フランス極右の温床となる産業の衰退
7月5日のニューヨーク・タイムズ(NYT)は「」として、次のように報じている。
フランス北部のパード・カレー地方では炭鉱が閉山、自動車エンジン工場の閉鎖もせまる状況だ。他方ではマクロン大統領の産業再生の呼びかけに応えて、自動車バッテリー工場(ACC社)が最近操業を開始し、2026年までには更に3工場が開業予定にある。
しかし、先週の欧州議会選挙では極右の国民連合が大勝を果たし、決選投票を待つ。
住民は「昔はたくさんの仕事があったが、今は少ない。皆が怒っている。生活費全てが値上がり。移民も増えている。国民連合が問題解決を公約しており、任せてみたい」と語る。
ベルギーとダンケルクに繋がるこの地域は第2次大戦以降、幾多の産業再編成を経験してきたが、労働組合が強かった当時は共産党が優勢、2000年代初頭には中道政治、2012年の大統領選挙では社会党が勝利した。それ以降はグローバリゼーションの影響を受けて、タイヤメーカーや鉄鋼、塗装工場の海外移転、自動車のルノーやプジョーもイタリアのFIATとの合弁会社のステランティスに統合され、事業を海外に移転している。
その時に頭角を現したのが当時の国民前線、極右のマリーヌ・ルペンだが、当初の明らかな人種差別や反ユダヤ主義やホロコースト否定の主張を和らげて、労働者の権利や物価問題を取り上げ、北部地方からフランス全土への勢力増強を図っている。
マクロン大統領が選出された2017年までのこの地方の製造業の失業者数は40,000人近くに達し、ルペンの得票はマクロンの2倍の52%を獲得、2022年の大統領選では57%を記録した。
当初、グローバリゼーション擁護のマクロン大統領も、”未来技術のフランスへの産業再編成”へと政策を変更、この地域では台湾企業などと協力して新たに3箇所のバッテリー工場の建設と20,000人の直接雇用とそれに伴う間接雇用の創出を目指している。
ACCはステランティスとメルセデス、トータル・エナジーズの所有だが、8億4千万ユーロ(9億1千万ドル)の政府補助を受けて従来のステランティス工場を改修して再発足したものであり、従業員数は従来の6,000名が1,400名に減員しているが、近く700人を採用予定にある。
先週の議会選挙ではルペン派の国民連合候補が「電気自動車はエリートのためのものだ。温暖化対策とするガソリン車廃止のEU政策を変更させる」と主張して60%近くを得票した。また住民は、近くのカレー海峡周辺に見られる移民問題と犯罪への心配も強い。
国民とマクロン大統領との距離感が拡がっており、住民の苦労への無理解、退職年齢の62歳から64歳への引き上げ、エネルギーなどの物価対策の失敗などにより、物価引き下げを公約する国民連合に賛同が強まる。