活動報告 メールマガジン

マレーシアにおける商業部門の組織化と労働運動の将来

2024.08.01掲載

サービス産業労働者の労働組合への組織化の遅れが叫ばれて久しい。
商業部門はこの中でも特に組織化の困難な部門であろう。
マレーシアも同様だが、この10年間で42の企業で新たに商業労組を結成した人物がいる。シャフィーUNI-MLC(UNI Malaysia Labour Centre)会長である。UNI-MLCは、当初は普通の意味のUNIマレーシア加盟組合協議会であったが、今この意味は全く異なる。UNI加盟組合であろうとなかろうと、いかなる組合もUNI-MLCに加盟できる。UNI-MLCは、MTUCと同様のナショナルセンターとして登録されているからだ。現在、UNI-MLCに加盟している組織は102、組合員数は45万人となる。産別労組だろうと、企業別組合であろうと、あらゆる部門の労働者を組織してはUNI-MLCに加入させている。UNIグローバルユニオンからのプロジェクト資金は、活動の大きな支えであるが、それが全てではない。組織化は難しい仕事である。資金ばかりではなく、組織化にかける情熱、スピリット無しに出来る仕事ではない。

 

今年7月彼から話を聞いた。

日本人として、マレーシアの商業部門と聞くと、伊勢丹やイオンを思い出しますが、組織化はどうなっているのですか。

シャフィー)伊勢丹もイオンも組織化はもう達成し、両企業と組合の間では労働協約が結ばれています。私は、昨年12月イオングループ・グローバルネットワークコミッティが開催された折り、日本を訪れました。そこで、私のこれまでの組織化の努力を讃える盾を頂き、大いに励みになりました。

ドン・キホーテやララパークなど、今後も日系の商業企業の組織化に力を入れたいのですが、問題は資金です。基本的に組織化は、1つの企業をターゲットに選んだら、調査を行い、オルガナイザーを雇用し、彼・彼女の動きと連動して、私が適切な時期に企業との話し合いに入るというプロセスをたどりますが、オルガナイザーが絶対に必要です。これまでロータス、テスコ、イケア組織化のための資金は、UNIグローバルユニオンの組織化プロジェクト基金から出ていましたが、来年からは出ません。オルガナイザーを雇用する資金をどう確保するかが、重要です。

しかし私は悲観していません。

私は、テレコム労組委員長を退いてから、マレーシアにおけるUNI結成に関わり、それからずっとUNI-MLCの活動を率いてきました。私は76歳になりますが、これまで私が獲得してきた組織化の経験と技術、スピリットを全て注ぎ込んでいます。組合が無い企業に組合を結成することは私の生きがいです。

 

あなたが組織化してきた企業の中に家具製造販売のイケアがあります。イケアはスウェーデンの企業ですが、組織化が難しいことで有名です。イケア組織化の意味はどこにありますか。

シャフィー)私の信念は、心を込めて経営者と話せば、必ずや理解されるということです。力で押して行ってもダメです。これを私は「スマートパートナーシップ」と名付けています。

イケアも同様で、2017年からイケア・マレーシア労組の結成に取り組み、2023年5月に、クアラルンプールのイケア本社で団体協約締結にまで至りました。この協約は2026年8月まで有効です。今、イケアの職場では団体協約の下に生き生きと労働者が働いています。この経験を学び、少しずつグローバルなイケアも姿勢を変えていくでしょう。

 

あなたはダトゥーという称号をお持ちですが、これは組織化にとっても意味が大きいですか。

シャフィー)ダトゥーは言わば英国のサーと同じで、国王から与えられる敬称です。
私の労働組合組織化の努力、スマートパートナーシップの考え方を国王が認めたということで、大変名誉なことです。勿論、ダトゥーという称号を使って、企業に組合結成を迫るとかそんな野暮なことは致しません。

私の名前は、ダトゥー・モハメッド・シャフィー・BPママルと言いますが、BPはどういう意味かと聞かれます。これは、「準備せよ(Be Prepared)」です。常に次を見て、準備をして行くことが重要です。

 

UNI-MLCとMTUC

ナショナルセンターとして登録されている団体がマレーシアに二つある。これがMTUCとUNI-MLCである。UNI-MLCがMTUCと同様のステータスを持つことはおかしいのではないかという声を良く聞くが、彼らの間では矛盾は無いようだ。

 

エフェンディ―MTUC会長と会ったのでこの辺りの事情を聞いてみた。

エフェンディ―会長は元郵便内勤労組委員長で、2018年にはMTUCの財政担当になり、2020年に副会長、そして2022年に会長となった。まだ50歳の若さだ。

彼は語る。「シャフィーの組織化の才能は本当に優れている。私も彼から多くを学んだが、まだまだ多くを学びたい。UNI-MLCは組織化で力を発揮してもらうことは、MTUCにとって何の問題もない。マレーシアに、労働者は1,600万人いるが、組織労働者は6%に満たない。この中で団体協約を持つ組合はさらに少ない。組織労働者の数を増やすことは、全ての労働組合に関わる者の責務だ。その意味で、シャフィーにはもっと活躍してもらいたい。」エフェンディ―MTUC会長もシャフィーの組織化の実力を認めているということであろう。

 

MTUCが、この間内紛により力を落しているのに比べ、UNI-MLCは伸びている。不安の声も聞こえるが、組織化と言う大義と実績を前に、UNI-MLCが成長する傾向はさらに強まるかに見える。

(I)