世界各地の熱波失業保険
6月5日のニューヨーク・タイムズは近年の熱波襲来で働けない労働者のための「熱波失業保険」について次のように伝えている。
世界各地を熱波が襲う近年、被害に曝される人々を保護する実務的な仕組みが求められているが、それは新技術を必要とせず、既存知識の活用で足りるものと言えそうである。
熱波被害は各地の労働現場だけでなく、宗教巡礼や旅行、選挙関係者などにも及び、米国でも救急医療への駆け込みが急増しており、世界気象機関(WMO)からは過去最大級の自然災害とされており、対策が急務とされる。
この被害に注目したのがギリシャ・アテネの気象庁で働くケラミツォグルー医師だ。同僚たちと協力して各地の熱波を探知するアプリを開発、携帯電話にリアルタイムの気象情報、避難先などを伝える。Extrema Globalというアプリに自分の場所をインプットすると、外部気温、空気清浄度などが色付きで表示され、避難先の公園、プール、泉、エアコン付き公共機関などの地図が表示され、選択先への最短で涼しいルート、休憩場所なども提示される。アテネでEGアプリが開始されたのは2018年だが、その後パリやミラノ、ロッテルダム、メルボルン、バルセロナにも採用されてきた。
こうしたアプリに失業保険制度を付け加えるアイディアは、米国のNGO、”CLIMATE RESILIENCE FOR ALL”の気候ファイナンス専門家、キャシー・マクレード氏で、彼女は25万ドルを集めて2023年に試験的なプログラムとして開始。今年には露店商人や低収入農家、ごみ収集労働者など5万人が加入した。仕組みは「気温が危険レベルに達すると予測されると被保険者の携帯電話にメッセージが送られ、気温が危険レベルに達すると、保険金が支払われる」というものだ。
こうした一例に、インドのアーメダバードでごみ収集に働く55歳の女性、アヒーアさんが紹介されている。彼女は夜明け前から働き、リサイクルできるビンや缶を売るなどで得る1日の収入は平均200ルピー(US2.4ドル)、これが熱波の日には半額も稼げず、日中の労働も困難となる。こうした中で所属する自営業女性協会(約290万人)から紹介されたのがこの制度だった。保険料が年間200ルピー(1日の給与相当額)であり、20年前に加入した信頼出来る協会からの紹介なので、試しのつもりで加入したという。今年5月、気温が摂氏40度(華氏104度)を記録した3日目に彼女の銀行口座に400ルピーが支払われ、彼女はそれで薬と野菜を購入、6月の華氏115度の日々には750ルピーが支払われ、家賃を支払った。
これとは別に法律改定を要求する活動がある。
米国ワシントン州では、州の農業労働組合(Familias Unidas Por la Justicia(FUJ))が異常熱波や森林火災の煙の中で働く農民家族への保護活動を行っている。2008年に華氏89度を記録した場合の休息と水分補給、有給休暇が法制化され、その後の努力で2023年には基準が華氏80度に引き下げられた。こうした屋外労働者保護の法律はワシントン州など5州程度(全体の10分の1)に過ぎない。残念なことに近年、テキサス州とフロリダ州が離脱している。
ILO(国際労働機関)も農業と建築現場の約24億人の労働者が最も厳しい状況にあると発表している。