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メキシコの裁判官が司法制度改革に反対してストライキ

2024.09.19掲載

8月19日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は「メキシコの連邦判事1,400名が、判事選任を「任命制」から「選挙制」に変更するオブラドール大統領の司法改革に反対、21日ストライキに入る。これは19日から始まった裁判所職員による司法改革反対無期限ストに合流するものとなる」と報じた。

オブラドール大統領は、かねてから司法制度の抜本改革を試みており、最高裁判事を含めた判事選任を、資格や特別教育による任命制でなく選挙制に変えようとしている。目的は汚職と特権の追放だという。これに対して、法律未経験者が判事に選ばれるとの批判があり、メキシコ判事協会のフエンテス会長は「大統領は正気を失った。法案が通れば一人の絶対権力による政権を生み出す」と非難する。

オブラドール大統領は、任期満了前の9月までの法案成立を目指しているが、6月の大統領選挙では、シェインバウム前メキシコ市長を数十年来最高の得票率で新大統領に当選させた。現大統領は、在任中に最低賃金の倍増、国民年金の普及、軍備増強、化石燃料優遇などで多数の国民の支持を集め、Morena党による連立与党は、選挙で圧倒的多数を占めた。現大統領は、議員定数の削減や行政府の縮小を唱えているが、反対派は民主主義を後退させたと批判する。

判事の選挙制が実現すれば、11名の最高裁判事、数千名の連邦判事や各州判事が退任を迫られる。メキシコ中央部を拠点とする連邦司法労働組合のフローレス事務局長は「判事や治安判事になるのに10年~20年の努力を重ねてきたが、そうした研鑽も無駄になる」と嘆く。裁判所職員や関連労働者がストライキに入った。昨年には、数百名の司法労働者による予算削減反対のストライキもあった。フローレス事務局長は、19日からのストライキには新たに55,000人が合流し、数百ヶ所の裁判所が閉鎖されるとしているが、生命の危険に関わる裁判は例外だと語る。

他方、多くの司法関係者が、裁判の遅れや無能な調査で多くの犯罪が放置される法制度の欠陥を認めているが、オブラドール改革での改善は考えられないとして、法律制度の政治化は事態を悪化させると批判する。メキシコ全国弁護士協会の会長も「司法制度を、政治的に支配しようとする時代逆行の行為だ」と語る。

他方、メキシコ初の女性となるシェインバウム次期大統領は「国には真の司法制度が必要だ。判事や治安判事、大臣などが選挙で選ばれるならば、司法制度に自治が生まれる。何故か? それは、判事は大統領と同じように国民が選ぶからだ」と述べたが、国内外の専門家は「この改革は司法の独立を損ない、国際基準に違反し、法規則を傷つける恐れがある」と警告する。