「お客様は神様」の日本でカスハラへの対策強化
7月26日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は「顧客を神様として対応する日本のサービスだが、悪質化する客からのハラスメントに対して対策が強化されつつある」として、次のように報じた。
カスハラの事例としては「チェックイン開始が午後3時の旅館に30分前に到着した客が、用意が出来るまで車の中で待つよう言われた事に対して大声で怒鳴り従業員に土下座を強要、謝罪させた」、「ラーメン店で、次々にトッピングを要求する客への対応を渋った店主に対し、ラーメン皿に500本の爪楊枝を投げ込み、その後、同一チェーンの他店に嫌がらせ電話を繰り返した」、「バスの座席指定を不満とする乗客が運転手を怒鳴り、運行を25分遅らせた」、「タクシー運転手が行き先を繰り返し尋ねた事に腹を立て、しつこく謝罪を要求して運転手を泣かせた」などが紹介された。
カスハラについての厚労省と大手労働組合が実施した調査では、10人に1~5人がハラスメント経験があると答えており、幾つかの会社ではカスハラお断りの看板を掲げ、従業員へも対応指針を策定している。その中にはSNS被害を防ぐため従業員の名札廃止がある。また、コールセンターにおける顧客の怒りを和らげるための音声変換装置の導入の検討がされている。対策の必要性には人手不足が深刻化する中で、環境の悪い職場には労働者が定着しない状況がある。
しかし、伝統的にも日本では、従業員が謝る場面が多く、電車の遅れのみならず数秒速く発車する際にも車掌からの謝罪がある。宗教大学で観光・ホテル事業を教えるアルトシュラー教授は「日本人は細かいことに気を遣う。観光業やホテル業では望ましいことだが、時には柔軟性も必要だ」と指摘する。またカスハラ研究者の東京大学・桐生教授は「ハラスメントする人は厳しい仕事環境の中で自分自身が上司や顧客から酷い扱いを受けている可能性があり、その鬱憤を誰かにぶつけたい思いがある」と述べる。
事実、JR東日本の駅員は「深夜に酔った客から酷い言葉をぶつけられるが、会社などで受けたなんらかの事に対する怒りを我々にぶつけなければ、その怒りを家まで持ち帰ることになる。」「最近まで、どのような苦情も駅員の責任だ」と指導されてきたと言う。JR東日本は、現在カスハラ対応へのガイドラインを策定中だという。
厚労省は、2022年にカスハラマニュアルを作成し、SNSやマスコミにばらすなどの脅迫、店内での大声、過度なサービスの要求などへの対応法を記載している。例として、ホテルに歯ブラシ10本を要求するなどがある。昨年末には1948年以来の法改正で、ホテル従業員にハラスメントをする顧客の利用を拒否できることになった。
UAゼンセン(繊維・化学・食品・一般サービス)も、雇用主が従業員をカスハラから保護する法制を要求しているが、その内容はすでに立法化されている、セクハラ防止やパワハラ防止と同様のものという。