活動報告 各国の労働事情報告

2024年度 フィリピンの労働事情(フィリピン・マレーシアチーム(英語部))

以下の情報は招へいプログラム「フィリピン・マレーシアチーム(英語部)」参加者から提出された資料をもとに作成したものである。

参加者情報

フィリピン労働組合会議(TUCP)

フィリピン全国労働組合(NTUC Phl)

はじめに

フィリピンは、自然災害(火山噴火・熱波)や新型コロナウィルスの大きな影響を受けた。フィリピンの製造業は国外からの部品調達によって成り立っており、新型コロナの影響による物流コストの上昇と原材料不足は大きな負担となってサプライチェーンは混乱した。この経験から、フィリピン製造業の中には生産や物流の体制を見直し、国内での生産や調達に切り替える企業が増えている。
就業人口の約8割はサービス業と農業で残りが工業という構造はここ数年大きな変化はない。人口の約10%は海外出稼ぎ労働者であり、GDPの10%は海外からの送金により成り立っている。
2024年4月から、フィリピンは異常な熱波に襲われており、学校の授業もオンラインとなって、ネット環境を保持できない家庭の子供たちの教育格差問題も生じている。
フィリピンにおける労働法は、労働者保護の観点から労働者有利な法律となっている。特に、使用者による労働者の解雇については、法律によって限定された事由がある場合のみに認められる内容となっている。また、各種社会保障制度への加入については、義務化されており労働者に配慮したものとなっている。

以下、本レポートは今回の参加者からの報告要旨をまとめたものである。

フィリピンの労働事情

(1)社会保障制度の現状

フィリピンにおける社会保障制度は、共和国法、社会保障法、ユニバーサルヘルスケア法などによって規定され、政府関係機関(社会保障委員会)によって管理運営されている。アジアの近隣諸国と比較すると、その内容は充実しておりSSSによる年金制度(年金、雇用、出産)、健康保険、持ち家促進相互基金に分かれている。

  • 年金制度は、60歳以下の全ての民間労働者と使用者を対象に労使双方が保険料を負担するが政府による公的援助はない。
  • 保険制度は、フィリピン健康保険公社が運営して労使双方の負担と投資、公的支出から成り立っている。
  • これらの保険料を使用者が不払いの場合、罰金や代表者の禁固刑も規定されている。

(2)組織や職場で最近取り組んでいる労働問題

  • 不当労働行為
    • 労働組合結成時に、労働組合結成の権利が労働者にあるのを知っていながら、会社側が介入して邪魔をする。具体的に、役員選挙の妨害やハラスメント。
    • 労働組合への嫌がらせとして、不当解雇、非正規従業員の増員と正規従業員の減員、アウトソーシングなど。
  • 労働協約(CBA)違反
    • 労働協約の条項に対して、会社側の有利な解釈に変える。
    • 労働安全衛生問題としては、薬品の取り扱い事故(有害化学物質の曝露)や機械操作に関する事故(挟まれ、巻き込まれ)、車両事故が多発しているが、情報提供やジョブトレーニングが必要なのに実施されていない。
      これらを政府が監視するシステムがあるが機能していない。
  • 賃金問題
    • 低賃金、不払い、最低賃金を遵守しない、時間外手当や賞与の未払いなど。
    • 最低賃金は地域ごとの格差が大きく不公平。
    • 現在、上院下院において時給を引き上げる法案を審議中であるが、上院と下院の引上げ幅が異なり混乱。これとは別に、船員のための処遇改善条項も審議中である。

(3)NTUC phiに加盟する日系企業(エレクトロニクス関係)労組による事例報告

全従業員2,153名のうち労働協約(CBA)対象人員1,269名(組合員710名、非組合員559名)管理監督者884名の製造業が、昨年9月に発効した賃金命令第19号と第20号の取り扱いをめぐって、会社との見解の相違が生じ「全国連合調停委員会」に提訴。
これは、最低賃金の引上げとCBAによる引上げに加え人事考課によって新入社員の給与が、長年にわたって会社に貢献してきたベテラン社員の給与に急接近して、賃金構造に歪みが生じ、これを是正するために提訴。
この中で、会社に対する組合員の長年の努力、会社への貢献、生活費の上昇、職務間の格差などについて、強く主張して公平な賃金の取り扱いを提唱。4回にわたる労使協議の末、法律部門の介入無しに労使の誤解が解けて新しいCBAも合意、結果として大幅な賃金の引き上げを勝ち取った。会社側は労働組合に感謝して、組合員だけに特別賞与も支給された。これをきっかけに労使による対話の場が設定され、お互いを信頼し尊重する関係が構築できた。

(4)労働法制

フィリピンの労働法制の基本は1974年に制定されたフィリピン労働法である。この法律は労働者保護に重点を置いたものとなっており、他の東南アジア諸国とは異なりすべての労働者に適用され、とりわけ有期契約労働については特に厳格な仕組みとなっている。また、解雇については法で定められた事由がある場合のみ認められ、各種社会保障制度への加入が義務付けられているなど労働者保護に配慮されている。

主な規定は
・賃金
・労働条件および休息期間
・採用と雇用の終了
・労働者の健康と社会保障