カナダの鉄道ストライキに政府の仲裁命令
8月22日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は、今日発生したカナダ2大鉄道(従業員10,000名)のロックアウトと連邦政府による仲裁裁定命令について、次のように報じた。
カナダの貨物輸送を担う2大鉄道のロックアウトだが、連邦政府は、17時間後に、その中止と労働委員会による仲裁を命令した。数か月間の労使交渉が決裂した結果のロックアウトの影響は、当面はカナダ国内に限られるが、長期化は両鉄道が運行する米国、メキシコの供給網と経済に深刻な影響をもたらす可能性がある。
労働組合チームスターズ・カナダ鉄道会議(TCRC)と、鉄道会社の、カナディアン・ナショナル・レールウェイ(CN)、カナディアン・パシフィック・カンサスシティ(CPKC)の協約は昨年末に期限切れとなっている。両社は今回の交渉期限切れ前に、ストライキやロックアウトを回避するための仲裁裁定を連邦政府に求めたが、マッキノン労働相は当初「政府介入は控えて、労使交渉に委ねる」とした。しかし、交渉行き詰まりを認めて仲裁に乗り出した。
輸出依存のカナダ経済にとって、ロックダウンの長期化は深刻な影響をもたらす。鉄道協会の推定ではカナダ輸出の50%は鉄道に依存しており、2022年の輸送貨物の総額はC$3,800億(US$2,790億)に上る。カナダから米国への鉄道輸送では、毎日6,500台のコンテナが運ばれるが、貨物の大半は、アジアと欧州地域からの船舶でカナダに荷揚げされるもので、影響は世界に及ぶ。カナダの主要輸出品では、肥料のポタッシュという種類で世界最大だが、運行停止の長期化は農業全般、鉱物、森林、石油産業などに及ぶ。穀物業者協会の責任者は「ロックアウトは農家の出荷時期に起きた。農家は出荷を止め、支払いを待つ最悪の状態だ」と述べる。
カナダ国内の船舶利用は、五大湖やローレンス河地域に限られており、トラック輸送への転換は容易でない。カナダ製自動車についても部品の段階ではトラック輸送だが、米国3社やホンダやトヨタなど完成車の米国への輸送は鉄道による。
昨年、米国のカンザスシティ・南部会社を買収したCPKCは、2015年のカナディアン・パシフィック当時に3,000名の乗務員による2日間ストライキの後、当時の保守党政府による職場復帰命令直前に仲裁裁定に合意している。CN鉄道については、2019年に8日間のストライキの後交渉成立に至っている。また最近まで、両社の労働協約は相互に年を違えていたが、法律改定によりCNは協定期限を1年延長して同時期とし、昨年末の期限切れ前の9月から交渉が開始されていた。
交渉の焦点は「乗務スケジュール」「労働時間」「疲労管理問題」だ。会社側は、効率を高めるために、正確なスケジュール運行システムを導入。細かな時間管理や設備・乗務員の削減とともに、多数車列運航などで利益を上げてきた。これに対して労組側は「労働強化だ。乗務員は寝る間もなく、事故の危険が増した」として会社側を非難。会社側は「安全性と賃金労働条件の改善を提案したが、合意できず残念だ」と応答している。
現在の連邦政府はトルドー首相率いる自由党だが、下院議会では、労働組合が支援する新民主党(NDP)の支持を受けている。そのNDPは強制裁定による職場復帰に反対して「首相は何時も貪欲な企業にへつらっている」と非難した。
他方、乗客輸送についてはカナダ横断の国有VIAレールがあり、CN線路を利用しているが影響はなく、CN配車関係者も通常勤務にある。モントリオール地域での乗客輸送を担うExoはCPKC所有の3路線での運行を停止、毎日24,000名の運行に影響が出る。
トロント地域のメトロリンクスはCN路線を利用するが、1路線(毎日6,000人乗客)を除いて通常運行を続けている。BC州では、バンクーバーのCPKC路線で運行するトランス・リンクが1路線で運行停止、週末の3,000名乗客に影響が出る。