動報告 各国の労働事情報告

2024年 ウクライナの労働事情(ユーラシアチーム(ロシア語部))

以下の情報は招へいプログラム「ユーラシアチーム(ロシア語部)」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

1.はじめに

2022年2月24日にロシアはウクライナに対して戦争を起こした。その結果、一般市民を含む労働者の多くが犠牲になり、現在も、ウクライナでは毎日のようにロシアからミサイルやドローンによる攻撃が繰り返されている。

また、ここ数か月はエネルギー施設(発電所)への攻撃も強くなっている。国際社会に対して、人道的・経済的な支援の継続と軍事援助、雇用の支援などを求めており、ロシアに対しての制裁を強化することや捕虜の解放なども要請している。

戦争中においても国内では生産活動を行っており、企業内組合はウクライナ政府に対して、労働者の安全を守ること、雇用の場を守ること、人権を守ること、社会的補償を維持することなどを訴えている。一部の工場では働きながら、攻めてくるロシア軍に対し武器を片手に防衛している状況にある。

以下、本レポートは今回の参加者「ウクライナ自由労働組合総連盟(以下、KVPU)」からの報告要旨をまとめたものである。

2.ウクライナの労働事情

(1)社会保障制度

  • 現状の問題認識

戦争により、社会保障制度への課題が増加している。第一に、ロシアによる都市や産業・エネルギー施設の破壊、領土の占領により予算への収入が減少した。第二に、社会保障を必要とする人々の数が増加した。現在、ウクライナには500万人近くが移動を余儀なくされている。そのうち360万人は2022年2月の侵攻後に避難し、居場所を変更しなくてはならない状況下にある。さらに、戦争の影響による子どもを含む障がい者の数が増加している。

  • 社会保障制度の現状

ウクライナ憲法は、民主的、法的、社会的であると宣言し、国民の社会保障の権利を認めている。ウクライナの社会保障制度の法的枠組みは、立法行為と規制および規範的法律行為によって支えられている。これらの法律は、社会保障の基本原則を確立するだけでなく、障がい者、孤児、大家族、戦争の影響を受けた子供、退役軍人、再定住労働退役軍人などの特定のグループが、社会の経済的、政治的、社会的側面に参加する平等な機会を持つことを保証するものである。

ウクライナの社会保障制度は、国民の最低生活水準の確保、法律の枠内で物質的および道徳的ニーズを満たすための収入の提供、工業生産の悪影響からの労働者の保護、市民的および政治的権利と自由の保護など、さまざまな分野に対応している。

ウクライナの現在の年金と社会サービスは、国家年金保険に関するウクライナ法で規定されている年金基金によって賄われている。しかし、ロシアの侵略などの経済的課題によって財政的社会支援と年金の水準は現在のニーズを満たすのに不十分である。この状況は、戦争という困難な状況の中で、ウクライナ国民に十分な経済的保障を確保するために、社会保障措置の強化と改革が急務であることを強調している。

  • 社会保障制度の見直しの動向

KVPUは、3レベルあるウクライナの年金のうち、第2レベルである国家年金保険の積立システムのリスクを指摘している。戦争の状況において、国家予算の半分以上が軍事費に使われ、社会サービスなどの歳出は海外の支援が頼みの綱だが、米欧の資金提供が滞っているため現在、年金の未払いが多く発生している

 

(2)労働法制

ウクライナの労働関係法は、労働者の権利を保護することを目的とした包括的な枠組みにより規定されている。主要な法律は、ウクライナ憲法、ウクライナ労働法典、批准されたILO条約をはじめ同一労働同一賃金、労働安全衛生、差別からの保護などの基本的権利が規定される。

ウクライナ労働法典は、労働時間、休憩時間、年次休暇の権利、残業手当など、雇用のさまざまな側面を規制している。また、従業員の雇用と解雇の手順、団体交渉と労働組合活動についても規定しており、労働市場と経済の発展により、数回にわたって改正されている。

KVPU は労働者の負担を認識し、戦争による混乱にもかかわらず、雇用保護と公正な賃金を確保するために政府および雇用主と交渉している。ロシアのミサイル攻撃を考慮すると、労働安全衛生の問題は特に重要である。

KVPUは、労働改革や戦後の復興と回復の取り組みに関する議論において労働者の権利を保護し、発言権を確保する政策を求めて積極的な活動を行っている。戦争中、攻撃や停電による課題を克服しながら、国内避難民に法的支援を提供し続けている。