活動報告 メールマガジン

インドネシア高速鉄道の現状とSPKA(鉄道労組)

2024.09.02掲載

近年インドネシアの成長が著しい。この成長は市民にも実際の「便利さ」として感じられており、政府への信頼感となっている。少なくともジャカルタではそうだ。例えば、今から25年前バンドンからジャカルタまで行くのに車で9時間かかったことがあった。今では、高速道路があり3時間で着く。鉄道も同じバンドンからジャカルタまで3~4時間だが、ダイヤは不安定だ。ところが今、鉄道でも、「高速鉄道Whoosh」を使えば、バンドンからジャカルタまでが40分である。ジャカルタ市内の鉄道網も充実してきており、北の繁華街コタから南のブロックMまで鉄道で行ける。

この発展の中核を担う鉄道労働者は変化をどのように受け止め、今後どのように発展させていこうとしているのだろうか。

 

今年8月バンドンでエディ・スリャント鉄道労組委員長(以下、エディ)と会う機会があり、話を聞いた。

Q インドネシア鉄道の発展は著しいと思います。こうした進化に対し、組合はどう対応したのでしょうか。

エディ)インドネシアの鉄道が始まったのは1867年、鉄道労組が結成されたのは1908年です。鉄道労組は古い歴史を持っています。今、経営形態としては、運輸省の傘下にあり、インフラは国有、運営は国有鉄道(KAI)と幾つかの子会社(KAIコミューター、KAIプロパティなど)が行っています。こうした形態になったのは2009年(正式には2010年)です。当時のCEOジョナン氏は優れた人物でKAIを近代化する上で大きな役割を果たしました。彼は後に運輸大臣になります。私と彼は議論を重ね、いかにKAIを近代化・改革するかを話し合いました。このプロセスの中では、労働者のマインドセットを変えることが重要です。私達は一歩一歩これを実現してきました。

最も重要なこととして、賃金の上昇を挙げることが出来ます。このCEOの下、給与の上昇は5倍となりました。以前は普通の公務員の給料だったから安かったです。

この改革の成果は大きかったと思います。組合も組織を改編し、FSPPIという産別組織の下に5単組、それぞれの子会社ごとに組織を作る形にしました。組合員数は6万人となります。

 

Q 組合として最大課題は何ですか。

エディ)勿論組織化です。中枢を担う鉄道単組SPKAは強力で、組合員数2万3,000人、組織率は88%となります。しかし小売りなどを扱うKAIサービス単組ですが、メンバー数は2,600人、労働者は大勢います。ここは大きなポテンシャルがあります。KAIで働く人は、勿論正規雇用が基本ですが、非正規もいます。例えば、サービス業に従事する労働者の多くが非正規です。

組織課題以外に、KAIを健全に発展させるという課題があります。経営側と私達は役割を分担しており、運輸省への働きかけは主に組合が行います。組合の政治的影響力をさらに高めることがここでは重要です。

 

Q これまで民営化といったテーマは出て来たことがありますか? 

エディ)ありません。鉄道は国営ということが憲法に書いてあります。民営化というテーマは出て来ようがありません。鉄道というエコ・システムをどう発展させるかは、国民的課題なのです。

 

Q 高速鉄道Whooshですが、この会社の従業員も組合員なのですか。

エディ)そうです。SPKAの組合員です。高速鉄道Whooshは将来性があります。今はジャカルタとバンドンを結びますが、将来的にはスラバヤまで伸ばし、現在10時間かかっているところを3.5時間にしようという野心的な計画があります。Whooshは「時間節約」、「オプショナルな運営」、「素晴らしいシステム」というインドネシア語を頭文字化したものですが、それ自体が、ビジネス・プランを表しています。料金も一般車両だと15万ルピア(約1,400円)、Whooshは30万ルピア(約2,800円)です。

しかし、問題もあります。建設から運営まで、資金面は60%を中国からのローン、40%をインドネシア中国高速鉄道会社(PT KCIC)で賄っているのですが、中国側に払う利子が問題です。1%でも利子が下がれば、国に対する大きな貢献となります。我々も、中国の鉄道組合ルートを使って、中国総工会と話が出来ないか、依頼されています。ローンの利子を低くしてもらうことは国家的課題です。

 


 

私もWhooshに乗ってみたが、350kmという走行速度が前面に表示されるなど、このプロジェクトにかけるインドネシアの誇りを感じた。乗り心地も全く問題なく、車窓の景色を楽しんだが、乗車率は80%程度だった。当初の見込みより相当低いと言う。これはバンドンからジャカルタ間を当初4駅に停車する予定だったが、土地買収が思ったより進まず、途中停車駅が無くなったことによるのだろう。例えば、工業地帯があるカラワンに停車すれば、もう少し利用者が増えよう。ジャカルタまで行って、そこからカラワンに行くのでは、時間がかかりすぎ、従来の在来線を利用した方が良いとなるからだ。ジャカルタの出発駅、バンドンの出発駅も市内からは相当遠い場所にある。これらの要素が相乗し、乗客数の減少を招いているわけだ。残念ながらWhoosh計画時では、日本の提案は採用されなかったが、今後事態がどう動くのか、チャンスはまだあるのかなど、インドネシアに注視する必要は大いにあると感じた。

<I>