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スターバックスに見る労働運動の進展

2024.07.04掲載

6月26日のニューヨーク・タイムズ(NYT)はスターバックス社における労使交渉の進展状況を次のように伝えた。

米国の労働組合はここ数年、自動車産業やハリウッドで大きな勝利を収めてきたが、労働者の真の勝利と呼ぶためには、新規労働者の獲得による数十年にわたる組合員減少への逆転が起きねばならない。

その点で、スターバックス社の労使交渉は重要な意味を持つ。
同社では10,000店舗のうち400店舗に組合が結成され、現在賃金や諸手当、会社規則についての労働協約を締結する見通しだ。これが重要な点で、労働組合が出来ても会社が労働協約締結に同意せずに数年が経過すれば、組合員は熱意を失い、組合解散ということになるが、協約が出来れば組合員の熱意は拡がり、スターバックス全般、さらには食品飲料業界など組合の無い業界全般への組合結成につながる。

スターバックスでは2021年にバッファロー店で最初の労働組合が結成されて以来、シュルツ前CEOは従業員に対し「外部の扇動家に誘惑されないよう」呼び掛けてきた。それが今年2月、労使双方が突然に協約交渉の開始を宣言することになったのだが、そこに至る経過には4つの鍵があった。

1つ目は、同社従業員に若者が多く、労働組合を受け入れやすい環境にあったことだ。
2022年に、シュルツCEOが労働組合員以外への手当制度を発表した時に減速した組織化も、組合活動家たちがLGBTなどのような自由主義的権利闘争として打ち出した2023年には、100店舗を組織化してメディアへ話題を拡大、会社側の交渉引き延ばしを困難にさせた。

2つ目は、シュルツCEO(数十年のCEO業務を2018年に辞任して2022年に再復帰)が引退を決意して、後任に消費者向け健康・栄養関連製品業界からのナラシムハン氏を選んだことにある。新CEOは労働組合と戦うよりは協調していくほうが費用が安いと考えているようだ。

3つ目は、社会責任を重視する投資家からの要求で作成された同社報告書に、労働者の権利を軽視する事実が記載されていた。労働組合は同社役員会に労働組合に理解を示す3名の役員を選任させるための圧力をかけた事だ。また、ガザ侵攻に絡んで同社がパレスチナ支持だとする各種情報が発生して同社に抗議が集中する事態が起きた事もある。これらの要因が重なり、同社は新役員選任の株主総会の前に、労働協約締結への労使交渉を開始することになったが、新CEOは「抗議活動やボイコットは事実と異なる。しかしこうした事態は事業に悪影響がある」と述べている。

4つ目は、政府からの支援だ。米国労働法の強制力には弱さがあり、不当労働行為による労働者解雇の場合に給与面の保障は命令できるが、使用者への罰則はなく、労働関係員会の審理には数年を要する。そうした中でも、民主党政権下で活動的な同委員会はスターバックス社に対し100件以上の提訴を行い、不当解雇とされるケースでは、復職させるため裁判を起こしている。但し共和党任命多数の最高裁からは一部差し止めの判決が出ている。
さらに委員会は「労働組合の選挙結果に使用者の労働法違反の影響がある場合は労働組合の成立を命令する」とまで言い始めている。しかし同社は一貫してこれを否定、不服としているが、労働組合との戦いに経費は増すばかりとなる。